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雨が降っていた  作者: D太郎
カラトと十傑
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光が変わった

 光が変わった。



 恐る恐る閉じていた目を開くと、赤い炎の光が、そこにはなかった。

 代わりにあるのは、上から降り注ぐ日の光だ。


 状況が把握できない。

 横にいるグラシアも唖然としている。

 天井に大きな穴が空いていることに気が付く。そこから、日の光が入ってきているのだ。

 そういえば、炎が飛んできたのは、どちらからだったのだろうか。

 いまいち、方向感覚が分からない。


 ある程度周りを見渡して、ようやく分かった。炎が飛んできていた通路は、壁になっていたのだ。壁というより、崩れた石で埋まっている。

 そして、その前に男が一人居ることに、ようやく気付いた。

 藍色の短い髪に、無精髭。手には、長柄の大斧を持っている。


「デルフト」

 グレイが言うと、デルフトはこちらを少し一瞥した。

「もしかして、あんたがやったの?」

 通路の上から天井を崩して、炎を塞き止めたということか。

 すごいというより、呆れてしまう。

「さすがに、今のは死んだと思ったわ。ありがとうデルフト」

 グラシアが感謝の言葉を言う。

 私には言わなかったのに、簡単に言いやがった。

「というか、何で分かったの? 上から地下道の状況が」

 言うと、デルフトは何も言わず、上を見上げた。

 つられて上を見ると、穴からスカーレットが見えた。


「大丈夫ですか?」

「なんとかね」

 するとスカーレットは、ふわりと飛び降りてきた。滞空時間が長く感じるような降り方だった。この女は、何をやってもいちいち優雅にしないと気が済まないのか。

「あんたが何かやったの?」

「ええ」

 スカーレットは、両手に持っている鞭のような物を見せた。彼女の武器だ。

「これで地面に伝わっている振動を感知するのです。私の心気の力も利用して。それによって、地下で何が起こっているのか、おおよそ把握することができるのです」

「このじいさんと大差ない芸当っぷりだな」

「そちらの方が、五気聖さん?」

「多分」

 男は、壁に固定されたままだった。驚いた表情をしている。

「スカーレット、地下道に二人残ってるんだ。そいつらの位置と……そういえば、敵の場所も分かったりするのかな?」

「やってみましょうか」






 一同は、捕らえた男と共に、地上に上がった。

 スカーレットは、地面に刺した杭のような物に鞭を巻き付けるという行為を何カ所かでやっていた。

 少しして、戻ってくる。


「どうやら、心配は無いようですよ」

 スカーレットが、軽く笑みながら言う。

「どういうこと?」

 グラシアは聞いた。

「直に分かります」


 言葉通り、少ししてコバルトとシーが歩いてくるのが見えた。

 コバルトは肩に、拘束されている老人を抱えているようだ。その男を含め、三人とも黒く汚れている。

「とっ捕まえたぜ」

 コバルトが言った。

「その人が、火の犯人?」

「そうそう、すげえ火薬の量だったぜ。自爆されてたら、俺たちも終わりだったな」

「どうやってたの?」

「どうやら、始めから地下道中に火薬を仕掛けてたみたいだぜ。それに油とな。それらが燃え広がってたのが、炎が飛んできているように見えたんだ」

「何それ? 無茶苦茶ね。うまくいくとは思えない手法だけど。下手すれば、一気に全部に引火するかもしれないでしょ」

「それも、五気聖がなせる技ってことだろ」

 コバルトは、男を降ろした。

「そういえば、何で二人がここにいるんだ?」

「ボルドーさんが、門の開放は一人でも大丈夫だから、こちらの方に向かえと言われましたので。おそらく、こちらの方は苦戦しているからとも言っておりましたわ」

「あ、そう……」

「そう考えると、ここに六人も固まってるのは時間の無駄ね。あと敵が何人いるか分からないけど、すぐに援護に向かいましょう」

 その時、轟音が響いた。


 遠くに、土煙が上がっている。











 建物がいくつか崩れて、瓦礫だらけの場所だった。

 その瓦礫の中心にカラトが立っているのが見えた。

