宰相の働き
部屋に戻ったアンナは椅子に深く座ると昨日の出来事からの疲れにぐったりとしてしまった。
「お疲れのようですね」
その声に驚き、扉のほうに目をやると宰相であるルークが扉に立っている。
「すみませんね。あなたに告げずにこのようなことになってしまいまして、私からもお詫び申し上げます」
謝りながらも微笑みを絶やさないルークはそのまま歩いてきて、アンナの前の椅子に座った。
「ちゃんと話しておけば、あなたもあのメイドももう少しうまく立ち回れたかもしれませんね」
「なんなんですか。いえ、けど私も浮かれていたのかもしれませんね。何があっても陛下が守ってくれる、今の私を脅かす相手などいないって…けど貴方がいればこんなことにはならなかったのではないでしょうか?」
ルークはそうですね、と足を組んだ。
「もちろん、わかってましたよ。まあ賭けのようなものですよ」
余裕なルークの姿にアンナはいら立った。
「賭けって!そのせいで陛下も謝ることになったんですよ。それに貴族の方々に示しが…」
「だからですよ…賭けは負けましたが。もともと陛下はリディア様のことになればいつも感情的になられますからね。そこをつかせていただいたのですよ。陛下には申し訳ありませんが、私たち臣下としてはなるべくイシュベルを孤立させたいんですよ」
王公爵家は貴族からも王族からも嫌われている。
だが王族からのあたりがきつくなれば貴族が、貴族からのあたりがきつくなれば王族がかばうそんな変な関係にある。
なぜと問いかけられれば誰もが首をかしげるだろう。
今回のこともそうだ王族から受けた仕打ちに貴族が怒った。
できれば傲慢な彼女が醜く罵ってくれればよかったものだがうまくはいかないものだ。
今回のことの発端は宰相であるルークが裏でからんでいた。
「だけど、今回のことで王族のほうが心証が悪くなりましたよね?」
「ええ、今だからこそ行ったんですよ。イシュベルは今存亡の危機になっていますからね。ほかの貴族たちも動いていますよ。誰だって望んでいるんですよ、イシュベルがいなくなるのを。今跡継ぎのいないイシュベルを…知っていますか王公爵家といえども完璧ではないんですよ。イシュベル家を継ぐのは直系または純血のみなんです」
「それがどうしたというんですか?」
「有名な話、一年前リディア様の兄であるイシュベル家の跡継ぎがなくなりました。だが、リディア様は女性なので跡継ぎになることはできません。だから夫を迎え、その子供が後を継ぐことになるのです。王妃になるのであれば自身の息子を生家に迎えることは禁じられています。なんといったってこれほど力を持っている家にそこまでできませんしね」
「ならほかの純血に当たられる方々がつがれるのでは?」
「そうもいきません。もともと純血を保つためだとかで一部では近親での婚姻を続けていたため子供が生まれなくなったんですよ。唯一純血の夫婦もおられたのですが、早くになくなられているため、イシュベルが生き残るにはリディア様にかかっている。本当にイシュベルは何を考えているのか全く分からない」
そうルークにはわからなかった。
イシュベルは何を求めているのか、リディアは何を欲しているのか…