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雨が降っていた  作者: D太郎
カラトと十傑
53/103

男が横たわっていた

 男が横たわっていた。



「石なんかよりも、凶器を飛ばしたほうが威力があると思うがな」

 ダークが言った。

「ふん……そんな物大量に持ってこようと思うと、とんだ労力じゃわい。やはり、現地調達が一番いい。まあ、あえてその苦労をしとる者もいるがな……」

 男は、何とか声を出しているように見える。

「しかし、よく分かったの。あの技の突破法が」

「ああ」


 ダークは、数分前の出来事を思い出す。

 全方向からの攻撃に、ダークはすぐに一つの疑問を思いついた。

 あの男は、どうするのだ?

 攻撃の円の中に、あの男も入っている。攻撃を受けるのか? そんなはずはない、ということは。

 ダークは真っ直ぐ、男に直進した。

 予想通り、男の影は石が飛んでこない場所になっていたのだ。そして、ダークは男に攻撃をかけた。

 ただ、剣の側面で叩いただけだが。

 それでも、男は虫の息に見えた。


「しかし、随分と切羽詰まっているようだな、クロスは。あんたのようなじじいを戦場に送り込むとは」

 言うと、男の口から息が漏れた。

「儂らは、自ら志願してここに来たのじゃ。多少無理を言って悪かったとは思っている」

 息継ぎ。

「この歳で、この地位になると、本気を出して戦う機会などないからな。これまでの半生を費やして磨いた技を使わずに朽ちるのは、なんとも惜しいと儂らは思っているんじゃよ」

 それは、ダークにも分かる感情だった。

「まあ、これで、少しは満足できたかの。ただ、一人ぐらいは倒したかったがな……」

「ところで、あんた達が心気の創始者だって本当なのか?」

「ふぁふぁ、まさか。話に尾ひれがついただけじゃよ」

 男は、ゆっくりと息を吐いた。


「まあ、せいぜい気を付けることだ。残りの四人の戦法は、儂よりも嫌らしいからな……」

 言うと、男は眠るように目を閉じた。











 グレイ達四人は、迷路のような地下道の中を、謎の火柱から逃げ回っていた。

 外に出ようにも、もはや出口が分からない。それに、もし見つけて、のこのこと出て行こうとするものなら、おそらく炎に狙い撃ちされるだろう。そういう攻撃だった。

 二人が言うには、誰かいるらしいが、グレイはその姿を確認できていない。


「ちょっと、巧すぎない?」

 グラシアが言った。

「は?」

「敵の攻撃よ。姿が見えたら、射抜いてやろうと思ってたんだけど、一度も見せないでしょ。だけど、さっきから炎は的確にこっちを狙ってきている。こっちを確認しないでそんなことできると思う?」

「何か、確認できる方法があるのかも」

「もしかすると、もう一人いるのかもしれませんよ」

 ふいに、シーが言った。

「どうして、そう思うの?」

「何となくなのですが」

 そう言われて、グレイは、逃げてきた道の反対方向を見た。

 真っ暗だ。

 何度も炎を見ているせいで、暗闇に目が慣れていないのだ。もしも、そちらにも人がいるとすると、どうなるのだろうか。


「確認する価値はあるかもね」

「まあ、四人が固まって動く意味もないしな」

 コバルトが言った。

「じゃあ、外れを引いても恨みっこなしで」

 四人は向き合って立った。


 そして、同時に思い思いの方向に指を差す。差した方に、それぞれが走り出した。






 グレイは、しばらく暗闇の中を走っていた。

 先ほどから何度か、どこかが明るくなっている。誰かが炎で狙われたのだろう。

 グレイは、速度を落とし、足音を消して走り始めた。

 いくつか角を曲がると、また通路の先の方が明るくなった。眩しいと感じる。そろそろ、暗闇に少し目が慣れてきた。

 目を凝らして進んだ。

 再びしばらく進んだところで、グレイは足を止めた。

 前方の、通路の角の所に誰かがいる。

 他の三人ではない。人影が小さいのだ。グレイは、息を止めて腰を屈めた。

 一足飛びに、相手の懐まで飛び込む、そう考えた。両手の剣を握り直す。ゆっくりと息を吸った。

 次の瞬間、思い切り地面を蹴った。

 あと一秒。それで、攻撃を入れられる。

 人影が少し鮮明に見えてきた時、グレイは一瞬逡巡した。

 顔が、こちらを向いていたのだ。

「惜しい、惜しい」

 男の声とほぼ同時に、上の方から別の音が近づいてきた。






 グラシアは、何かが崩れるような音を聞いた。

 あれだけ炎が行き来しているのだ。熱で、どこかが脆くなって崩れても不思議ではない。

 しかし、妙に耳に音が残った。


 気になって、音がしたと思われる方に向かった。

 暗闇の中、おそらく土煙が舞っている。その奥に、うっすら人影が見えた。

 敵か味方か分からなかったが、弓矢の標準をつけた。

 それから、ゆっくりと近づいた。


「おや? この音は弓か」

 男の声がした。明らかに知らない声だ。人影も小さい。敵だということだ。

 しかし、何て言った?

