【4】ダナキル砂漠に響け!サクサクの聖歌
灼熱の地――エチオピア、ダナキル砂漠。
日中は地獄の炎に焼かれるかのような熱さだというのに、夜風は逆に鋭く冷たく、容赦なく肌を刺した。
だがルシアンは、そんな極端な気候にも微動だにせず、岩の上に跪いて祈っていた。
一心不乱、まるでこの世界のすべてを祈りに変えているかのように。
私も聖なる祈りに集中していた。
――そのとき、悟ったのだ。
悪魔の気配を……!!
しかもこの強力な腐敗の波動……地獄の王ルチアーノに違いない。
私は直ちに恩寵を消した。
神ですら悪魔に試された。
ならば、この私が試されるのは必然。
これこそ、大天使ガブリエルだからこそ下される尊き試練なのだ!
だが――寒い!!
砂漠の夜は極寒だというのを忘れていた……!
真っ白なコートの下、ランジェリー一枚の器では、さすがに無理がある!
歯が勝手にカチカチと鳴る……!
日本語の「しばれる」の意味を魂から理解するほど、寒いーーー!!
しかし!
ルシアンの聖なる祈りを妨げるわけにはいかぬ!
そう……私は耐える!
私は大天使ガブリエル!!
神の御使いとして、祈りの邪魔など出来ぬのだ……!!
歯を食いしばりながら耐えていると――。
「アンジュちゃんが凍えそうじゃないか!」
夜を裂いて響いた声。
漆黒のシルエットが砂丘の向こうから、ひょっこり現れたのは――
ルチアーノであった。
「ルシアン!!
初恋だからってボンクラ過ぎるだろ!
大事なアンジュちゃんを寒空に放置するとは何事だあ!!」
ルシアンは瞼を開き、凍りついたように立ち尽くす。
「……今は聖なる……アンジュ様!?恩寵を消しておられる……?」
驚愕の声に、私は小さく頷いた。
――そうだ、ルシアン。これは神の試練なのだ。
だがルチアーノは図々しくも胸を張り、ずいっと何かを差し出してきた。
「アンジュちゃん!これを使え!携帯カイロだ!!」
真っ赤なハート型のカイロが、闇の中でぼんやり光った。
……ありがとう。正直、めっちゃ欲しかった……!!
だが――ルチアーノはさらに叫ぶ。
「そして!俺様の第1の作戦はこれだぁぁ!!」
彼はブランドロゴだらけのリュックを豪快に開け放った。
中から溢れ出す、無数の細長い箱。
「……ポッキー?」
私が瞳を瞬かせていると、ルチアーノは天を仰ぎ、拳を突き立てた。
「そう!これぞ恋を結ぶ神の菓子!
世界を震わせる最終兵器ッ!!
ルシアンとアンジュちゃんを繋ぐ、尊みの架け橋だあ!!」
その瞬間、私は習得した。
……なるほど。ポッキーゲームというやつだな!
そして私の胸に、確信が走った。
これは……神の試練!
神が我らに与えた新たな儀式!
「良し来い、ルシアン!!」
私はすでに一本をくわえていた。
「はい。アンジュ様」
ルシアンも躊躇なく、もう片端を口にしていた。
そして――サク、サク、サク、と無駄に荘厳な音を立てて、二人はポッキーを食べ進めていく。
ルシアンの真剣すぎる眼差し。
祈りに等しい集中力。
だが、私は大天使ガブリエル!!
格下大天使に負けたとなれば、神の雷が落ちる……!!
ガブリエルも負けじとサクサク食む。
それは、あっという間の出来事。
触れた――ような、気がした。
だが、そこに特別な意味は無い。
私にとっては試練の完遂、ルシアンにとってはただの作法。
……にもかかわらず。
「はわわわわわ……!!❤️❤️❤️」
水晶玉の向こうで地獄の王は砂漠を転げ回っていた。
「尊いっ……!!二人が……尊いっっ!!!」
だが、私はもう一本を口にしていた。
何故なら……ルシアンは気付いていないようだが、私より0.00000000001秒先にポッキーを食べ終えていたのだ。
――負けられない!!
大天使として負けられない戦いがここにあるッ!!
そして即座に反対側を口にするルシアン。
その清らかな眼差し。
だが、その眼差しすら私の闘志に火を着けるだけだ。
サク、サク、サク……
……と、奇跡的な角度でポッキーが“神の接吻のような音”を立てた。
――くそ!!
流石、男の器のルシアン!食べるのが早いな!!
でも……飲み込む!そう、飲み込むスピードを上げれば……!!
「ルシアン!次なるポッキーを!」
「はい。アンジュ様」
ルチアーノはもう夢心地だった。
繰り返されるポッキーゲーム。
これはもう、第2の作戦決行だ……!!
こうしてダナキル砂漠の夜は、神も悪魔も関与しない「お菓子の儀式」で満たされていったのだった――。
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