立花道雪VS火星人 ~ドキッ!恐怖のビカビカ光線~
天正五年(西暦千五百七十七年)、秋が終わり冬の寒さが出始めた頃、筑前は立花山城下はある噂でもちきりだった。
「領内で化け物が人を襲った?」
立花山城主、立花誾千代は家臣の由布惟信の報告に、怪訝な顔つきになり、眉をひそめた。
「そんなものは只の世迷い言であろう。いちいち大げさに報告すべきではない」
誾千代は若干の苛立ちを込めた声で自分より遥かに年上である惟信を叱った。現在八歳、二年前に父より六歳で家督を譲り受けた若き女当主は、その年齢にそぐわぬ聡明さと剛胆さで立派にその勤めをはたしていた。
「しかしながら誾千代様、領民達はみな不安に怯えており、噂も日を追うごとに大きくなっています。噂の真意はどうあれ、ここはやはり何らかの対策をとるべきかと」
惟信は頭を深く下げ、なおも進言した。誾千代は不服であったが、しぶしぶその提言を了承した。
「しかしながら、その化け物とは奇っ怪な。一体どのような姿形をしているのですか?」
誾千代は好奇心で聞いてみる。惟信は傍らに置いてあった巻物を広げ説明した。そこには巨大なタコのような黒い影が描かれていた。
「頭は焼いて膨らんだ餅のような形をしていて、何本もの足が付いていたと言います。また、あたまの上に丸い飾りがあり、襲われた者が言うには、それが光ったと思うと、ビリビリしたそうです」
「ビリビリ・・・ですか?」
「はい。ビリビリ・・・」
「それは雷神じゃー!」
「!?」いきなり部屋の外から声がしたと思うと、一人の老人が襖を突き破り、転がり込んできた。
その人物を見て、二人は同時に声を上げた。
「お父様!」
「道雪様!」
入ってきたのは前の立花山城主、立花道雪だった。道雪は転がって倒れた状態から体制を直すと、腰から下を引きずりながら惟信に近づき、持っていた巻物を奪いとる。そしてそれを高々と持ち上げると、再び叫んだ。
「これは雷神じゃー!」
誾千代と惟信の二人はわけが分からないと目を白黒させた。
「お父様、ついに呆けてしまわれたんですか?」
「誾千代様、いきなりそれは流石に失礼ですぞ」
「こら、お前等二人して何言うとるんじゃ。ワシはまだ六十五。そうそう呆けたりなどせんわ。まったくお前達ときたら、もう少しワシの言うことを・・・・」
道雪は二人を怒鳴りつけ、くどくどと説教を始めた。これは長くなるなと思った誾千代は話の合間に巧く割り込んで聞いた。
「ところでお父様、雷神とはどういうこですか?」
「(くどくどくど・・・)ん、そうじゃった。これは雷神じゃ。ワシが若かりし頃に対峙した雷神に見れば見るほどそっくりなのじゃ」
道雪は巻物に描かれていた影を指さして言った。
立花道雪は若い頃、雨宿りの際に落雷を受け、下半身不随になっている。その時雷の中にいた雷神を斬ったという逸話が残されおり、持っていた刀『千鳥』は『雷切』と名を変え、立花家の家宝となっていた。その後下半身不随のハンデを持ちながらも、御輿にのって戦闘を指揮し、主君である大友氏の主力と
して十年以上ものあいだ毛利軍と戦い続け、多くの武功をあげたことから、この地を任されることになったのだった。
「お父様が、その昔雷神を斬ったという話は存じております。しかし、雷神とは一般的にはこのような姿ではなく、輪のように連なった小太鼓を背中に背負った鬼のような姿形だと聞いていたのですが、違うのですか?」
「それは、雷神と相対したこともない半端者が想像で描いたものにすぎん。実際に会ったワシが言うのだから間違いはない。しかし、雷神め・・・しょうこりもなく復活してくるだけでなく、領民を襲い始めるとは、許せん。ワシがまたこの手で成敗してくれるわ!」
道雪は持っていた巻物を思い切り床に叩きつけた。そして、手を叩いて何かを呼んだ。
「はーい」と二つの野太い声が響き渡った。
ドタドタと小さい御輿を担いだ二人の屈強な男が現れ、道雪の前に座った。移動が不自由な道雪の足の代わりを務める、黒兵衛、白兵衛兄弟だった。
