プロローグ
ユーベルト国は北に位置する軍事大国とし、長く続いていてきた戦争から犠牲を出しながらも勝利をもぎ取って、三年の月日が流れ国は落ち着きを取り戻している。
そんなユーベルト国ではまた新しく祝い事が始まろうとしていた。
現国王ジェイク・ユーベルトの半年をかけた王妃候補が決まろうとしていた。
国中の名の知れた貴族やその他さまざまな女性を集めた大掛かりな妃候補の中から国王の目に留まったのは男爵令嬢アンナ・ハンベルだった。
妃候補決定の期限は残すところ一か月あるというのに国民たちの間ではこの身分違いの結婚に沸いている。
「それでお父様は今更わたくしに妃候補として王宮に上がれとおっしゃるのですね」
最近まで家で起き騒ぎも落ち着き、屋敷の居間にてお茶を飲んでいたリディアであったが、父からの突拍子のない提案に呆れていた。
「もちろんだとも、遅れながらも我が家からも妃候補として王宮に上がってもらうぞ、リディア」
「しかし、もう妃候補は男爵令嬢で決まりでしょう。わたくしが出る幕ではないと思いますが…」
「何を言っている。男爵令嬢ごときがこのユーベルト国の王妃になるだと…愚かしいわ。身分・血筋が天と地の差があるわ。リディア、お前にはわかるだろう?どう考えてもお前のほうが王妃にふさわしい」
男爵令嬢のことでも思い浮かべたのか父は忌々しそうにそう吐き出した。
「もちろんですわ。お父様がおっしゃることはよくわかります。けどわたくしが今更上がったところで男爵令嬢からジェイクを取り戻せるかといえば不可能でしょう?」
ゆっくりとした動作で口にお茶を運ぶリディアは落ち着いて、父を諭そうとするが父は首を横に振って否定した。
「お前らしくもない。美しいお前ならできるだろう?まだ一か月ある、まさか王宮に上がってただの妃候補として終わるなど許されないぞ……かならず我が家のため王妃になれ!」
今すぐ王宮に上がる準備を整えねばと父はそういうなり出て行ってしまった。
そんな父の出て言った扉から目をそらしたリディアは少しずつ笑いが込み上げてきた。
「ふふっ、さぁどうしたものかしら…王妃になれとはそんな勝算が低いことを望まれましても、お父様もお解りのはず、わたくしがジェイクから最も嫌われているというのに…」
それから一週間後リディアは最後の妃候補として王宮に上がった。