表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨が降っていた  作者: D太郎
カラトとシエラ
24/103

いきなりの出来事だった

 いきなりの出来事だった。



 シエラは、セピアやペイルを追って、館内を走っていた。


 ついさっき突然、軍勢が館内に突入してきた。

 シエラは、一瞬身構えたが、軍人達は、シエラを無視するように素通りしていき、パウダーの私兵連中を、次々と拘束していった。

 呆気にとられた。


 その後、シエラは三階に向かって駆けたが、特に止められることもなかった。あちらこちらで、私兵達が、取り押さえられていた。

 不思議な気分のまま、三階の目的地に到着する。


 入れ違いで、口ひげの男が数人の軍人に連行されていた。それと、入れ替わるように、部屋に入る。

 すぐに、見知った顔が見えた。

 ペイルとセピアが、呆然と突っ立っていて、その奥には、コバルトもいた。他には、軍人が数人いるようだ。

 最後まで見回すと、入り口側の壁際にいた男に目が止まった。

「あっ」

 思わず、声が出てしまう。男と目が合った。

 ボルドーだ。何も言わず、腕を組んでいた。


「フーカーズ将軍、屋敷内の制圧、完了しました」

 部屋に入ってきた軍人が言う。

 フーカーズ?

「分かった。すぐに撤収する。後は管轄軍に任せる」

 部屋にいた一人の、軍人が言った。

 目が鋭く、黒の短髪だ。この男がフーカーズなのか。

 想像していたよりも、線が細く、背が低いと思った。ペイルと同じぐらいか、それより低いのではないか。

 ただ、手練れではあるだろう。実力は分からないが、それだけは分かった。


「では、ボルドーさん。私は、これで」

 フーカーズが、ボルドーに言った。

「ああ、助かったよ」

 ボルドーが答える。

「じゃあな、コバルト」

 フーカーズが、歩きながら、奥にいるコバルトに言った。

 コバルトは、何も言わず、フーカーズを見ている。

 部屋にいた、軍人達を引き連れて、部屋から出ていこうとする。


 ふと、フーカーズが、入り口の所で足を止めた。

 入り口の近くにいた、シエラの方に目を向けてきた。

 束の間、目が合った。

 そして、再び正面を向いて、足を進め始めた。


「そうか……」

 フーカーズが、そう呟いたのを、シエラは微かに聞いた。

 そして、部屋を出ていった。


 部屋に、五人だけになった。

「あ、あの……ボルドーさん」

 少しの沈黙の後、ペイルが口を開いた。

「ああ、ペイル。言い訳があるなら聞くぞ」

 腕を組んだまま、ボルドーが言った。

 怒っている。

 ペイルは、たじろいで黙った。

「お前達三人には、諭すだけでは利きそうにもないようだから、ちょっと説教をしてやらんといかんな。覚悟しておけよ」

 ペイルが、苦笑いのような顔をした。

 シエラも少し、緊張した。怒ったボルドーは怖い。


「お前もしてやろうか? コバルト」

「勘弁してくれよ、旦那」

「えっ?」

 ペイルが、声を上げた。ボルドーとペイルを見比べる。

「ああ……成る程、こいつら旦那の連れだったのか。道理で腕が立つわけだ」

 コバルトが言う。

「それに、あの堅物を動かしたのも、旦那ってわけだ」

 ボルドーが少し苦笑する。

「あいつは変わっていたよ。昔ほど頭が固くない」

「知り合いだったんですか? 二人は」

 ペイルが言った。

 わずかにボルドーが頷く。

「それに、ボルドーさん。さっきのやり取り、将軍とも知り合いだったということですか?」

 ペイルが、食いつくように聞いた。

 シエラも気になっていた。


 ボルドーが、目を閉じる。少ししてから、目を開いた。

「このことを黙っていたことに関しては、わしに非があるのだろうな。先に謝っておこう」

 ボルドーは、組んでいた腕を解いた。

「お前達が言っていたように、わしは昔、スクレイの十傑と呼ばれていた」

 ペイルは、緊張したように聞いている。

「ただ、十傑などという大層な名は、勝手に言われるようになったんだがな。自分達で名乗った覚えはない」

「そう……ですか」

 言うとペイルは、黙った。

 あれほど、興味がありそうだったのに、何故か、それ以上は何も聞こうとしない。シエラは不思議に思ったが、それ以上に聞きたいことがあった。


「カラトも……?」

 ボルドーが、ゆっくりと視線をこちらに向ける。

「……ああ、そうだ。カラトも十傑の一人だった」

 不思議な緊張感が起こった。シエラは、黙った。


「カラト? って前にシエラちゃん言ってた……あの、もしかしてコバルトも?」

 ペイルが言うと、ボルドーがコバルトを見る。

 全員の視線がコバルトに集まった。

「俺は、ちげえよ」

 コバルトが、手を振りながら言った。


 少しして、ボルドーがセピアを見た。

「どうした? セピア」

 俯き気味だったセピアの顔が少し上がる。

「ずっと、反応が鈍いな」

「あ、いえ……その、なんだか気落ちしてしまって」

 セピアが、言う。

「あっ」

 ペイルが声を上げる。

「シエラちゃん」

「あ、はい。屋敷の外に」

「何だ、どうした?」

 ボルドーが言う。

 ペイルが、セピアを見た。

「あの子供、生きていたんだよ」

「えっ?」

 セピアが、目を広げた。

「お前が、地下牢を飛び出した直後にな、小さい呻き声が聞こえてよ。牢を開けて、中を探したら、一人だけ生きてる子供がいたんだよ。お前が先走りそうだったから、俺だけ先に、お前を追っていって、シエラちゃんに子供を任せたんだ」