「いざ、参るぞ。戦の準備をせい!雷切を持てい!」
道雪は黒兵衛たちの持ってきた御輿に乗ると、支度をするべく部屋を出て行こうとする。それを慌てて惟信が止めた。
「お待ちくだされ道雪様。正体がわからぬ化け物と闘って、もしもの事があってはなりませぬ。どうか、お考え直しください」
「馬鹿者。雷神に勝てるのはワシだけじゃ。邪魔をするでない」
「まだ、その化け物が雷神であるという証拠はありませぬ」
「襲われた民はビリビリしておると言うとったじゃろ。ビリビリするのは雷神だけじゃ」
「電気ウナギもビリビリしますでございます」
「阿呆。全然形が違うではないか。こいつは雷神じゃあ。ワシの足の動きを奪った恐怖のビカビカ光線に決まっているんじゃあ」
「阿呆は道雪様でございます。ビカビカ光線など意味が分かりませぬ」
「貴様、主君に向かって阿呆と言いおったな。ならば貴様は馬鹿たれじゃあ。雷はビカビカするであろう」
惟信は道雪の着物の袖を掴み必死で行かせないようにし、道雪は何とかそれを振りほどこうと御輿の上で暴れた。互いに罵りあいながら取っ組み合うその光景は、だんだんと子供の喧嘩のようになっていった。黒兵衛と白兵衛はどうしていいか分からずおろおろした。
それらの様相をしばらく静かに見ていた誾千代は、徐に懐から扇子をとりだした。そして素早く両者の間に割って入り、それぞれの頭をポンポーンと叩いた。道雪と惟進の動きが止まり、二人は目を丸くして誾千代を見た。
「お二人ともいい加減にしてください。仮にも立花城の元城主と家老がこのような無様なやりとりをしていては、他の家臣に対して面目が立ちません」
「申し訳ありませぬ」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
誾千代の鋭い恫喝に惟信は平伏した。反面道雪は実の娘に説教をされたため、にが虫をつぶしたような顔になる。
「じゃが、誾千代。誰が何といおうがワシは止まらんぞ。雷神との因縁に決着をつけねばならんからなあ」
「お父様が言い出したら聞かないのは、大友様への歯に衣を着せぬ数々の諫言などで嫌と言うほど分かっております」
誾千代は諦めたような顔になり言った。道雪には主君大友宗麟の奔放を止めるため、宗麟の飼っていた猿を鉄扇で打ち殺して諫言したという逸話がある。
「ですから私は止めません。しかしながら、元城主が戦装束で出るとなれば領民が混乱します。少数精鋭にて『狩り』という名目で出て行ってください」
誾千代の提案に道雪は笑顔になる。
「うむ。流石は我が愛娘、見事な判断だ。では早速明日にでも出掛けるとしよう。行くぞ黒兵衛、白兵衛」
道雪は平伏したままの惟信に向かい「ざまあ見ろ」とばかりにあかんべーをして、御輿に乗って部屋を後にした。
それを見届けると誾千代は惟信の方に振り向き直った。
「さて、惟信。あなたもお父様と一緒に行きなさい。私は化け物などいないと思っていますから、今回の件はおそらく何事もなく終わると考えています。雷神云々の話も、戦が一段落して暇になったお父様の戯れ言でしょう。しかし万が一何かがあった場合は、毛利との戦で幾多の一番槍をとったあなたの力と責
任で、無事お父様を連れ戻してください。お願いします」
誾千代は頭を下げて惟信に命令をした。
「ははあ。必ずやご期待に応えて見せます」
その心遣いと判断力に惟信は深く感心し、さらに深く頭を下げた。
ぴこーん。ぴこーん。
幾つもの平行世界を旅するその船は、コードナンバー四十九平行世界の太陽系に属する惑星地球から、非常に不安定な正体不明の信号をキャッチした。人類にはあと二千年年先にも到達できないであろう科学力を駆使し、船は信号の発信源に向けてワープを開始した。
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・・・」
