表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨が降っていた  作者: D太郎
カラトと十傑
47/103

とある町に入った

 とある町に入った。



 カラトから事前に何も聞かされていないので、どこに行くのか、どういう者に会いに行こうとしているのか、ダークには分からなかった。

 誰かに会うのだろうと思い、どこかの町に入ると突然、見たかっただけだ、などとカラトが言うことも何度かあった。

 たまに、この男は精神が安定していないのかと思う。


 今回は、町の兵舎に向かった。ということは、次の勧誘は軍人だろうか。

 入ると、まず兵にぞんざいに扱われるのはいつも通りだ。二人とも、見た目は格があるようには見えないだろう。少し話をすると、態度ががらっと変わる。


 話が終わり、一人の兵に案内されて、二人は地下に入った。

 こんな所に、誰がいるというのか。

 薄暗く、湿気が多い。十中八九、地下牢だろう。


 やがて、鉄格子が並んでいる場所まで来た。

 ある一角で、立ち止まる。

 中を覗くと、奥の方で、誰かが俯いて胡座をかいているのが見えた。

 薄汚れた服を着ていて、頬が痩けている。無精髭が顔の半分を覆っているようだ。こめかみの辺りに、大きな刃傷の後があった。


 カラトが、一歩格子に近づいた。

「こんにちは」

 中の男は、少し視線を上げた。

「貴方が、デルフトさん?」

 カラトが言った。男は黙って、上目遣いでカラトを見ている。

「おい、まさかこいつか?」

 思わずダークは言った。

「そうだよ」

「囚人だぞ」

「そうだね」

 ダークは、案内をした兵を見る。

「こいつの罪は何だ?」

「殺人です」

 カラトに視線を戻す。

「本気か?」

 カラトはデルフトを見ている。

「デルフトさん、俺たちと一緒に戦ってもらえませんか?」

 カラトが言う。デルフトは微動だもしない。

 カラトは、そのままいつもの話を始めた。

 話が終わっても、デルフトは、まったく動かなかった。


「喋れないんじゃないか?」

 ダークは言った。カラトは、兵を見る。

「道具か何かで口を塞いでいるわけではありません。ただ、我々も話しているところは見たことがないのですよ」

「やはり喋れないんだろうよ。もしかしたら、耳も聞こえていないんじゃないのか?」 

 カラトは、しゃがんでデルフトを見る。

「返答を聞きたいのですが……」

「何故、私だ」

 低い声が響いた。一瞬、誰の声か分からなかった。

 デルフトが喋ったのだ。予想以上に滑舌も良かった。

 カラトは微笑む。

「ある程度、貴方のことは調べさせてもらいました。貴方ならば、大いに戦力になると思ったからです」

「私は、囚人だ」

「たしかに。罪は罪として罰されてはもらいます。しかし、我々に協力してもらえるなら、減刑も可能でしょう」

「減刑など必要ない」

 デルフトが言う。何だこいつはと、ダークは思っていた。

「ならば、減刑も恩赦もなしに協力してください」

 カラトが言った。

「協力してもらえるなら、刑の執行を早めましょう。あなたの希望通りにね」

 デルフトは、カラトを見ている。

「どうですか?」


 少しの間。

「何だ、お前は?」

 デルフトが言うと、カラトは笑う。いつもの笑顔だった。


「ただの、カラトです」











 二人は街道から離れ始めた。


「今度は、どこへ行くんだ?」

 カラトは前方に指を向ける。

「あの山だよ」

 前方に、いくつか連なった深緑の山があった。それほど大きいとは思えない。

「隠者にでも会いに行くのか」

「まあ、似たようなものかな」


 二人は、そのまま山に向かっていった。

 ある程度近づくと、ダークは人の気配を感じた。

 一つや二つではない。かなりの大人数だ。

 ダークは、カラトの顔を見た。カラトは、何食わぬ顔をしている。


