表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨が降っていた  作者: D太郎
シエラと国
66/103

立って待っていた

 立って待っていた。



 拠点である小城から、少し北に行った所だった。


 日が、真上に達した頃に、数十の騎馬が、ゆっくりと駆けてくるのが見えた。

「よく来てくれた」

 ボルドーが声を上げると、集団の先頭にいた者が、下馬をした。それに習ってか、続いていた者達も下馬をする。

「この度は、我々を受け入れていただき、感謝します」

 ルモグラフが、力強い声を上げた。

 ボルドーは、思わず笑った。

「感謝するのは、こちらの方だ。お陰で、ずっと悩んでいた心配事が一つ解消されることになった」

「ほう、あのボルドー殿が心配事ですか?」

「お前と戦うことだ」

 ルモグラフが声を上げて笑った。

「それは、身に余る誉め言葉ですな」


 少ししてから、ボルドーは、ルモグラフの後ろにいた三人の男に目を移した。

「これが、息子達か」

「はい」

 ルモグラフが振り向くと、一人が一歩前に出る。茶色の髪で、肌は日に焼けている。がっしりとした体型は、親父とそっくりだった。

「お目にかかれて光栄です。自分は、ルモグラフの長子でブライトという者です」

 これも、力強い声だ。

 その後、あとの二人の紹介もされた。ウォームとライトというらしい。この二人は、線が細く、あまり親父と似ている印象がなかった。


 それから、もう一人が目に入っていた。

「久しぶりだな」

 そう言うと、その一人は、慌てるように頭を下げた。

「お久しぶりです、ボルドー殿」

「お前も、よく来てくれた、セピア」

「は、はい!」


 その後、立ち話を切り上げ、乗馬して小城に向かうことにした。

「とにかく、これから国軍と戦うにあたって、詳しい内部の情報が欲しいと思っていたところだったのだ。頼りにしているぞ、ルモグラフ」

「それならば、私よりライトの方が詳しいでしょう」

「ほう?」

 ボルドーは、後ろのライトを見た。ライトは、軽く会釈をする。

「私も先日知ったのですが、どうやら息子達は、叛乱を起こすために、いろいろと画策をしていたようですので。まあ、把握できていなかった父親としては情けない話なのですが」