 セピアは、呆然といった顔をしていた。











 子供は、青い顔をして震えていた。当然だろう、あんな部屋にいたのだから。


 フーカーズ軍が、突入してきた直後だったので、ある程度の交戦は覚悟していたシエラだったが、難なく移動できた。

 とりあえず、連れている子供はどうしようかと考えながら、ふと屋敷の窓から外を見ると、門の陰から中をのぞき込んでる男達が見えた。

 コバルトの仲間だった四人だ。

 シエラは、すぐに外へ出ていき、彼らに子供を託して、屋敷に戻ったのだった。


「お前等」

 シエラ達が、屋敷から出ていくと、男達にコバルトが、呆れるように言っていた。

 どうやら、屋敷で騒ぎが起こったのが気になって、様子を見に来たらしい。


 その後、話し合って、子供は彼らが預かってくれることになった。

 セピアは、子供と少し顔を合わせただけだった。


 その後、宿に向かって歩いた。

 空が、少し明るくなってきていた。

「旦那……宿の主人だけどな。何年か前に、パウダーの野郎に追われてた奴を匿っていたのがバレちまって……」

「そういう類のことだろうとは思っていたがな……」

 ボルドーと、そういう会話をしていたコバルトは、町の路地を歩いていった。


 宿に戻ると、すぐに寝台で横になったが、なかなか寝付けなかった。


 結局、次の日は一日中、三人はボルドーの前で正座することになった。











 さらに次の日、イエローの町を出発することになった。

 早朝、宿を引き払って、四人で町を北に向かって歩いた。

 町の様子は、何も変わっていないように、シエラは感じた。

 町の暗さの原因が、あの男だけではないということなのか。あるいは、そうすぐには変化がないものなのか。

 あの夜も、屋敷に来たのは、あの四人だけだった。


 町から延びている街道に乗って、少し進んだ所で、ボルドーが横道に入っていく。

「ちょっと、見ていこうか」

「何をですか?」

「来れば分かる」


 四人で横道を進み、緩やかな坂を上ると、眺めのいい丘の上にでた。

「おお」

 ペイルが声を上げた。


 丘の下、広い平地に軍勢が展開しているのが、すぐに見えた。その向こうは、森が広がっている。

 これだけの人間が、密集しているのは初めて見た。ラベンダー村の住人よりも多そうだ。

 森に向かって、一つの集団が離れている。全員騎馬のようだ。残りの大勢は、それを遠巻きにするようにして、大きい半円形に展開していた。

 用兵は知らないが、不思議な配置だと、シエラは思った。


「あれ? コバルト」

 ペイルが言った。ペイルの視線の先を見ると、四人から少し離れた所に大きな岩があり、その上に、コバルトが興味なさそうに寝そべっている。

「少しだけだがな、あいつが着いてくるが、いいか?」

 ボルドーが言う。

「はあ、俺は別にいいですけど」


 その後、四人で軍を眺めていた。

「あの、離れている部隊だけ、質が桁違いに高いですね」

 セピアが、指を指して言う。

「ほう、分かるのか」

「馬と馬との距離が、かなり近いのに、まったく乱れてない。それに、さっきから余計な挙動がまったくない」


 すると、森の方が騒がしくなり始める。物を叩く音が響き、木々が、揺れる。大きい方の軍から声が上がる。

 少しして森の中から、数人、軍人が飛び出してきた。

 それに続くように、数頭の猪獣が森から飛び出してきた。

「うおっ」

 ペイルが声を上げる。

 次から次に、猪獣が飛び出してくる。そして、木をなぎ倒しながら、巨大な白い猪獣が現れた。

「うっわ!」

 通常の猪獣の三倍は大きい。周りに、猪獣を従えるようにして、突っ込んでくる。

「何だ、あれは」

 セピアも、声を上げる。


 大きい方の軍は、浮き足だっているようだった。猪獣の群に近い、小さい方の軍は、まったく動かない。

 すると、その軍の真ん中辺りから、一本の剣が上に突き立てられるのが見えた。

 フーカーズだ。

 遠くて識別はできないが、シエラはそう感じた。


 次の瞬間、小さい方の軍、騎馬隊は二つに分かれて猪獣の群に向かっていった。猪獣の突進線上のわずか外に出て、反転する。猪獣の群を挟むように併走しながら、群の外側から攻撃を始めた。


 シエラは、ラベンダー村の山中で、小さい猪獣を見たことがあった。猪獣は、急に方向転換ができない。ああされては、うまく反撃ができないだろうと思った。


 猪獣の群が、少しずつ横に方向を変えようとする。騎馬隊は速度を落とし、群の後ろで一つにまとまり、猪獣の群の横腹に突っ込んだ。

 群が、完全に崩れた。あっという間に、騎馬隊は、白い猪獣を取り囲んで、集中攻撃を始めた。

「すげえ……」

 ペイルの声が聞こえる。


 見る見る、白い猪獣の速度が落ちる。やがて、ゆっくりと音を立てて白い猪獣は倒れた。

 すると、取り巻きの猪獣達は、一目散に森の方に走っていった。

 大きい方の軍から歓声が上がった。そこから次々と、猪獣を追って走り出す者がいた。

 騎馬隊は、一つにまとまっている。追撃には関心がなさそうだ。


「行くぞ」

 ボルドーの声がして振り返ると、すでに道を二十歩ほど、先をいっていた。コバルトは、さらに向こうを歩いている。

 ペイルとセピアが、慌てて後を追った。シエラも、走りだそうとした。


 ふと、もう一度、騎馬隊の方を見た。


 部隊の中央で掲げられた剣が、日の光りを反射して、輝きを放っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