3/100日 旧友
「仕事辞めたの!」
「うん」
「あんなに好きそうだったのに」
「別に好きじゃないけどね。」
「そっかー」
友はそういうと酒を煽った。長く共にいるからこその距離感が助かった。まだ陽が高い間に飲む酒は美味かった。それに97日となった寿命をどう使おうか相談もしたかった。
「それで何するの?」
「100日間は遊ぼうと思って。」
「世界一周でもするの」
「しないよ。なんで」
「さっきトイレに100日間で世界一周する船旅のことが書いてあったから」
「そんなのあるんだ」
「そう、だったやってみれば」
「うーん。いいかな。この100日間で一生分遊ぼうと思うんだ。」
「思いっ切って出たね。」
私は一度大きく酒をあおった。
「もし、100日後に死ぬとしたらどうする?」
「ワニみたいだな。」
「ワニ?」
「100日後に死ぬワニ聞いたことない?」
「ああ、そんなの聞いたことあったかな。」
「毎日の楽しみだったんだよね。」
「……ワニって最後どうなったの。」
「どうなったんだっけな……」
ワニに私をなんとなく重ねた。いろいろな感情で見守られた主人公もこうやって忘れ去られてしまっている。何とも言えない寂寥感に襲われた。
死ぬことを何にも準備していない事に今更ながら気が付いた。
「死ぬのって嫌だな。」
気が付いたら独り言が口をついて出た。友はじっと私を覗き込んだ。
「なんかあったのか。」
「まああったかな」
「……話せることは話せよ」
「ありがと。」
「100日後に死ぬ話だったよな。うーんやりたいことリスト書き出すかな。」
「まぁそうだよな。」
「でも、実際考えたら何もできないかもな。金貯めている訳でもないし死へのストレスきつそうだな」
「そうだよな。」
「まぁ足掻くかもな」
「もしも足掻いても無駄だとしたら。」
「むずいなぁとにかくうまいものだけしか食いたくないなぁ」
「そうだよな」
「むしろ何やりたいの」
「それが決まらないんだよな」
「そうだよな。」
その日は久々にいい日だった。
もう少しぶちまけてしまいたい気もあったが相手を混乱させるのは申し訳ないという理性があった。勿論採取的にはへべれけになったのでその時にとんでもない話をしたのかもしれない。こういった何もない日が最後まで続くのもそれはそれで素晴らしいのかもしれない。