2/100 辞職
今日はいつもより早く出社をしていた。
もう残る事98日しかない寿命を知った私の一番の変化は睡眠時間の極端な現象だった。
一刻一刻が惜しくてしかない。
起きていて何が変わる訳でもないとわかっていても眠るよりはマシだと思ってしまう。
リミットが外れた様で体の疲れは感じるがそれよりも興奮が抑えれない。
今の所私の一番の後悔は死の宣告をされてから泣きじゃくり半日を無駄にした事だった。
「あれ、今日早くないか。」
この会社で唯一信頼している先輩が立っていた。
「実は話したい事があって」
心は決まっているはずなのに少し遠回りの回答をしていた。
「話したい事」
「はい。始業前で申し訳ないのですが聞いていただいてもよろしいですか?」
「わかった。会議室でいいか」
「はい」
私の決意を早くも感じ取ってくれてか先輩は身支度を整えるとすぐに会議室まで私を案内した。いつもならしてくれる雑談がない事に少しの寂しさを感じた。
「なんだ話というのは。」
「仕事を辞めます。」
時が止まった。先輩はじっと私の顔をみている。
「理由を聞いてみていいか」
「やりたい事があって」
「やりたい事?」
「はい。」
「聞いてもいいか。」
「私の決意は変わらないので」
「決意?」
「はい」
再開された言葉のキャッチボールはまたもやすぐに終わってしまった。しかしそれも仕方がないことなのかもしれない、私には話したくない事と話せない事が多すぎる。
「内容は言ってくれないのか」
「はい」
重苦しい空気だ。しかし当然だろう私が上司の立場だったらそのような態度になる、いやもっとひどいかもしれない。
「いつ辞める気だ」
「今日です。」
「今日!」
今日で一番大きい声が出た。
「それはさすがに困る」
「申し訳ございません。」
「なんでまた……話してくれないのか。」
「……」
辞めるという決意が変わるわけないがそれでも心に何か引っかかるものがあった。
「今日は休め。」
「え?」
「正直わからない事が多すぎる。」
「すいません」
「謝るなら教えて欲しいんだがな」
「それは……」
「まぁいい。急に来なくなるよりはマシだ。いったん今日はゆっくり休め。」
「今日というか」
「わかった。確か有給かなり残ってたよな。」
「ほとんど使ってないので」
「よし、一週間休め。」
「え、でも。」
「休め。只今から少し業務の引継ぎをさせろ。」
「はい」
今まで感じたことのない圧力で押し切られて業務の引継ぎを行った。息の詰まるような引継ぎが終わったのは1時間後だった。
始業ギリギリに引継ぎは終わり隠れるように会社を出た。
私は帰り道に100日日記という日記帳とノートを買い漁った。
家に帰ると100日日記にこれまでの事を書きなぐった。
今夜はまだまだ眠れそうにない。