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雨が降っていた  作者: D太郎
カラトと十傑
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男の話を聞いた

 男の話を聞いた。



 都に突如、国外に脱出したはずの王族の一派が現れたのは、今から三日前だという。

 王族の一派の動向は、注意をはらっているはずだった。しかし、彼らの都への接近は、まったく気がつかなかった。彼らは、ある程度の武装集団を抱えていたが、都の兵力に比べれば大したことはない。

 彼らは、すぐに王宮になだれ込んできた。そこで小規模な小競り合いが起こった。しかし、カラト派側が優勢だった形勢は、すぐにひっくり返ってしまう。

 こちら側の内部に、始めから複数の内通者がいたということだ。内部から崩壊した都の部隊は立て直すことができなかった。主力は、ほとんどか十傑の元にいるのだ。

 王族の一派は、瞬く間に王宮を掌握してしまった。

 そしてカラトとフォーンに協力した者達は、権力の悪用という理由で、有無を言わさず殺されていった。

 フォーンの部下の一人であった男は、すんでのところで難を免れて、命辛々逃げ出したという。

 その後、都がどうなったかは分からないらしい。フォーンがどうなったかも分からないという。


「カラトさん、皆さん、すぐに逃げて下さい。王族達は、皆さんを密かに抹殺しようとしています。あいつらにとって、皆さんの存在は邪魔なんです。しかし、真っ正面からは戦えないから、密かに暗殺をしようとしているんです」

 男は、泣きながら、息も絶え絶えにそう言った。

「……大丈夫です。我々なら、大丈夫です」

 カラトが、男の肩に手を当てて、低い声で言う。

「よく、逃げ延びてきてくれました。都の状況が分からないままだったら、王族達に騙されたかもしれません」

「カラトさん……」

「とにかく、今はゆっくり休んで下さい。ここは、安全ですから」

 男は、体を震わせて俯いた。






「すぐに、都を取り返しに行こう!」

 グレイが声を上げた。

 カラトの幕舎である。グラシアも来ていた。これで、今この近辺にいる十傑は全員だった。残りの四人は、少し遠方にいる。

「私たちが掌握してる軍を使えば、十分に勝てる。それに、なんたって私たちがいるのだから」

 グラシアが言う。

 言われたカラトは、フォーンの部下からの話を聞いた後、ずっと黙っていた。表情は、明らかに落ちている。

「どうしたんだよ、カラト?」

 コバルトが言った。

「もう少し……」

 呟くように言う。

「もう少し、情報を集まるのを待とう」

 他の三人は、不満そうな顔をしたが、カラトに従った。


 数日が経つ。

 やはり、都が乗っ取られたのは間違いないようだ。カラトとフォーンが、事実上擁立した王は、生きてはいるようだが、王族の一派に完全に従っているようだ。

 そして、都にいた民衆は、一応に王族側に靡いたという。それどころか、各地にいた役人や兵士も、王族側に従い始めているという。

 その話を聞いた三人は、信じられないといった顔をした。

「くそがっ!」

 コバルトが地面を蹴った。

「どうなってやがる!? 何で、この国を救った男じゃなくて、この国を滅茶苦茶にした奴らに靡いていくんだよ」

「始めから、心の底では私たちに賛同してくれていなかったのかもね」

 グラシアが言った。

「というより、大きい流れがあれば、どんなものであろうと乗っかる。それが民衆なのかもしれない」

「なんで、こんな状況で平気でいられるんだよ」

「平気なわけないでしょ!」

「戦おう、カラト!」

 グレイが言った。

「ここの兵達は、絶対に私たちを裏切ることはない。相手がどれだけいようと、この軍が負けるはずがない」

「五日も待てば、他の四人も合流できる」

「戦おう!」

 もう一度言う。

「……駄目だ」

 カラトが言った。

「ここで俺たちが軍を起こしたら、血で血を洗う内戦になってしまう。大戦をしたばかりのこの国で、そんなことをやってしまえば、今度こそ国が滅びる」

「向こうから、仕掛けてきたんじゃないか」

「それでも……駄目なんだ」

 沈黙する。

 全員が押し黙った。











 その後。

 カラトは、軍を都の方向に少し動かした。そして、使者の遣り取りを王族側に要求した。

 話し合いである。

 カラト達の暗殺は不可能だと分かった今、激怒した十傑に攻め込まれることが、一番怖いはずの王族は、それを呑む。

 そこで、数日に渡って使者の遣り取りが何度か行われた。

 内戦をしたくないカラトは、全面的に譲歩をした。それにより、話し合いは進み、いくつかの取り決めができた。

 一つは、王族側による十傑といわれた十人に対する攻撃行為を今後一切しないことだ。それが違反された場合は、残りの十傑が王族側に対しての、なんらかの報復を行う。その代わり、王族達の実権を事実上許すということになる。

 二つ目は、軍の退役を望む者は、無条件で退役を許すということだ。そのかわり、軍を抜けた者は、その後内政に関して一切の干渉をしない。

 それらの取り決めを、協定と呼んだ。


 それらが終わった後、カラトは軍の、十傑の解散を宣言した。











 夕日が見える。

 オレンジの町だった。

 もう、十傑の元にいた軍はいなくなっていた。それぞれ、軍を抜ける者続ける者に分かれて散っていった。

 特に、カラトに共感して集まった者達は、泣いている者が多かった。

 フォーンの消息は分からないままだった。使者で王族側に消息を聞いても具体的な返答はない。都での戦闘の後の混乱の為だ、ということらしい。

 王族の一派が、都を掌握した際に、真っ先に殺されたという噂があるだけだった。

 結局、十傑の他の四人も合流する間がなかった。

 ダークは、前方に視線を向ける。

 カラトの後ろ姿が見える。その後ろに、グレイ、コバルト、グラシアが立っていた。

「……ごめん、みんな」

 少しして、カラトが言った。

「約束したことが、果たせなくなって」

 沈黙。

「本当に、すまない」

 再び、沈黙。

 誰も何も言わなかった。

 そのまま、暫く。

「……カラト……これからどうするの?」

 グレイが言った。

「分からない」

 カラトが言う。

「ただ……しばらくは、戦うことからは離れたいな」

 言うと、北の方角を向いた。

「それからは、それから考えるよ」

 そう言ってから、しばらくして、じゃあ、と言った。

 そしてカラトは、北に歩いていった。

 三人は、ただ呆然と、それを見送るだけだった。

 ダークも、同様だった。











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