表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨が降っていた  作者: D太郎
カラトと十傑
52/103

異様な光景だった

 異様な光景だった。



「おい、じいさん。浮く手品はすげえが、なんかの冗談なら余所でやってくれ。種は、また今度教えて貰うからよ」

 コバルトが言った。

「つれない小僧たちじゃの。まあ、否応にも付き合って貰うがな」

 そう言うと、宙に浮いたままの格好の老人は、両手を少し上げた。

 顔の横辺りまで持ってくると、それを前で振った。

 何だ、と思う前に、ダークは音を耳に捉えた。

 咄嗟に剣を抜きはなった。

 次の瞬間、四方八方から、人の頭ぐらいの石や瓦礫が無数に飛んできていた。

 瞬時、判断。

 避ける、打つ、払いのける。

 瓦礫の雨は五秒ほどで止んだ。掠り傷が、腕に一つ、足に二つあることがすぐに分かる。

 ダークは思わず舌打ちをした。


「いっ……」

 後ろで声がする。どうやら、何発か当たったようだ。

「今の何だ?」

「あのお爺さんがやったの?」

「ほほう、さすがじゃな。まともに食らった者が一人もおらぬわ」


「おい、じじい。まさか、あんたがクロス五気聖とかいうやつか?」

 ダークが言った。

「ほほう、この国にも、その名が伝わっていたか。如何にも、儂がクロス五気聖の一人じゃ」

「クロス五気聖ってのは、手品師か何かなのか?」

「侮辱は許さん」

 老人の顔から、笑みが消える。

「儂達は、心気の絶対量ではどうしても全盛期に劣る。お前達のように、若い者にも劣る。故に、どこで勝負ができるかを考えざるをえんかった。そう、長年に渡り蓄積された、技と知恵じゃ。そして、クロス最強の心気使いとして、今も尚、その座に君臨しておる。その意味が分かるかな?」

「がたがた喧しいな」

 剣を構える。

「要は、あんたをぶった切ればいいんだな?」

「ふぁ、ふぁ、いいのう、構わんよ。たまには後進の手解きでもしてやるかの」


 ダークは、思い切り地面を蹴った。建物の壁を一度蹴れば、あの男の高さまで届くはずだ。

 壁を蹴る。剣を横に構える。男の顔は笑ったままだった。

 その顔に叩き込むつもりで、剣を払ったが、手応えがなかった。男が、同じ高さのまま、後ろに移動していた。

「羨ましいほどの身体能力じゃな。しかし、少々不用心じゃの」

 男が手を振ると、再び石が飛んでくる。ダークは落下しながら、それをすべてを弾いた。そして、着地。


「ちょっと、一人で先走らないでよ。こっちは、折角三人いるんだから。相変わらずね、あなた」

 その時、轟音が響いた。

「ほうほう、やっとるのう」

 石造りの地面が揺れるような感覚を感じる。次の瞬間、その地面が下に崩れ落ちた。

 ダークは、咄嗟に飛び上がり落ちなかったが、二人は反応が遅れて、穴に落下していった。

「あやつのやることは、少々乱暴じゃの」

 男が言っている。

「あんたの仲間か?」

「ああ。お前さんの仲間は、地下で消し炭になってしまうかもな」






 崩れた石畳の上にいた。

 二方向に地下道が続いている。幅は、人間三人分。高さは二人分といったところか。どういう用途で作られたものかは分からない。

 上を見上げると、光が差し込んでいる。落ちてきた穴だ。今いる場所だけ通路が広くなっており、人が三人分ほどの高さがあった。

 しかし、上れない高さではない。

 横にいたコバルトを見る。


 その時、通路の奥から、人が走る足音が聞こえた。

 グレイは、双剣を構えて立つ。

 角を曲がってくる者に向かって、一歩踏み出した。

「のわっ!」

「おおっ!」

 一瞬、攻撃しそうになったが、なんとか踏みとどまった。

 弓を構えたグラシアだ。それと、シーがいた。カラト組の二人だ。


「なんでここに?」

「いや、いきなり変なじいさんがさ、地面に穴を空けて」

「カラトは?」

「分からない、はぐれた」

「話をするのなら、移動してからの方が良いと思いますけど」

 後ろにいたシーが言った。

「ああ、そうそう。行くぞ」

 そう言うと二人は、自分達を避けて、逆側の通路に走っていく。

 二人が来た方の通路の奥が、明るくなった。

 火柱が、こちらに向かって飛んできていた。

「ええっ!?」

 大急ぎで、火柱と反対の道を走った。角を曲がって、なんとか難を逃れる。熱が、顔を掠めていった。


「いやあ、さっきから、あの調子でさあ」

「何よ、今の?」

「だから、変なじいさんがさ」

「人の仕業?」

「多分、クロス五気聖とかいうのだろう」

「どうする?」

「どうもこうも、ぶっ倒すしかないんじゃないの」






 屋根から屋根を飛び移りながら移動していた。

 先ほどから、この城塞の至る所で戦闘の気配を感じる。

 おそらく、自分と同じく、五気聖とかいう奴らと戦っているのだろう。

 ダークは、自分の戦闘に意識を戻した。


 あの男の戦闘方法は、うっすらと種が分かってきた。

 男は、建物の高さよりも上に上がることはできないようだ。それに、浮きながら移動できる範囲も制限がある。

 男が見える屋根の上に立った。

 少し低い位置で、男はこちらを見ている。


「ふん、すべて見切ってやったぞとでも言いたそうな顔じゃな」

「残念ながら、その通りだ。死にたくないなら、大人しく投降するんだな」

 男は、声を出して笑う。

「舐められたもんじゃな。この程度の戦闘で、見切ったじゃと?」

 男は、片手を握り拳にして、真上に突き上げた。

「儂の心気操術の真髄は、まだまだこれからだ!」

 視界が傾いた。

 立っていた屋根が傾いていた。見ると、建物の至る所に亀裂が走っている。

 ダークが飛び上がると、ほぼ同時に、建物は音と煙を上げて崩れ落ちた。

 ダークは、そのまま男に接近する。直接男にではなく、男の周りに斬撃を繰り出した。

 何かを切った感触はなかったが、男の表情が動く。男が、下に落下を始めた。

 ダークは、目を凝らして目視する。

 やはり、糸のような細い線があちこちに張り巡らされている。切断することは容易いが、引きちぎるのは難しいのだろう。そういう線だった。素材は分からない。


 男は地面に叩きつけられるのかと思ったが、地面に当たらず、振り子の玉のように、横に移動していた。まだ、どこかに糸が繋がっていたのか。

 すると、その移動方法を繰り返し、路地を直進していく。

「逃げる気か?」

 ダークは、走って追っていった。


 角を曲がると、大きめの広場だった。その中心に男がいた。

 低いが、やはり浮いていた。

 先ほどの戦法は使いにくい場所だろうと思われるが、浮いているということは、どこかから糸を延ばしているはずなのだが。

 男は、こちらを見据えている。

 ダークは、ゆっくり歩いて近づいた。


「まだ続ける気か?」

 言うと、男は口角を上げる。

「言ったであろう、真髄はこれからじゃとな」

 男は、握り拳を作った片手を、少し上げて、それを下に振り下ろした。

 ダークは、一瞬言葉を失った。

 石や瓦礫が飛んでくる、それは今までと同じだ。ただ、今度は視界に一杯だった。

 見渡す限り、すべての方向から隙間無く飛んできているのだ。広場の周りにあった建物すべてに仕込んでいたということなのか。

「この量じゃ! 先ほどのように、たたき落とすこともできぬぞ!」


 瞬間、ダークは動いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