◆第三話 ① ◆ 学園入学 『運命の娘』の登場
『愛をつかむ者』ギイ・クロード・ヴェンタール王太子。
そして『悪役令嬢』ルビア・マリー・ロシュフォール侯爵令嬢。
その二人が入学する貴族学園では、誰もが浮足立っていた。
それは今日が入学式だから、という理由だけではない。
『運命の娘』がどこの誰で、と『王太子』がどのような出会いを果たすのか……。新入生や在校生だけでなく、教職員たちも、まるでこれから演劇が始まるのを待つかのように、期待しているのだ。
が、実のところ、星詠み師や国王、第一王子リシャール・デルト、そしてルビア・マリーたちは『運命の娘』がどこの誰であるかなどは、とっくに探し当ててはいた。
王太子と『運命の娘』は貴族学園の入学式で出会い、恋に落ちる。
そして、その『運命の娘』は桃色の髪をしている可愛らしい娘である。
これまでの三例から考えて、王太子となったギイ・クロードと同年代であり、且つ桃色髪の娘を探せば、それは高確率で『運命の娘』だということになる。
だが、探し始めた当初、すぐに見つかると思われていた桃色の髪をした娘は、なかなか見つからなかった。
『運命の娘』が見つかったのは、ギイ・クロードが学園に入学する一か月前。
その頃、レモンド男爵家からの申請があった。
レモンド男爵の愛人が病死し、急遽、その娘であるナナ・アニエルという娘を男爵家で引き取ったと。貴族としてのマナーはまだ身に付いてはいないが、学園に入学をさせたいと。ナナ・アニエルという娘は桃色の髪をしていたため、入学の許可が出ると共に、星詠みと、そして国王の元に、その知らせが伝えられた。
これまで探しても見つけられなかった桃色髪の娘に、星詠み師たちは湧きたった。
「ナナ・アニエル・レモンドこそ、我々が探していた『運命の娘』に違いない」
ナナ・アニエルは貧しい幼少期を過ごしたため、十歳の儀式は受けていない。
だが、他に居ないという消去法的理由で、儀式を受けていないにも関わらず『運命の娘』であると推定された。
ただし、このことはギイ・クロードには伝えられなかった。
ナナ・アニエルが本物の『運命の娘』であれば、必ず貴族学園の入学式で、王太子と出会い、恋に落ちるはずだからだ。二人が恋に落ちれば、推定ではなく、ナナ・アニエルが『運命の娘』であると確定しても良いだろう。
だから、ギイ・クロードに対しては事前知識などむしろ不要。
ただ「もうすぐですね」と周囲の者たちはギイ・クロードに意味ありげに告げ、そして笑った。
ある意味単純なギイ・クロードは、入学式の日が近づくにつれて、そわそわとしだした。
「もうすぐ俺の運命の娘と出会えるんだなっ! ああ、楽しみだ」
そうして迎えた九の月の入学式当日。
これから入学の式典が始まる学園の大ホールでも、ギイ・クロードは落ち着きなくきょろきょろとあちらこちらを見回していた。
「居ないなあ……」
「……誰かお探しですか?」
みっともないから落ち着いて欲しい。内心ではそう思いながらも、ルビア・マリーはその言葉は発せず、ただ、ギイ・クロードを見る。
「もちろん『運命の娘』に決まってるだろ。桃色の髪をしているはずだって、星詠み師たちが言っていたし。でも会場に桃色の髪の娘は居ないんだよな。今年は出会えないのかな? 来年なのか?」
ルビア・マリーもわざとらしく思われないように、ゆっくりと会場内を見回した。
もちろんナナ・アニエルは居ない。
ナナ・アニエルだけには入学式の時間は半時ほど遅く伝えられている。もちろん、運命の出会いを演出するためだ。
「……広い学園に戸惑っていたり、迷っていたりするのかもしれませんね」
わざとらしい、と自分でも思いつつ、ルビア・マリーは用意された台詞をギイ・クロードに告げた。
「そういう可能性もある……か。ん、オレ、式が始まる前にちょっと出てくる」
「どちらに?」
「もっちろん『運命の娘』を探しにさ。元平民とかなら、こんなでっかくて煌びやかな学校に入れなくて、学校の門とかで立ち竦んでいるかもしれないじゃん? で、入って来られないとか? そうだったら可哀想だしな」
ギイ・クロードはそのままスタスタと大ホールから出ていった。
その後を、幾人かの護衛がそっと……ギイ・クロードに知られないように、付いていった。
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