筑前の人里から少し離れた山丘の上、火星軍第九十八師団平行世界調査部隊隊員のキュウは頭に細いチューブで繋がれた万能機材球を光らせ、空に向かって救援信号を送っていた。
「うう、失敗した。まさか時空乱気流に巻き込まれて遭難するだけでなく、光学迷彩の故障に気がつかず、現地の人間に姿を見られるなんて・・・」
やりきれないといった感じで六本ある足をバタバタさせる。
「しかも咄嗟に護身用のビカビカ光線を使ってしまった。言語変換機能で探ってみたけど、現地人の間で噂もそうとう広まっているみたいだし。これらのことがもしばれたら、軍法会議ものだぞこれは」
キュウの赤い全身がみるみる青くる。落ち込んでいるのだ。火星人はその気持ちの変化が色となって現れる体質だった。
「だが、何よりも助けが来ないことには話にならない。この世界の火星は私の住んでいる世界のものではないし。グローブの調子も悪い。正しく信号が送れているかも分からない」
キュウはすでに一週間、頭に付いているグローブを使い、救援信号を送り続けていた。しかし、無数にある平行世界の全てを管理しているわけではない火星の民が、この信号を受け取ってくれるかどうかは、まさに神のみぞ知るところであった。
「せめて、他の調査員が遺したオーパーツがあれば、船やグローブの修理もできるのだが、それも過ぎた望みか・・・」
キュウはため息をついた。その時、ふと視界に山に入ってきた一団を捉えた。
屈強な男六人が担いだ御輿に乗った老人、そしてお付きと思われる初老の男が一人、その傍らを歩いていた。立花道雪と由布惟信である。
キュウは急いで身を隠すべく急いで振り向いた。しかし、その時既に五人の兵士が弓を構えてキュウを包囲していた。いずれも選ばれた立花氏の精兵だった。
「しまった。生物監視センサーも光学迷彩と一緒に壊れていたのか。全く気がつかなかった」
「見つけたぞ。化け物め。覚悟!」
リーダー風の男が声をあげ、それに会わせて五人の兵士は一斉に引き絞っていた矢を放った。
「くそ!」
キュウの頭のグローブが光った。すると矢はまるで壁に阻まれたかのように空中で静止した。兵士達が驚きの声をあげる。
「よし、重力制御装置は大丈夫だ。すまないが少し眠っていてもらうよ」
キュウはグローブがら恐怖のビカビカ光線を放った。兵士達がビリビリしてその場に倒れこんだ。電気に似たショックを相手に与え、全身の運動機能を奪う、後遺症が一切無い、絶対不可避の護身用光線。それがビカビカ光線である。
「殿、今丘の上が光りました。ああ、あそこにあの絵にそっくりの化け物がおります!」
惟信が丘の上を指さした。それと同時に、キュウが重力制御装置を使って丘の上から飛び降りた。
「何じゃと!黒兵衛、白兵衛、青兵衛、赤兵衛、黄兵衛に桃兵衛。全速前進だ!」
「おお(×六)!」
道雪は戦用の六人担ぎの御輿を背負う兄弟達に指示を出した。そして傍らに置いていた宝刀『雷切』をいつでも抜けるように構えた。
キュウは視界に空中で自分に向かってくる道雪の御輿を捉えた。ちょうど自分の落下地点に向かって一直線に駆けてくる。
「くそ、本当はあまり現地人を傷つけたくないのに・・・仕方がない。喰らえ!」
重力制御装置で無事着地したキュウはビカビカ光線を放つ姿勢をとった。
「今じゃあ、飛ばせえ!」
道雪が叫んだ。それに合わせて六人の兄弟達は一斉に膝を畳んで身をかがめ、そして一気に立ち上がった。上に向かう力が乗っていた道雪にかかる。それと同時に道雪は腕を思い切り使って跳躍した。
「!?」
高さにして十メートルに及ぶかというその大跳躍にキュウは驚愕した。道雪には秋月の合戦において太刀を振るい七人の敵を斬り殺したという逸話がある。下半身不随の道雪にそれを可能にさせたのは、常人離れしたこの腕の力だった。
キュウは狙いを上に向け直し、ビカビカ光線を放った。
道雪は雷切を抜いた。そして横への一振りでビカビカ光線を真っ二つに斬り裂いた。
