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負け犬無双

負け犬無双★負け犬であるかぎり俺は無敵

ググ=アルバローザ

それは勝ち組な負け犬キャラの名前であり、今の俺の名だ。


俺はググ=アルバローザとして転生してしまったらしい。


言葉にすると、猛烈に意味がわからない気がするが、まぁ仕方ない。


ググはとあるゲームの噛ませ犬ポジションを担うキャラクターなのだが、そのゲームの名前が重要だ。


その名前は

『ニルカディア』










『ニルカディア4』

『ニルカディア5』

『ニルカディア6』

『ゲルニカ・クロス』

『カラウド・クロス』

『ドライム・クロス』

『ムラサキ・クロス』

『ニルカディア7』

『ニルカディア8』

『ニルカディア9』

『ニルカディア10』

『ニルカディア11』

『ニルカディア・オリジン』

『サーフィケイト・ニルカディア』

『サーフィケイト・ニルカディア・オンライン』

『ニルカディア12』

『ニルカディア12アナザーサイドA』

『ニルカディア12アナザーサイドK』

『クロス・ハーツ』

『クロス・ハーツ2』

『クロス・ハーツ・エターナル』

『ニルカディア13』

『ソーシャルゲーム・ニルカディア・13』



俺の記憶では、『ニルカディア14』も予定されていた気がする(ググが出演するかは分からないけど、たぶん出る)。



上記の作品全部に同一人物としてググは出演しているのだ。


なぜググがこうも粘着性かつ執拗に起用されるのか?


それは空白の『ニルカディア2』と『ニルカディア3』に理由がある。



最初にそこそこ売れたらいいやと比較的気楽に作られた『ニルカディア』が爆発的なヒットを飛ばしたため、シリーズ化するべく『ニルカディア2』が作られた。



今度は酷評とブーイングの嵐だったらしい。


それにも懲りず『ニルカディア3』を売り出すも、ほとんど売れず。ゲーム会社は大打撃。


シリーズを諦め、提携雑誌の応募券分、数量限定で作られた最後のゲーム『ニルカディア4』。


なぜか社会現象かというレベルで売れた。


実際、追加作成するまでは『ニルカディア狩り』とかが発生したらしく、ゲームショップではニルカディア4が定価の何倍にも跳ね上がった値段で売買されたそうだ。


1と4にあって、2と3になかったものは、ほとんど無かった。



同じイラストレーター、同じシナリオライター、同じグラフィッカーに同じ音楽担当を起用した、多少の人員の違いはあるものの、ほぼ大差のない、同じチームだった。



何が違ったのか?



そういえば『ニルカディア4』は、イラストレーターが「これぞ噛ませ犬(笑)」とか言って1の脇役キャラクター・デザインを再び起用していた。

グラフィッカーにしても「漂う小物臭をうまく再現できた」と地味に内輪ウケをしていたのを覚えている。



いまいちパッとしない、いかにも他愛ない脇役キャラで、本編には全く関係なかったが、





違い、……………こいつじゃね?





かくして「噛ませ犬ググ」はラッキーアイテムというか、験かつぎに起用される運びとなってしまった。



ググを出演させ続けた『ニルカディア』シリーズは曲がりなりにも売れ続けたため、同社の打ち出した新作である『クロス・ワールド』にもスピンオフ出演(もちろん噛ませ犬役)


出演作が増えていくにつれ些末ながらキャラ設定も増えて行き。


名前はググ。

広大な領地を持つ、金持ち大貴族であるアルバローザ家の長男に生まれ、鳴り物入りで騎士団学園に入る。

しかし歴代主人公たちに無様に負け続け、クラス落ちを続け、あげく“アルバローザの恥さらし”として放逐。


冒険ギルドの口だけ新人を経て、自称一流の冒険者(笑)として主人公たちに惨敗する恥辱と失笑に満ちた負け犬ライフが設定された。



という時代設定がなされてしまった。

時代設定(公式)である。



本来パラレル設定だった『ニルカディア』を一個の世界として統合し、ググの年齢(グラフィックの雰囲気)を基準に、だいたいの時系列を定めたのである。


『ニルカディア』はググの人生を基準に並べ替えられる構造にされてしまったのだ。(ググ基準で“オリジン”が最古、“4”が最新設定)


