男爵令嬢とご挨拶
「すみません、ハンベル男爵令嬢でしたっけ。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。キリという侍女にご挨拶するように伺って挨拶に参りました。わたくし今更王宮に上がった妃候補のリディア・イシュベルでございます」
男爵令嬢の前に立ったリディアは綺麗に淑女の礼をとった。
その姿にアンナも驚きつつも同じように礼をした。
「こちらこそアンナ・ハンベルと申します。よ、よろしくお願いいたします。この時期に来られるなんて私も知りませんでした」
少ししどろもどろになるアンナを見ながらリディアは観察した。
可憐な花といったところだろうかほんの少しの風でも折れてしまいそうな…男が守ってあげたくなるそんな風情である。
「あらそうなの?だけど本当に遅くなって申し訳ないわハンベル男爵令嬢…ほかのご令嬢には昨日のうちにご挨拶に伺ってもらっていたので」
「えっ?昨日のうちに…イ、イシュベルって!」
リディアの名前や挨拶の話を初めて聞いたであろうアンナは一瞬にして真っ青になった。
「ちょっと、アンナ様に失礼でしょう。なんですかさっきからハンベル男爵令嬢ってアンナ様ってお名前があるんですよ」
「ああごめんなさい。だってしょうがないじゃない、ハンベル男爵っていうお名前さえほとんど聞いたことがないんですもの。ご令嬢の名前なんてもっと聞いたことがないわ。そう、アンナ様っておっしゃるのね。覚えておきますわ」
そういってアンナにリディアは微笑みかけるが、アンナは真っ青のままうつむいて震えていた。
キリはそんなアンナの姿に声をかけるがアンナは聞こえていないようでうつむいていた顔を上げるとリディアに視線を合した。
「申し訳ありません!知らなかったとはいえ、こちらからご挨拶申し上げなければいけなかったのにリディア様にご足労戴くなんて…」
必死に謝りアンナにリディアは扇で口元を隠しながら微笑んだままだ。
「アンナ様どうして謝られるんですか!アンナ様は陛下の妃候補確定なのに…」
キリがあんなにそういったとき「どうしたんだ!」とジェイクがリディアたちのもとにやってきた。
庭園会にやってきたジェイクだが静かすぎるその場に首をかしげたが、リディアとアンナの姿を目に留め急いでやってきたのだ。
「あらジェイク、久しぶりね」
青ざめているアンナとは対照的にリディアは美しく微笑んだ。