表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨が降っていた  作者: D太郎
シエラと国
63/103

西に向かった

 西に向かった。



 途方もないことをやろうとしていることは分かっていた。しかし、血が燃えるような思いがあるのも事実だった。


「五十年ぐらい前に、王城の予備基地として建設された小城があるの。今は、小隊が駐留してるだけで、ほとんど機能を果たしてないわ。だけど、補修すれば、まだまだ使えると思う。それに、国家を覆す出発点としては、なんともお誂え向きでしょ」

 最後の言葉はともかく、グラシアの意見を採用して、その小城に向かった。


 場所は、スクレイ西南部。都よりも、海が近いという場所だ。管轄軍も、それほど規模がなく、流通が盛んな町が近くに多い。

 確かに、いい場所だと思った。

 ちなみに、少し北西にはラベンダーの村がある。

 随分北に行ったと思っていたが、もうここまで戻ってきていたのか、とボルドーは思っていた。


 その小城は、湿地帯の中にあった。周りに民家はなく、木々の合間にある城だった。規模は、ウッドよりも一回り小さいといったところだ。

 グラシアが、すでに何か策を弄していたようで、小城の部隊に咎められることなく、一度城内に入った。

「まあ、その内追い出すことになるんでしょうけど、それまで敵対することもないでしょう。今の内に、こっちの準備をしておきましょう」

 すでに、グラシアの情報網を使って、話の流布を始めていた。まずは、知己の人間を中心に広める。

 その間に、ボルドーは小城を見て回った。確かに、所々痛んではいるが、補修すれば十分に機能するだろうと思った。

「ここで決まりだな」


 近くの町に、確保してある拠点に戻った。

「グラシア、お前の所の人間は、どれだけ使える?」

「こっちに合流できるという意味で聞いてるのなら、衛視の子が三十人ぐらいかな。どうしても着いてくるってきかなくてね。裏向きの協力をしてくれる人なら、全国に結構いるけど」

「シエラの護衛と、身の回りの世話をする部隊がいる。それは、女性だけの部隊にしたほうがいいと思ってな。その三十人の中に、それを纏める適任者はいるか?」

「それなら、いい子がいるよ。さっそく呼び寄せよう」

「うむ。それから、グラシア。コバルトが何処にいるのかは分からないのか?」

「そうなんだよ、御免。あの後、一度顔を見せたんだけど、それから町を出てったっきり。こっちでも捜させてはいるんだけど」

「そうか……」

「そうそう、軍にいる元十傑の奴らはどうする? あらかさまに勧誘してもいいのかな。あいつらの立場が悪くなるかもしれないけど」

「悪いが、それも仕方があるまい。味方にならぬのなら、寧ろ立場が悪くなってもらった方がいい。奴らが、我々にとっての一番の驚異だからな」


 それから数日、点々と人が現れ始めた。

 この段階で現れる者は、ある程度信用してもいいと思った。元、十傑の軍にいた者達や、グラシアやグレイの知人が多いからだ。

 ただ今後、組織が大きくなると、一人一人会って、仲間に入れるかを決めるというのも難しいだろう。興味本位な者や、物乞いなども混じってくる可能性があるが仕方がない。


 五日経ち、総数が五十人になった。

 まず、小城を騙し討ちにして乗っ取った。近くで、偽装の騒ぎを起こすなどをして、兵士がほとんど出払ったところを襲撃したのだ。

 残った兵達は、どうすればいいか分からずに、東の軍営に向かった。

 緊急時の指示系統を、きちんと決めていなかったようだ。平和呆けと言えばそこまでだが、今はありがたいのも事実だった。

 五十人で、小城の補修を始める。


 それが一区切りつくと、大々的にシエラのことの喧伝を始めた。

 当然、王宮にも話は伝わるだろう。どこの段階で、二人の王子が本腰を入れ始めるかが、一つの勝負所だった。

 その喧伝には、自分たちの名前も入っている。

 協定を破ることに躊躇いがないことはないが、自分達の名が、ある程度の力になるというのなら、使わない手はなかった。

 王子達が、カラトの暗殺をしようとしていたことが事実だったのだとしたら、先にあちらが破ったことになるが、確証が何も無い。

 果たして、何人集まるのだろうか。


 城壁の上に立って、ボルドーは思いを馳せた。











 七日が経過しても、集まった人数は、百人弱といった所だった。


 この程度か……。

 ボルドーは、心の中で嘆息した。


 王女といっても、突如現れたのでは、本物かどうかを疑うのが当然だろう。それに、今やスクレイの王族というものが、人々の心を動かさなくなっているのかもしれない。

 今、小城にいるのは、三人の内ではボルドーだけだった。

 グラシアは、兵站の準備のために、各町を回っている。グレイは自ら、話を伝えるために、近くにいる知己の人間を尋ね回っている。

 二人ともに、あまり切迫感が無い様子だった。だからなのか、自分だけが、焦っているように感じられた。


 八日目に知らせが届いた。サップが、こちらに向かっているようだ。

 ボルドーが、執務をするために使っている部屋にいると、担当の者に案内された、サップが入ってきた。

「よく来てくれた」

 ボルドーが言うと、サップは軽く会釈をした。

「約定通りに推参しました」

「ああ。ただ、思ったよりも人が集まらなくてな……今後、どうなるかは分からないのだが」

「ボルドー様」

 サップが言う。

「何だ?」

「私と共に来てくれた同志を、見ていただきたいのですが」

「うむ。だが、お前が連れてきた者だ。通常行っている面接は、しなくてもいいだろう。まずは、休ませてやるがいい」

「いえ、できれば今すぐに」

 サップが言った。

「どういうことだ?」

「見てもらえれば、分かります」

 首を傾げたくなるような言い方だったが、ボルドーは腰を上げた。


 外に出てボルドーは、一瞬目を疑った。

 小城の正門前に、数百もの人間が集まっていたのだ。

 ボルドーの姿を見て、声を上げる者もいた。

 ボルドーは、立ち尽くしていた。

「皆、ボルドー様の戦いを、見ていた者たちです」

「お前が連れてきた者達か」


 さらに、残り二日で、一気に続々と人がやって来た。

 十日目に、グラシアとグレイが戻ってきた。

「私達は、始めから分かっていたけどね」

 グラシアが言う。

「ボルドーさんだけじゃない。十傑という名前だって、スクレイの人々の心に残っている。三年前、皆が皆、王族達を指示していたわけじゃないんだよ」

「そうか」


 実は、三百人はほしいとは言ったが、本当は五百人は必要だろうと、ボルドーは思っていた。しかし、そこまで集まるとは、微塵も思っていなかったので、少なく言っていたのだ。

 最終的に、九百もの人が集まることになった。

 自分たちがやってきたことは、自分たちが思っていた以上に、人の心に何かを刻みつけるものだったのかもしれない。ボルドーは、そう思った。


 これで、ついに国との戦いが始まる。

 これからが、本当の戦いだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