「叛乱だと」

「私などよりも、行動力があるようですよ、息子達は」

 ルモグラフが笑う。

「成る程、では頼りにさせてもらおうか」

 ライトを見て言った。

「お前の息子達は、部隊の指揮をできる力はどれほどある?」

「それは、直接見て計って下さい。当然、私も含めてですが」

 ボルドーは、また思わず笑ってしまう。

「では、そうしよう」

 それから、ルモグラフと話をしながら進んでいた。


 少しして、会話に間が出来た時に、セピアが馬を寄せてきた。

「あの、ボルドー殿。その、シエラは……殿下は、お元気でしょうか?」

 そう言う。

「御健勝であられる」

「そうですか……」

 セピアは、少し俯いた。

「ボルドー殿がいらっしゃるので、私などが心配することではないとは思うのですが、殿下の心情が、どうしても気になるのです。その……大丈夫なのかと」

 ボルドーは、思わず笑った。

「ペイルと、同じ事を言うのだな」

「ペイル殿?」

「あいつも、同じ事を心配していた」

 セピアが、ボルドーを見る。

「まあ、以前のように話すことは難しいが……お前が顔を見せるだけでも、まったく違うとは思うぞ」

「そう、ですか」

「ペイルにも、会ってみるといい」

「あの、もしかすると、ペイル殿も軍指揮を?」

「まさか。あいつは歩兵だ」






 さっそくルモグラフと息子達には、練兵の指揮をさせてみることにした。

 分かり切っていたことなのだが、ルモグラフの軍指揮能力は申し分がなかった。それに、ブライトも、かなりの力量を持っている。

 ウォームとライトは、一通りの技術を持っているようだが、上の二人と比べると物足りないと感じる力量だった。しかし、二人ともどうやら別の長所を持っているようだ。

 取り敢えず、練兵は任せておいても良さそうだった。


 翌日に、グレイとグラシアが戻ってきた。

 さっそく、四人に引き合わせた。グレイとライトが、顔見知りだったようだ。

 夜に、グレイ、グラシア、ルモグラフと息子三人とで、卓を囲んだ。

「では、聞こうか」

 ボルドーが言うと、ライトが一つ頷く。

「現在都は、二人の王子の政争によって、機構が二つになってしまっているといった状態ですね。例えば、宰相が二人いますし、軍の頂点である元帥も二人います」

「どういうこと?」

 グレイが言った。

「二人とも、自分の指名した者が正当な官職だと、言い張っているんです。ようは、正当性の主張のしあいのようなものでしょうか」

「あほらし」

「つまり、都の権力が二分しているということか」

 ボルドーが言った。

「しかし、それでは武力衝突が起こっても、おかしくなさそうなものだがな。軍も二分しているのだろう?」

「その辺りは、なんというか複雑ですね。どちらの王子も、慎重なんですよ。あからさまな独占姿勢みたいなものを、お互い見せないようにしているんです。なので、軍の実質的な部分は、特にどっちかに傾倒しているというわけではありません。だから、元帥といっても、二人ともにお飾りですので、大して実力はありませんし」

「ふううん」

 グレイが、変な声を出した。

「ちなみに、二人の王子の、人物の印象としてはどうだ? 直接見たことはあるのか?」

「二人とも、遠目ですが見たことはあります。一部では、二人とも取り巻きに担ぎ上げられただけの、無能だという声があるんですが、僕は二人ともに、ある程度の能力があると思います。特に、年長であるグラデ王子は、年下のシアン王子に比べると、あまり取り巻きがいないんですよね。それに、血統もシアン王子に比べると前王に近くはないんです。それなのに、あの権力闘争を勝ち抜いたところを察するに、本人もなかなかに切れる男だと思います」

「そういえば、どちらの王子も、王を名乗ってはいないのだな」

「ええ、そうなんですよ。在り来たりな権力欲者ならば、すぐに名乗ってもおかしくないと私も思うんですが。やはり、その辺りが慎重だと思います。ただ、言うまでもなく、二人ともに政事には、あまり関心がないようですが……」

「成る程」

 どちらの王子も、ボルドーは見たことが無い。

「確か、前の戦争の時に、急遽即位した王は、二年前に崩御したのだったな」

「ええ。病死だそうですが、本当かどうかは疑わしいですね」

 ボルドーは、少し間を作った。

「軍人で、厄介そうなのは誰だ?」

「まずは、なんと言っても、フーカーズ将軍とデルフト将軍でしょう。やはり、この二人の部隊は、実力が桁違いですね」

「そのお二方は、こちら側に来ることはないのでしょうか?」

 ルモグラフが言った。

「誘ってはいる。が、期待はしないほうがいいだろう」

 話を先へと促した。


「上級の将軍達は、これも元帥と同じで大した者はいません。ただ、下級の将軍辺りになると、能力の高いと思われる者がいます」

「一応、名を聞いておこうか」

「自分が気になった者でいえば、まずは中央の将軍、パステルとインディゴ」

「ああ、インディゴは知っているな。確かに、厄介な相手だな」

「それから中央遊軍を率いているゴールデン、オーカー……」

「オーカー?」

 ボルドーは思わず声を上げた。

「知っているのですか?」

「ああ。昔、わしがタスカンにいたころの部下だ。本人かどうかは分からないが」

「もし、本人ならば、こちらに引き抜けるかもしれませんな」

 ブライトが言った。


 そういえば、サップの話に、オーカーの名が一度も出なかったことを、ボルドーは思い出した。どういう経緯で中央の将軍になったのかは分からないが、確かに本人ならば、接触してみる意味はあるかもしれない。


