王の気持ち1
あの後のリディアの行動は早かった。
すぐにリディアはゲイルを伴って出て行ったのだ。
俺に「さようなら」と一つだけ言葉をかけると一度も振り返ることなく去っていた。
こうなっては王妃決定まであと3日まで、もう何も悩むことなくアンナのそばにいることができる。
俺は執務をこなす以外の時間はアンナの室で過ごしていた。
アンナは何か俺に言いたそうにしているが、俺は気がついていても知らないふりをする。
今は静かに時を待ちたい。
目をつぶればいつかのあきらめていたものが思い浮かんでくる。
―――どうにも俺はいつも間の悪い男だった。
俺がはじめてリディアに会ったその日、俺は一人でむしゃくしゃする気持ちを抑えるためにさっきの場所に戻ってきていた。
だがそこには先客がいた。
さっさと帰ったはずのイシュベル兄妹がいたのだ。
「リディアは優しいね」
「うるさいですわ」
何やら話している二人を何気なく見ていた俺だったが、ふとある一点に目を止めて大きく目を見開いた。
リディアの手にはさっき彼女が叩き落としたハンカチが握られていたからだ…
「別に落ちていたから拾っただけじゃない。もしかしたら高貴な貴族のものかもしれないでしょう。侍従たちに渡しておきましょう」
隣で笑っている兄から顔をそっぽ向けるとフンとリディアは鼻を鳴らした。
その横顔は少し赤くなっていたが…
「くすくす、わかったよ。そうゆうことにしておこうか」
まだ笑っている兄の袖をリディアは握るとほら早く行きましょうよとひっぱって行ってしまった。
俺は声もかけられずその姿を見ていた。
なんというか見てはいけないものを見たような、どこかリディアの意外な一面を見たことのくすぐったさを俺は感じていた。
それからもリディアは俺の妃候補筆頭だったこともありかかわりは多く、何度も俺が一方的に負けるけんかを繰り返してきた。
そしてリディアの兄が俺を指さして腹を抱えて笑っているそんな日々を過ごしてきた。
苛立ちが多いそんな日々に認めたくはなかったが、それは俺にとってはとても愛しい時間だった。
そしてあの日がやってくる。
間の悪い俺は見てしまう…
俺のかすかに抱いていた希望が途絶えた日。
歪んだ俺が罪を犯すことにした始まりの日…