 音?

「動くなよ。今あんたに弓で狙いをつけている。この指を放した瞬間、あんたは死ぬことになるからね」

「どうやら、そのようだね」

 さらに近づく。


 暗くてよく見えないが、年配の男のようだ。

 通路の角に胡座をかいて座っている。背が曲がっていて、少し俯いている。こちらを見ていないようだ。

「あなたが、あの炎を飛ばしてる人?」

「いいや、違うね」

 十歩ほどの距離まで近づいた。

 グラシアがいる反対の方の通路に、石が崩れて山になっているのが見えた。さっきの音の正体は、これだろうか。


「じゃあ、あなたは、そのお仲間さん?」

「お嬢さん、私の仲間の炎使いが、今君の後方から狙いを定めている」

 言われて、ぎくりとした。振り返りそうになったが、なんとか堪える。

「なかなか、達の悪い冗談ね」

「冗談ではないさ」

「いいや、冗談ね。だって、この通路で今炎を飛ばしたら、あなただって焼け死ぬじゃない」

「あいつには、私はいないものとして考えてくれと言ってある」

 男が言った。

 五歩ほどの距離で、グラシアは気づいた。

 男は目を閉じている。

「さっきは違うと言ったが、実は半分は正解だ。仲間に、お前達の場所を報せているのは私だ。そして仲間は、何も気にすることもなく、爆発炎を放つだけなのさ」

 グラシアは、弓を構えたままだ。

「私には、今この空間がどうなっているのか手に取るように分かるのさ。音でね。炎をかわすことなど容易いことだ」

 言って、男がこちらに顔を向けた。

 完全に目を閉じている。

「あんた、目が」

「その通り。だが、お陰でこっちの方に特化した心気を編み出すことができたがね」

 そう言って、耳の辺りに手を当てた。

「人の気配だけではなく、私は物の構造も感知することができる。壁などを一度叩けば、どこが崩れやすいかなどが分かるということだ。先ほども、その能力を使って一人埋めたところだ」

 男の言葉に、自然と目が、石の山に向いた。

「先ほど?」

「ああ、おそらく女性だね。ああ、そうそう両手に剣を持っていたな」

 あの馬鹿。

 一瞬、頭に血が昇りそうになったが、すぐに思考を切り替えた。


 何故男は、わざわざ自分の能力を言ったのだ? 何か意図があるのか。

 多分、今言っていた石壁を崩す攻撃を自分に当てようとしているのかもしれない。心理的に揺さぶりをかけて、石壁を当てれる場所に誘導しようとしているのか。

 ああいうことを聞けば、普通なら下がりたくなるだろう。つまり、下がっては駄目だということか。

 しかし、前に進むのも躊躇してしまう。

 さっさと矢を放ってしまった方がいいのか。


「はっはっは、余計なことを言ってしまったかな」

 男が言う。

「君が今気にしなくてはならないのは、後ろから来ている爆発炎なのにな」

 言われて、グラシアは振り返った。

 真っ暗な通路が続いているだけだ。

 しまった。

 視線を戻すと、男がすぐ近くまで来ていた。

 男の手が伸びてくる。

 やられた。

 思った時、男の手が、横に弾かれるように動いた。

 小さな呻き声と同時に、男の体も横に移動した。

 見ると、男の腕に短い剣が刺さっている。そして、貫通した剣は壁に刺さって固定されていた。


「ようやく隙を見せてくれたか」

 声がした。

 石の山から、グレイが立ち上がっていた。

「あんた、死んだんじゃなかったの?」

「あれぐらいで殺されてたまるか。動けないふりをして、ずっと機会を伺っていたのよ」

 言うと、グレイは口元を押さえた。

「それにしても、見事に引っかかってたわね」

 笑いを堪えている。

 こいつ。心配して損をした。

「あんただって、生き埋めにされてたでしょ!」

「私は、芝居してただけなの」

「体中傷だらけで、よく言う」

「ちょっと、それより感謝が先じゃないの? 助けてあげたんだから」

「まったく気づかなかったよ」

 男の声が割って入った。視線を向ける。剣を抜くことは諦めているようだ。

「私の耳が感知できないとはね」

「まあ、こういうことは得意だからね」

 二人は男に近づく。


「さてと、どうしようか」

「おじいさん、とりあえず仲間の居場所を教えてくれない?」

 男は、静かに笑む。

「その必要はないよ」

「どういうこと?」

 少しの間。


「私は定期的に、仲間に音で合図を送っている。そして、それが途絶えた時、私は敵にやられたと仲間は判断するはずだ」

 男が言っている。

「そして、その時私の居場所には、十中八九敵がいるだろうと仲間は考えるだろう」

 間。

「まだ分からないかい?」


 グラシアは、一瞬思考が目まぐるしく動いた。

 同時に、壁に赤い光が反射しているのが見えた。

 振り向くと、通路一杯に、熱と光が充満していた。

 絶句。


 視界中が、真っ白になった。






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