どうかキミの香りに染めてください
数分ほど前に手渡された小瓶の中では透き通る黄緑の液体が揺らめいていた。
彼女が俺のために作った、という事実が嬉しくてさっそく匂いを確かめてみる。
嫌な匂いではない。
寧ろ、いい香りだ。
柔らかくて、優しくて、温かい。
しつこくなくて、爽やかな香りが風に乗って俺の鼻腔をくすぐった。
俺の好きな部類に入る香りだが、彼女はこれを渡す際に「あなたのイメージに合わせて作りました」とはにかんでいたのを俺はふと思い出す。
彼女から見た俺は、こんなイメージなのだろうか。
否、俺は優しく包み込むようなできた人間ではない。この香りは寧ろ――彼女そのもののような気がした。
目を閉じればすぐに蘇る、あの優しい香り。
小瓶の中身は彼女がふわり、と花咲き綻ぶような笑顔を見せるたび香る匂いそのものだった。
イメージに合わせてこの香りが出来上がったということは、だ。
彼女の香りが俺に移るほど俺がいつも彼女の傍にいたということであって。彼女のその優しさに、温もりに。長い間触れ合っていた……ということだ。
匂いやイメージが移るほど彼女とそれだけ長く付き合っているということだ、と俺は小さな瓶に入った、揺らめく液体を陽にかざし、差し込む光の煌めきに目を細める。
彼女は太陽。俺は太陽に恋焦がれる男。
少しでも彼女に届きやすくなるように、と俺は香水を一振り。
見慣れた背中を見つけ、緩む口元を抑えきれないまま地を蹴り上げた。
これからもどうか。
香りが移るほど近く、長くキミの傍にいさせてください。