 人が踏み分けて作ったような道があった。そこに入ろうとすると、男が数人茂みから現れた。

 薄汚れた服を着ていて、刃物を持っている。当然、山賊だろう。

「何だ、てめえらは」

「君達の頭領に会わせてもらえないかな?」

 カラトが言った。

「軍人が私事で来たって言ってもらえればいいから」

「何言ってんだ?」

「死にたくなかったら、消えな」

 別の男が言う。

「聞いて来てもらうだけでも駄目かな?」

「あ?」

 カラトが言うと、三人の男が、目つきを悪くして近づいて来た。

 二歩の所まで来たら、斬り殺すか。ダークは、持っている剣の柄に手をかけた。

「待った」

 突然、男達の中で一番後ろにいた、年配の男が言った。

「誰か、聞くだけ聞きに行け」

 他の男達が、困惑気味に年配の男を見る。

「どうしたんだよ?」

「俺たちじゃ束になっても、そいつらに勝てねえよ」

「でも、俺たちが兄貴にどやされちまう」

「そんときゃ、俺が取りなしてやるよ」

 少し躊躇った後、一人が奥に走っていった。

「どうも、ありがとう」

 カラトが男に言った。

「頭が会わねえって言ったら、大人しく帰れよ」

「そうする」


 しばらく、そのまま待つ。

 やがて、男が戻ってきた。

「通せってさ」






 山の中腹辺りに広場があり、小屋があった。その周りに、男達が百人ほどいた。

 男達に注視されながら、二人は小屋に入った。


 奥に、どっしりと座っている男がいた。かなり背が高そうだ。

「コバルトさんですね」

 カラトが言う。

「誰だ、あんたら?」

 低い声で聞き返してくる。ある程度、警戒しているようだ。

「スクレイ軍で、一応将をさせてもらっている、カラトという者です。で、こっちが同僚のダーク」

「ほう」

 コバルトという男は、こちらを一通り観察していた。

「たった二人でと聞いて、大した度胸だなと思っていたが、そういうことでもなさそうだな。あんたら二人の手にかかれば、この山を無人にできそうだな」

 で、と言葉を続ける。

「何の用だ? 私事だとか」

「コバルトさん、俺たちと一緒に、国を守るために戦って下さい」

 コバルトの目が丸くなった。

 それから、笑い始めた。

「あんた、ここがどこだか知ってる?」

「山?」

「わざと言ってんのか?」

 カラトが、軽く笑む。

「山賊に、何を言ってるんだってことだよ」

「ただの山賊ではないでしょう?」

 カラトが言うと、コバルトの眉が少し動いた。

「積極的に民を襲ってはいない。襲うのは、私腹を肥やしている商人や役人ばかりだ。この辺りの民の間では義賊なんて呼ばれているらしいですね」

 コバルトは、不機嫌そうに横を向いた。

「それに、ここの所は、この辺りに入ってきているユーザ軍と戦っているらしいですし」

「てめえら、官軍がだらしねえからだよ」

「それは面目ないです」

 カラトは笑った。

「だったら是非、あなたが来て、官軍に一喝入れてください」

 コバルトが、カラトに視線を戻す。

「本気か?」

「勿論」

「はは、山賊にまで手を伸ばすとは、よっぽど切羽詰まってるんだな」

「ただの山賊でしたらね」

 カラトが言うと、コバルトの動きが止まった。

 それから、鋭く睨みつけてくる。なかなかの威圧だった。

「どこまで知ってやがる?」

「少しだけ」

 二人が言っている。当然、ダークは何のことか分からない。


 少しの沈黙の後、コバルトは息を吐いた。

「ここにいる奴らはどうなる?」

「戦う意志があるなら、戦陣に加わってもらっても構いません。そうしてもらった人の前科は取り消してもらえるよう、上の許可は貰ってあります」

「なるほどな……」

 言って、顎に手をやった。


「では、考えておいて下さい」



 カラトは踵を返した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