王公爵家
「すいません、何が悪かったんでしょうかぁ」
アンナの部屋では泣き続けるキリの姿があった。
部屋に集まったジェイクや宰相のルークは大きくため息をついていた。
「泣かないでキリ、私がご挨拶を遅れてしまったから」
そう慰めるアンナにジェイクも謝った。
「俺も悪かった。あれが来たというのにお前に合わせたくないばかりに伝えなかったから」
「いいえそれでも貴族として私が悪いのです。キリ、あの方は私とは身分が違い過ぎるのですよ」
まだよくわかっていないキリを見かねたルークが説明を始めた。
イシュベル王公爵家は貴族であって貴族にあらず
公爵家に属してはいるがより王族に近い身分である。現在の当主である公爵も王位継承者であり母は王女である。
もちろん王が最もえらいが貴族社会の中では、王公爵家は王そのもの男爵家とは身分が違い過ぎるのだ。
今回は挨拶である。
キリは身分は高くても今更やってきたリディアに対して軽く見ていたようだが、ほかの令嬢たちからしてみればこの貴族の中の王であるリディアが来たのであればすぐにあいさつに向かった。
今回のような男爵家が王公爵家から挨拶されることなどまずない。
此方の落ち度とはいえ席も末席にしたことこれも加えてみていたであろう貴族たちは男爵令嬢へのひいきと王公爵家に対する愚弄。つまり貴族に対する軽視とみなした。
『あの王公爵家に挨拶させるなんて言語道断です。陛下に愛されているからってなんなの。男爵家のくせに』
先ほどもこちらに来る前に聞いた令嬢たちの会話にジェイクもルークも頭が痛かった。
「このままじゃ示しがつきませんよ、陛下。わかってますよね」
「わかっている。俺から正式に謝ろう」
苦々しそうにそういうジェイクにルークは首を振った。
「それだけではいけません。アンナ様も侍女殿もです。イシュベルがどこまで力を持っているかわかっているでしょう。どこまでも嫌われていますが、王公爵家をなめてはいけません」
そのころリディアはゆっくりと部屋でくつろいでいた。
「今頃ジェイクははらわたが煮えくり返っているわよ。皆で謝りに来るんでしょうね。ああ楽しみ」
どんな顔で謝りに来るか想像していた。