謝罪と要求
時間がない…
王公爵家に関しては早急に手を打たねばならないということで、すぐに謝罪に向かうことになった。
その道すがら「あぁ何で俺までいかにゃあならんのだ」アンナの後ろからついてくる男が大きな声で言った。
男はゲイルという名の騎士で旅芸人の護衛をしていた男で一年前に志願し、その剣技を買われアンナの護衛をいいつかっていた。
「何だかしらねぇが、単なる令嬢さんに謝りに行くだけで俺が来なくてもいいんじゃね」
「単なる令嬢じゃないからお前にもついてきてもらってるんだろう。あいつの前ではその口調はやめろよ。つけいれられる」
「おいおい、どんな令嬢さんだよ。まったく」
貴族世界を知らないゲイルはそのまま大きく欠伸をしている姿にジェイクは呆れ、他は苦笑をしていた。
リディアの部屋に入るとリディアは立って皆を迎えた。
「ようこそおいでくださいました。それにしても何の御用かしら」
そういって首をかしげるリディアにジェイクはいら立ちを隠せないでいる。
「…忌々しい奴だ。わかっているんだろう。謝罪だ」
リディアは最後に入ってきたゲイルに一瞬目を向けたが、そのままジェイクやアンナを見据えた。
その時誰もゲイルがリディアを見て大きく目を見開いたことに気付く者はいなかった。
「今回は俺が悪かった、許せ。アンナはなにも悪くない」
ジェイクは片言で頭を下げるがリディアはふふっと笑うだけだ。
「あなたが頭を下げる。それだけでも笑えるわね。まぁ今回のことでアンナ様がどれだけ妻気取りなのかわかりました」
「私そんな…」
ジェイクの隣でアンナは首を振った。
「ほら今だってジェイクと一緒になって謝りに来られるなんて、よく守られているようね。見てて本当いけすかないのよね、わたくし」
「おい、リディア!昔から権力を振り回し好き勝手やっている、お前のほうがいけすかないぞ」
アンナに矛先が変わって少し焦るジェイクだがリディアはそこで首をすくねた。
「持っているものを振り回して何が悪いのですか?…戦わなければ、私は王公爵家なのですから、まぁこれ以上王家と貴族の中が悪くなるようなことは、私にとっても良いことではないので私がここは納めておきましょう」
やれやれといった風情のリディアにジェイクを含めたそこにいる者たちは、心の中でお前が発端だろうとわめいていた。
「謝罪はもういいです。ということでその代わりにそこの男を私にくださらない?」
リディアはそういうとゲイルを指さした。
「はぁ!?」
リディアのその言葉にゲイルはほほをひきつらせた。
「…なんでだ?」
急なその要求にジェイクはいぶかしげにリディアを見た。
この女がゲイルのような粗野の男を欲しがるようには見えない。
何よりも血統やらにこだわる女だからこそ怪しすぎた。
「そうですわね、わたくしには護衛が付いていないなんておかしくはございません?そこの方はジェイクがアンリ様に遣わしたのなら、腕は立つのでしょう?私ほどの身分となりますとやはりそこそこ腕の立ち方ではなくてはいけませんから、という理由ですかね」
「おいおいこの流れじゃあ俺確実に贈呈されそうじゃね?」
ゲイルのぼやきは皆に無視された。
「わかった、いいだろう。だが、もう一つ何で来たんだ?」
ジェイクはリディアには視線を向けず床を見ながらといかけた。
「王公爵家であるわたくしは自分の欲しいものはすべて手に入れますわ」
リディアははっきりと答えその答えにジェイクは知らずに唇をかみしめた。
「王妃の座か…お前が選ばれることなど決してないのだ。さっさと出ていけ!いくぞアンリ」
そう吐き捨てると戸惑うアンリの腕をつかんで挨拶もすることなく出て行った。
ルークとキリはゲイルを置いてその背を急いでおっていった。
「おいおい、まじかよ…」
去っていく背にゲイルはつぶやいたが大きく息を吐いて、決心したかのようにリディアに視線を向けた。
「そのマジですよ、ゲイル。久しぶり、一年前わたくしから逃げるなんてひどいわ」
「ほっといてくれないか。なんでいるんだよ、ここに」
「言ったでしょう。わたくしは自分の欲しいものはすべて手に入れますわ。もう逃げれませんよ、ゲイル」