キュウの顔が驚愕で黄色くなった。あらゆる物質を貫通して対象のみを攻撃するビカビカ光線が鉄によって斬られるなど物理的に考えてありえない事だった。
「覚悟ぉ!」
道雪は飛び上がった勢いそのままにキュウに向かって雷切を振るう。信じられない出来事を目の当たりにしたキュウは反応が遅れた。重力制御装置を起動して回避するよりも早く、道雪の雷切が脳天に直撃し、キュウは意識を失った。
「道雪様、おめでとうございます。まさか本当に雷神を斬り殺してしまわれるとは、この惟信思ってもいませんでした」
由布惟信は駆け足で道雪の元にやってきた。そして興奮した声で力一杯のの賛辞を送った。
しかしながら、道雪は面白くないというように顔をしかめた。そして近くに伸びているタコに似た化け物、火星人のキュウを指さしながら聞いた。
「先程のは峰打ちじゃ。ところで、これは一体何だ、惟信?」
「えっ、それは雷神でございましょう。道雪様が城で言っていたではありませんか?」
「阿呆。これは雷神ではない。ただのタコの化け物だ」
「ですが、城で見せた巻物の絵にそっくりではありませんか?雷のような奇怪な技も使っておりましたし」
「確かにそうだが・・・ワシが若い頃見た雷神とは全然違う。ワシが若い頃出会った雷神はもっと大きくて体は金属のように・・・ん、何だこの音は?」
突然辺り一帯に耳鳴りのようなツーンとした音が響き渡った。突風が吹き、道雪たちの周りの木の葉が一斉に空中に舞い上がる。
「道雪様、あれを!」
突風が吹いてきた空の方向を見上げた惟信が、耳を押さえながら叫んだ。二人の視線の先の空が割れ、ポッカリと黒い穴が空いていた。
「あれは一体?」
「ワープだ!」
先程から起きていた怪現象に目を覚ましたキュウが叫んだ。今、目の前で起きている現象、それは強大なエネルギーを遥か高次元の空間から与えることにより、三次元の物理法則をねじ曲げ、平行世界同士を行き来するゲートを開く航行技術、『ワープ』の前兆現象だった。
「しかも視覚で位相変換がはっきり捉えられるこの強引な転送は同胞のものじゃない。我ら火星人と平行世界の覇権を争う宇宙人、X星人。救援信号を先にキャッチして辿ってきたのか!」
上空に開いた黒い穴から、円盤状の物体がゆっくりとその姿を現した。それは四百年後の人類がUFOと呼ぶものと瓜二つの飛行物体だった。大きさは二十メートルくらいはあろううか。キュウの顔に緊張が走り、色が緑色になる。
「今すぐ逃げてください。奴らは凶悪な宇宙人。未開惑星の生物を殺すことに何のためらいもない連中です」
キュウは道雪たちに向き直り、逃げるように言った。しかしながら惟信は驚きと恐怖のあまりその場にへたれこんでしまっていた。
「ば・・・化け物が喋ったと思ったら、空から奇っ怪な物体が現れて、何がどうしてこうなった・・・」
黒兵衛たち六兄弟も皆で集まって体を震わせている。ただ一人、道雪だけが彼らと違い、キュウにすら目もくれず、じーと黒い穴から出てくるX星人のUFOを凝視していた。そして、その全体像が露わになろうかというその時、雷切を高々と掲げ、怒りを込めた声で叫んだ。
「雷神め、ついに姿を現しおったか!ここであったが五十年目じゃあ!」
惟信、黒兵衛たち六兄弟が驚きの目で道雪を見つめた。
「その焼いてふくらんだ餅のような体型、そしてその下についた幾つかの足、そして銀色に発行するその姿は、まさにあの雨の日に出会った姿そのもの。おい、そこの喋るタコの化け物。
お前はさっき飛んでいたであろう。その力を使ってワシを雷神の元まで運べ」
「は、はい」
急に呼ばれたキュウは反射的に返事をしてしまった。道雪はキュウの元まで這っていくと、その頭の後ろにしっかりとしがみついた。キュウは慌てて反論した。
「だ、駄目ですよ。さっきは反射的に返事をしてしまいましたが、ワープ直後の船の周りは物理法則の成りたたない特殊空間なんです。そんな所に突っ込めば無事で済むはずがありません」
