俺だけが…
次で完結のはず…
「何も悩む必要はない。お前は俺の手を握ればいい。リディア、俺はお前と歩む未来しか描けない」
ジェイクはそういうとしっかりとリディアの手を握り、外そうとはしなかった。
固まったままだったリディアだが、すぐにその手を外そうとした。
しかし、がっしりと手を握られてまったく外せない。
「ちょっと、外しなさいよ。それにあなたにはアンナ嬢がいるでしょう?私との結婚など無理です」
「だが断る。俺はお前が必要なんだ。アンナとは別れた。臣下全員に啖呵もきったし、俺も明日には国民からも嫌われものだ。だから一緒に嫌われものにならないか?」
何も面白い話ではないのにジェイクは笑っている。
なんだかんだでジェイクは愛される国王だった。
まだ戦争の名残で安定しているとは言い切れないというのに、こんなことで波紋が広がれば王家に反旗を翻すきっかけになるかもしれない。
「あんなに盛り上がっていたのに、俺はアンナを捨てた。だが選んだ王妃がイシュベルのリディアであれば、俺よりもお前が筵の針にされるだろう。イシュベルの嫌われようはある意味常軌を逸しているからな」
「えっ?」
「だから俺と結婚すればお前はもっと周囲から孤立し嫌われるだろう」
「……あなたと一緒になってもマイナス面しかないじゃない」
なんだかげんなりしてくる。
「そうだろうな。だが俺はリディアのおかげで矢面に立たなくてもいいだろう?嫌われ者のイシュベルの威光はすごいんだ。だからもっと俺のために嫌われてくれ」
真剣な顔でこの男は何を言っているのだろうか?
熱心に求婚してくれていると思えば、俺のために嫌われてくれとは…
「おいおい陛下、あんた何言ってんだよ!リディアにそんなものばかり背負わせんなよな」
だまっていたゲイルもさすがにと口を挟んできたが、ジェイクは耳を貸さない。
「うるさいぞ!外野は黙っていろ。けどなリディア、その代わり…」
「その代り、なに?」
「この国で俺だけがリディアを愛してやるよ」
「……馬鹿じゃないの」
そう一言を吐き出したが、リディアはもう負けを認めていた。
誰からも嫌われた一族。
けどそれでもたった一人この人だけは愛してくれるのだ。
もう一人ではなくなるのだ。
「そんな馬鹿をお前はほっておくのか?」
「ほっとけないわね」
敗北宣言だ。
しょうがない、この人のために嫌われて見せましょうか!
「で、結局この男は何もんだ?」
部屋の隅でほっとかれていたゲイルをジェイクは指差した。
「ゲイルは私の弟です」
その言葉にいじけていたゲイルはばっと振り向いた。
必死に両手を体の前で振って否定する。
「ちょっと待ったぁ、養子縁組はしたが俺はあんたより年上だからな!お兄ちゃんだろう?」
「?」
「?じゃないぞ!ちょっと陛下あんたからもなんか言ってくれよ」
話にならないとジェイクに助けを求めたが弟と聞いて興味を失ったようで、リディアの腰に腕をまわしてこちらを見ようともしない。
「弟なら、別にかまわん」
「別にどーでもいいわけね!あんたもいい性格してるよ」
「早くに亡くなった純血のイシュベルの息子さんだったんです。縛られることがないようにって里子に出していたようですが、捕まえました」
「この男を公爵にするのか?」
「はい今回我々イシュベルは改革に乗り出したのです。優秀なイシュベルから少しおばかでどちらからも愛されるイシュベルにです」
「またすごい話を聞いたもんだが…まぁこいつなら」
ちろりとゲイルを見るがその顔に浮かぶのは嘲笑だ。
ゲイルはさっきからのストレスが頂点達した。
「ああもういいだろうあんたらはさっさと王城に戻れよ!俺のことはほっとけばいいからーーー!!!」
「なんだ。ゲイルと結婚しないのだったらどうするつもりだったんだ?」
往生に向かう馬車の中、少し不安そうに顔を覗き込んでくるジェイクにリディアは少し笑い、ジェイクから視線をそらした。
何やら今日はいろいろあってすごく眠たい。
隣にいる存在があまりにも安心できることも一因だろう。
不覚にも私はこの男を愛してしまっているのだから。
「どこかこの国にとって利益を生む他国に嫁ごうと思ってました…だってあなたの幸せそうな姿を見るのは無理だったのよ」
だからと、こうやってあなたの隣に入れることは私の持っている幸せをすべて使い果たしたような幸運なのと小さくリディアはつぶやいた。
王城までまだ少し時間がある。
帰ればどうせうるさいことしか待っていない。
だから今はまだ二人で肩を寄せ合って、ひと休みしようじゃないか




