美少女怖い
電撃チャンピオンロードお題『復讐者』で書いた作品です。
朝、いつもと変わらぬ日々の幕開け。
目覚めると見知らぬ女の子が俺の腹の上に跨っていた。
「あ、やっと起きたぁ」
彼女はくりっとした瞳を輝かせて嬉しそうに言うと、俺に抱きついてきた。
「もぅ、なかなか起きてくれないんだもん。お兄ちゃんってば」
お兄ちゃん……? そういう『設定』なのか。
「ああ、ごめんごめん。それで君の名前は何だっけ?」
「あーひどーい。妹の名前も忘れるなんてー。まだ寝ぼけてるのかなー? えいっ」
ぷにぷにとした頬を顔に押し付けてくる。心地よい感触。彼女の身体から漂う芳醇な薫りが鼻腔をくすぐる。もう少しこのままで居たいところだが……。
「おっはよう! 充ガッコ行こ?」
またもや見知らぬ少女が窓から入ってきた。ちなみにこの部屋は二階にある。
「あ、まだ起きてなかったの? コラ美玖、どきなさいよ。充が起きられないでしょ」
「きゃん! もー、奏ちゃんひどいよー」
奏と言うらしい少女は美玖と呼ぶらしい妹を俺から引き剥がすと、勢いよく布団も引き剥がした。どうやら『お節介な幼馴染』という『設定』のようだ。
「さ、早く着替えて……って。いや~っ!」
下着姿の俺のある一点に目を留めると、奏は真っ赤になって叫び出し、慌てて部屋を出て行く。
美玖は頬を赤く染めて顔を手で覆っていたが、指の隙間からこちらをバッチリ見ていて、口元は笑っている。どっちもベタで分かりやすい反応だ。
「あー、お兄ちゃん着替えるからちょっと出てってくれるか?」
残念そうに美玖は部屋を出て行った。
「ブラーボウッ! スバラシーッ! 呪いSA・I・KOOOO!」
部屋に一人残った俺は思わず絶叫していた。
俺がこんな幸運を手に入れたのは昨日に遡る。
俺が通う高校に古代の悪霊が復活した。俺の先祖が封じたもので、その封印が解けたのだ。
細かいことは省くが、先祖が残してくれた古文書と、なぜか俺にあった退魔師としての力を使い、この悪霊を再び封印することに成功した。
だが古文書によればこの悪霊は封印の際に封印者に復讐の呪いをかけていくという。
封印者が最も嫌うものに一生付きまとわれるという呪いだ。
実際、そいつは封印される間際にこう言った。
「汝の嫌うものは何だ?」
俺は答えた。
「美少女が怖い! 美少女に言い寄られたり、いちゃいちゃされるのが一番怖い!」
「汝に災いあれ!」
そう言い残して消えて行った。
どうやら悪霊は落語の『饅頭怖い』を知らなかったらしい。朝、起きた途端にイベントとは。
これからの人生が充実したものになりそうだぜ!
登校中、いくつかの曲がり角で美少女とぶつかる。いずれも相手は尻もちをつき、魅惑の三角地帯を俺に見せてくれた。「み、見た?」と言って慌てて内股になるのもお約束。
俺は「見た」と言ったり、「見てないよ」と目を逸らしたり、「何のこと?」とはぐらかしたり。イベントは楽しまなくちゃな!
その後も保健室で美少女と二人っきりだの、図書委員の子と知り合うだの、行く先々でイベントが起こった。
周りの野郎共の羨ましがる視線がたまらなく気持ちがいい。何て言うかモテる者の余裕ってヤツ?
さすがに風呂に入っている時にバスタオル一枚で知らない女の子が背中を流しに来た時には驚いたが。
いやいや、これくらいの事で慌てふためいてはいけないな。これから先もっと凄いことが起こるかもしれない。
素晴らしきかな、呪われたハッピーライフ。悪霊の復讐様々だぜ!
後はフラグを回収するのみ!
期待に胸膨らませ、俺は眠りについた。
一月後。
朝、いつもと変わらぬ日々の幕開け。
頬がこそばゆい。目を開けると、渚ちゃんが俺の頬におはようのキスをしてくれていた。
開いた窓から冷たい風とともに、若菜ちゃんがやってきて俺の布団の上に乗る。
「おはよう、渚ちゃん、若菜ちゃん」
俺は二人にキスをしてあげる。熱を全く感じない、それだけで安心できる。
渚ちゃんの塗装が剥げ、若菜ちゃんの唇に穴が開いた。濃厚すぎたか。ごめん。
渚ちゃんは美少女フィギュアで、若菜ちゃんはポスターだ。
俺は現実の美少女に興味を持てなくなっていた。
少女たちは本心からそうしていたのではなかった。呪いにかかっているのは俺で彼女たちではない。一旦俺から離れた彼女たちは呪いに動かされていた時の事を覚えていて、俺から距離を置くようになった。
俺にデレデレしていた子が蔑んだ目で俺を見る。そっちの方が本心なのだと知った時の深い失望感。
けれど二次元の美少女は違う。常に変わらぬ態度で接してくれる。
俺が現実の美少女から二次元の美少女に興味を移すと、呪いで動く相手も二次元の美少女になった。俺が何を美少女とするかで変わるらしい。
フィギュアが寄ってくる。ポスターが飛んでくる。抱き枕だって。
愛されている喜びを感じる。
リアルにはもう興味は無い。
「美少女怖い」のだから。