「怖じ気づいたか意気地なしが。もし行かねばこの場で刺身にするぞ」
道雪は雷切の刃をキュウの目の前で立てた。キュウは自分に突き立てられたそれを見て、あることに気がついた。
「こ、この刀はさっき僕のビカビカ光線を斬った刀。そんな事ができるのはもしかしたら」
キュウの頭の上のグローブに向かって念じた。するとグローブの放つ光に共鳴するように雷切が淡く光り始めた。
「やっぱり。これはオーパーツだ。この平行世界の過去に来た同胞が遺した遺産。しかも、空間干渉に特化した特注品。これならもしかしたら・・・」
「何をぐずぐずしておるんじゃ。早く飛ばんか」
「確かに悩んでいる暇はない。ワープが完了する前の今の段階しかチャンスはない。分かりました。行きます!」
キュウは重力制御装置を起動させた。道雪とキュウの体が宙に浮き一直線にX星人UFOめがけて飛んでいく。突如X星人のUFOが発光した。向かってくる敵を迎撃するために、無数の怪しい光線を発射した。
「躱します。直撃のものだけ対処してください」
「ぬぬう!」
キュウはまるで海を泳ぐタコのような素早い動きで怪光線を避けていく。道雪は雷切を使い、避け切れなかった怪光線を切り裂いた。その息のあったコンビネーションは長年の戦友のように正確無比であった。
「お主、やるではないか。よし、雷神を打ち倒した後に家臣にしてやろう。名を何と申す?」
怪光線の雨の中、道雪は雷切を振りながら嬉々として言った。
「名前はキュウです。しかしせっかくの申し出ですが、遠慮しておきます。僕は貴方たちとは違う、遥か未来の鉄の国に住む異邦人ですから」
「何じゃあ。詰まらない奴じゃのう」
そして二人はUFOの前に出た。道雪は一段と大きく雷切を構え、力一杯振り抜いた。
「どっせえええええええええええい!」
雷切から光がほとばしる。その一閃は空間を切り裂き、X星人のUFO、そして背後の空間の穴を二つに割った。補足するならその現象は、高次元から三次元空間にワープで位相変化する途中の不安定な超エネルギー物体の位置座標を破壊することで、エネルギーを暴走させたものが視覚的に見えたものだった。
「みたか雷神め。真っ二つじゃあ!」
道雪の目の前で、二つに割れたUFOは同じく割れた黒い穴の中にゆっくりと戻っていった。
「はい。崩壊したゲートは小型のブラックホールになり、X星人の船を飲み込んでいます。大丈夫。ブラックホールが発生した地点はこことは別の次元なので、影響はありません」
「がはははは、何を言っているのかさっぱりわからんぞお」
道雪は笑いながらキュウの頭を叩いた。キュウは照れた様子でその色をピンク色に変色させた。
道雪が下を見ると、惟信、黒兵衛たちが、自らの主君の勝ちを祝い、両腕をあげ、雄叫びを上げていた。
その後、地上に降りた道雪が惟信たちと雷神を倒した喜びを分かち合っているうちに、気がつけばキュウは消えていた。いくら探しても見つけることはできなかった。
キュウは雷切に封印されていたオーパーツを取り出し、その力でグローブや船を修復し、元の世界へと帰ったのだった。
道雪と惟信はしかたなく城にもどり、誾千代に事の経過を報告したが、あまりにも現実離れしているためまともに取り合ってもらえなかった。
そしてこの件から八年後の天正十三年(西暦千五百八十五年)道雪は島津氏との交戦中に、病死している。
「異方に心引くなよ豊国の鉄の弓末に世はなりぬとも」
その時の辞世の句であるこれは、一般的には子孫に対し、この豊かな国が戦により衰退した末の世になっても他家に心ひかれてはならぬという心構えを示した歌だとされているが、ある
証言によれば、弓は実はキュウであり「この国に住んでいた未来の鉄の国から来たというキュウとかいう化け物は異邦人とかいってせっかくのワシの誘いにも心を開かない奴だったなあ」
という意味も含まれているとかいないとか。
(了)