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青春ダイヤリー  作者: 侑李
8/8

第八話 戻れない時間

部室へ行くことが少なくなったことで、僕の日常は教室と家の自室をただ往復するだけの簡素でつまらない繰り返しへと逆戻りした。

自分の今までの努力とか時間とかその他諸々が無駄になってしまったショックが強くて、とにかく何もする気が起きなくなった。図書館喫茶へも足を運ぶのが億劫だった。


10月下旬。

気温は低くく、秋をすっ飛ばしたかのように冬の冷気が外を満たしている。

学校へ向かう途中にあるコンビニで買ったオニギリを食べながら、「もう外で朝ごはんを食べるのはキツイなあ」などと僕はため息をつき、空の袋をゴミ箱へ投げ込んだ。

特に目的もなく、頭良くなるためでもなく、無意味にただ世間体のために学校へいくというのは本当に辛い。学校へ行ったって、ただ時間が過ぎるのをじっと耐えるだけなのだから。

そう思うと、学校へと歩きだした足が重くなったが、それでもやはり行かなければもっと駄目になる気がして仕方なく歩を進める。


学校へ着くと、正面校門の右側にあるB棟付近に人が集まっているのが目に付いた。

そういえば、最近中間テストがあったか。僕の高校では毎回学年ごとに高得点者がランキング形式で張り出される。

やっても無駄ならやらないほうが自分自身に言い訳が出来ると、特に勉強をしていなかったので、テストがあったことさえ忘れていた。


「ああ、今回も駄目だった」

「やった、10位以内~」


自分の名前があるはずもないので僕は騒がしい群衆を無視して、その場を通り過ぎようとしたその時、


「やっぱ今回も学年トップは神谷かあ」

「そりゃそうでしょ」


という男子学生の声が聞こえてきた。

先輩の名前が出たことで僕は反射的に振り向いてしまった。その男子学生の集団が馬鹿そうに「すげー」と声を上げるのを無視して、順位が張り出された掲示板へと近づく。

2年のランキングを見ると、1位の横に神谷詩織の名前がある。

1位。

凄いと純粋に思う気持ちと同時に、何だか悲しくなった。結局先輩は僕が居ようと居まいと変わらない。学年トップが必然な事のように、完璧超人なのだ。僕がいなくなっても落ち込んだり、悲しんだりすることはないようだ。

先輩が楽しそうに僕を馬鹿にする笑顔がふと頭のなかに浮かんだが、はっと正気に戻ってそれを打ち消す。


僕は何やってるんだ。未練がましい。これじゃストーカーじゃないか。

もうどうやったって、あの楽しかった日常は戻らないんだ。


僕は自嘲気味に情けなく笑って、校舎へ向かって歩き出した。




自分一人だけが落ち込んで駄目人間になっている現実を思い知らされたことで悔しくなり、その日の帰り、久しぶりに図書館喫茶へ行った。


僕は一人でも大丈夫のだと自覚するための強がりで足を運んだだけだったが、店に入って気がついてみるとまた例の窓際の席に座ってしまっていた。

無意識でも誰かと繋がろうしてしまう自分の弱さが少し恥ずかしくもあり、思わず自嘲した。


まあ、しょがないか。元々友達が欲しくて試行錯誤していたわけで、それを今更恥ずかしがるのは馬鹿らしい。


僕は席に備えてられた三冊のメモ帳のうちの一冊に手を伸ばした。


新しいページには仮の友達である彼女のメッセージが残されていた。何の知らせもなく急に連絡が取れなくなった僕へ必死で再び接触を持とうとするように、日を空けて何度も書かれていた。

これは申し訳ないことをしたなと反省し、急いで謝罪の言葉を書き込んだ。


すると、翌日にすぐ返事があって僕を責める言葉が長々と並べられていたが、最後には「連絡が取れて本当によかった」とツンデレ攻撃があって、僕は自分が必要とされているという初めての感覚を味わい嬉しかった。



その日から、彼女とのメモ帳を通したやり取りは再開された。中断していた小説もまた書き始めた。

公の誰でも書き込め閲覧出来るメモ帳でのやり取りに僕ら以外の誰も干渉してこないことが時々これはもしや僕の妄想かと不安にもなったが、それでもいいと思えるほど彼女とのやり取りは楽しかった。回数を重ねるごとに、僕の中で比重が大きくなり、日々の生活の大半を占めるようになっていった。

姿が見えないことの安心感というか、言葉のみだからこそ自分の本当の弱い部分をさらけ出さずに済む気楽さが、僕には麻薬のように効き、のめり込んだ。


しかし、僕はのめり込むべきではなかった。夢中になっていたからこそ、簡単なことを見落としていたのだから。




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