 その他の将軍の名は、誰も分からなかった。やはり、時代が変わったのだということを感じる。

「その中で、現状の国を憂い、変革の思想を持っている者はいないのか? 要は、此方に引き抜けそうな者ということだが」

「彼らは、良くも悪くも根っからの軍人ですね。おそらく、国を裏切るようなことはできないと思います」

 ルモグラフが言った。

「そうか」

「まあ、とはいえ、呼び掛け続けるべきでしょうが」


「スカーレットっていう名前は聞いたことはない?」

 グラシアが、ライトに聞いた。

「スカーレット。確か、十傑の一人だった方ですよね。いえ、都の組織周辺では聞いたことがないです」

「そっか」

 グラシアが、少し首を傾げた。

「じゃあ、シーは?」

「シー? いえ、すいません、分かりません」

 そう言った。


 その後、さらに細かい情報の分析をした。やはり強力な軍は、都周辺と国境にだけあるようだ。

「中央は、こちらを、どのくらい重要視しているか分かるか?」

「すいません。それは、分からないです」

「ボルドー殿。これから、どう戦っていく御算段なのか、聞かせては貰えないでしょうか」

 ブライトが言う。

「とりあえず、向こうの強力な軍が出てくるまで、今のままでいこうと思っている。出てきたら、その時々に応じて対応をするしかないな」

「ということは、当分は、地方管轄の軍が相手ですか」

「相手が動かなければな」

「そういえば、すでに二度ほど地方軍を撃退したと聞きましたが」

「大したことはない。相手もあまり戦意が無かったからな。ちょっと、突っかけただけで、浮き足立っていたぐらいだ」

 その後、部隊の編成の話を一通りしてから、集会は解散となった。


 グレイと、グラシアがその場に残った。

「実は、シーの故郷を見に行かせてた人からの報告が入ったの」

 グラシアの言葉に、視線が集まる。

「もう、村はなくなってたってさ」

「えっ?」

「もう、二年ぐらい前になくなったそうだよ。近くの町の人に聞いたんだって。結局、村の運営はうまくいかなかったみたいで、残った人たちは、それぞれ散っていったんだって」

 少しの沈黙ができた。

「シーの手がかりも、何もなし」

「どういうことだろう? シーは、村を助けるために軍に残ったんじゃないの? カラトのことだって、根本にはそれがあるからだと……」

 グラシアが、両手を横に上げて、軽く笑む。

「分かんね」

 三人が、再び黙った。


「故郷といえばさ」

 グラシアが言う。

「カラトの出身ってどこなんだろう? 実は、ずっと気になってたんだよね。聞いたことある人いる?」

 その言葉に、三人が見合った。

「わしは、ないな」

「私も」

「確か、この中で一番付き合いが古いのは、グレイだよね」

「そう、商団の砂漠越えの途中に知り合ったのが最初。砂漠を舐めているとしか思えないような軽装備だったの。それで、死にかけていたところを拾ったのよ」

「なんで、そんな所にいたの?」

「確か、道に迷ったって言ってたっけ」

「どんな迷い方だ」

 グラシアが苦笑する。

「で、そのままスクレイ国内に連れてきて、そこで別れたんだ。それから、再会したのが前の戦争の途中ってわけだね」

「ふうん。じゃあ、カラトの故郷は、スクレイの東の方なのかな」

 二人の話を、ボルドーは、ぼんやりと聞いていた。


 確かに、いろいろと不思議な男なのだ。あれほどの実力と変革思想を持っていながら、あの戦争まで、まったく世に表立つことがなかった。それが、やはり不思議でならない。

 ダークなら、知っているのかもしれないと、少し考えたが、気配が感じられなかった。


「もしかしたらさ」

 グラシアが呟く。

「いや、そんなはずはないとは思うよ。馬鹿な発想だとは思うけど……カラトが、どれだけこの国のために命を削ってきたか見てきているし。でも……」

「何さ?」

 グレイが、怪訝な顔をする。

「わしも今、同じことを考えたと思う」

 ボルドーが言った。


「カラトが、スクレイ人ではないのかもしれないということだろ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