本編11作+スピンオフ7作+番外編5作の最低23回。おれは主人公に膝を屈し、踏みつけられる。そうでなければニルカディアはニルカディアたりえないのだ。


この世界がニルカディアである限り、無様な敗北を繰り返す運命。


オンラインやソシャゲのPCまで主人公に含むなら、おれは何千人、何億人もの主人公たちの前で虫のように這いつくばるために生まれた『ニルカディア』の奴隷なのだ。



そんな運命は嫌だった。

運命に抗うため俺は努力した。


技を磨き、自分を律し、息を潜め、媚を売り、愛想を振りまいては主人公たちに近付かないよう努力した。

しかし『ニルカディア』は残酷だった。


ちょっと絶妙なタイミングで全てが噛み合い。間の悪い主人公たちに遭遇、いさかいになれば必ず敗北する。


技量的には余裕で勝てるとタカをくくった途端、足元に生えていた良くわからんキノコ(丸い。小さい。ぬるぬる)を踏んづけてスッ転び、そこをボコボコにされる。


流れ弾(騎士団で流行っている球技のボール。頑丈な木製)が脳天にブチ当たり、悶絶している隙にボコボコにされる。



通りすがりの生徒(ナルシスト。いつも鏡で自分を見てうっとりしている)が持ち歩いていた鏡の反射に目を射られた隙にボコボコにされた時、俺は運命に抗うのを諦めた。



ニルカディアはググを離さない。

主人公たちの噛ませ犬にするため、その死すら許さず俺をもてあそび続けるのだ。




そんな絶望におちいっていた俺に、腐れ縁の親友ニコルは呆れながらも忠告をくれた。


ちなみにニコルは下町のギルド役員の息子で庶民。

俺が訓練と称して下町に遊びに出かけた際、仲良くなった幼馴染みだ。


騎士団学園で再開して喜んでいたら、オリジン主人公に『大貴族が庶民をイジメている』と誤解され、ボコボコにされたが対等な友人関係である。



「うんにゃ、ググって何気に凄ぇよ」



「言うなニコル………俺は運命に敗北したんだ」



「あーうん。そこじゃあなくてさ、悪運っての?ググ生き残りっぷりが半端ないじゃん」



「何回も死にかけているぞ?」



「何十回だろ、実技遠征でさえ、そう何回も死にかける奴はいねぇよ


――――だいたいの奴は、一回で死んじまうからな」







親に貼り付き、ギルドにたむろする冒険者やごろつき達を見てきたニコルは、命の儚さを嫌というほど見知っていた。


生き残る者、死ぬ者、運よく生き残っても致命傷を負わされたり、死相が消えない者。



ニコルの目から見たググは、典型的な死に急ぐ者だった。

身の丈に合わない挑戦。

無茶な特攻。

誰も受けない、割に合わない依頼を取っては歩けなくなるほど疲れきって帰ってくる。


危険なダンジョンでの遺品回収をしたがる依頼人の護衛を引き受けたり、治療薬や食料品を届けるべく、伝染病が流行って封鎖された村に潜り込む事さえした。


ニコル自身、ググの無茶によって助けられた事もある。



実技遠征の際、仲間を庇って足に致命傷を負ってしまったニコルは、ダンジョンの最奥で置き去りにされてしまった事があった。


生徒や見習い騎士仲間の技量ではここに来るのは無理だろう。


正騎士なら可能かもしれないが、遠征先であるダンジョンに到着するまでに3日は必要だ。



痛みすら麻痺してきた足を引きずり、半ば死を覚悟したニコルを助けに来たのはググだっだ。


重い長剣や防具を捨て置き、小さなナイフと治療薬、水と食料だけ抱えての速駆け。

そんな無茶をしながらも、運よくニコルの元まで辿り着き、治療後は騎士が救助に来るまでの4日間、ひたすら逃げ隠れして生き延びる事ができたのだ。





ググが薬を持って来てくれなければ、ニコルは持たなかっただろう。


正騎士達も大貴族であるググを助けるために、急いで駆けつけた事も重要だ。




だが、それだけでは無理なはずだった。






4日の間、何度となく魔物に出会い、襲われた。


血の臭うニコルと、固い鎧も鋭い剣も持たないググなど、美味しい獲物以外の何でもない。


何度も何度も襲われた。

何度も何度も死ぬかと思った。



だが、死ななかった。




「ググは『負けた』『負けた』って言うけど、守られてるよう見えるぜ?

その運命とやらに」










ニルカディアの世界は残酷だ。

俺を踏みつけて行った、多くの主人公達には、残酷な未来と悲劇的な死が待ち受けている。


愛し合う主人公カップルは互いを血で染め合い、主人公親子は絆に気付かず憎み合い、別の主人公は親友に裏切られる。


故郷を、信じる仲間を、生まれ育った町を。

命より大切なものを次々と失い、世界に絶望する運命が待ち構えている。


回避は難しいだろう。


ニルカディアは主人公達の悲劇によって(つむ)がれるサーガなのだから。




だがググは違う。

ググに求められているのは噛ませ犬である事。

残酷な未来と悲劇的な死の運命ではないのだ。



運命がググに求めているのは、主人公に負け続ける事。


オンラインやソシャゲのPCまで主人公に含むなら、おれは何千人、何億人もの主人公たちの前で、虫のように這いつくばるまで“生き延びる”事なのだ。



ニルカディアがニルカディアであるために、ググを主人公に敗北させ続けるためにも、ニルカディアは俺を守らねばならない。あらゆる危険から、

疫病から

災いから、

餓えから、

寒さから、

絶望から、

死の運命から。



ニルカディアというゲームにおいて、敗北とは戦いに負ける事だった。だが、ニルカディアという世界において、敗北とは死ぬ事だ。

補正の恩恵を受けた主人公達の運命は、ほぼ決まっているのに対し、同じく補正の呪いを受けた俺の運命は真っ白といっていい。



失敗は、するだろう。

故郷を失うかもしれない

信じる仲間を死なせ、

生まれ育った町を焼かれ、

大切なものを次々と失うかもしれない。



だが、そうと決まったわけではない。

俺は悲劇を運命づけられた主人公ではない。



生き続ける運命をかせられた、勝ち組な噛ませ犬、ググ=アルバローザなのだから






ニルカディアの歴史には(つづ)られる事のない俺ことググの、屈辱と失笑にまみれた、無様で、格好悪い、それでいて可能性に満ちた、かけがえのない自由な明日が始まろうとしていた。

悪役補正と真っ向から対決する話、 受け入れて悪役し尽くす話は読みましたが、悪役補正を利用して楽しむ話がないなーと思って考えた。

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