 何やら、辺りを見回しているようだ。手には剣を持っている。

 グレイは、そこに入っていこうと思ったが、瓦礫の外に、ダークが腕を組んで立っているのが見えた。カラトの方を見ているようだ。

 先にそちらに近づいた。


「何やってるの?」

 ダークは、こちらを一瞥して、何も言わず、すぐに視線を戻した。

 この男は……。

 グレイは、瓦礫の中に足を踏み入れようとした。

「やめておけ」

 後ろから、ダークが言う。

「どういうこと?」

「死にたくないなら、入らんほうがいい。それに、お前じゃカラトの足手まといになる」

 相変わらずの、苛つく言い方だ。

「誰かと戦っているの?」

「見ていれば分かる」

 むっとしたが、言われたとおり、見ることにした。


 カラトは、まだ辺りを見回している。何かを探しているようにも見えるが、立っている場所は、ほとんど動いていない。

 少しして、カラトは突然、横に飛び退いた。

 カラトがいた地面から、何かが立っている。

 目を凝らして見ると、それは槍だ。上向きに刃をたてた槍が三本、地面から突き立っていた。

 何が起こっているんだと考える間もなく、カラトは縦横無尽に動き回っている。そして、至る所の地面から槍が飛び出してきている。

 しばらくすると、今度は地面から離れる槍も何本か出てきた。宙に上がり、上方から攻撃するのだ。どうやって狙いをつけているのか分からないが、驚くほどに的確にカラトを狙っていた。

 そして、カラトも驚くほどに悉くをかわしている。

 いつの間にか、上からも下からも槍の量が膨大になってきた。まるで雨が上下から降っているようだ。

 カラトの姿も、途切れ途切れにしか見えない。土煙も上がり始めている。

 言葉を忘れていた。

 助けに行こうなどと口にできない。あそこに飛び込んで、生きていられる自信がない。

 ただただ、見ているだけだった。

 次第に、カラトの姿も見えなくなってきた。

 槍が、地面から飛び出る音と、地面に刺さる音が、断続的に響いているだけだ。

 土煙が、かなり濃くなってくる。

 すると、突然音が止んだ。

 先ほどまで、うるさいほどだったので、随分静かに感じる。

 ゆっくりと、土煙が薄くなってくる。

 槍が、いくつか山のように積み重なっているのが見えた。

 グレイは、カラトの姿を目で探した。

 少しして、槍の山の間に立っているカラトを見つけた。

 グレイは、瓦礫に足を踏み入れた。今度は、ダークは何も言わなかった。

 槍の山を避けながらカラトに近づいていくと、カラトの手前に老人が一人仰向けに横たわっているのが見えた。

 さらに近づくと、初めてカラトがこちらを見た。


「やあ、グレイ」

 相変わらずの、言い方だ。

「大丈夫、カラト?」

「なんとかね」

 近くで見ると、多少の傷があるのが分かった。

 老人の方に目を向ける。息はあるようだ。

「この人も、五気聖?」

「そうだろうね。あんな技ができる人間が何人もいられちゃあ堪まったもんじゃない」

 その言葉に、グレイは思わずカラトの顔を見た。

「さっきの槍、全部この人が一人でやったっていうの?」

「おそらく」

 もう一度、老人を見た。小柄で華奢な老人だ。あんな芸当ができるなどとは、とても信じられない。といっても、体格がいいからできるというものでもないだろうが。


「完敗じゃな……」

 ふいに、老人が呟くように言った。

「小僧、一体何者じゃ? 恐ろしいほどの、戦闘感覚じゃな」

「もう一回やれと言われれば、できる自信がないのですがね」

「ほほ、謙遜なのか?」

 笑うと、老人は一つ息を吐いた。

「これで、この戦はお主達の勝ちじゃな。クロスには、もう戦う力が残っておらん」

 少しの間。

「城壁で防衛しとる者達の命は助けてやってはもらえんか? 儂達の道楽に付き合わせてしまった者達じゃからな」

「いいでしょう」

 カラトが言う。

「感謝する」

 ところで、と言葉を続ける。


「お主は強すぎるのう……いつの日か、その力を持て余す時が必ず来るはずじゃ。その時、お主はどうするのかな……」

 どんどん声が小さくなっていく。

「見物じゃな」


 言うだけ言うと、老人は目を閉じた。






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