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◆第二話 ④ ◆

誤字報告ありがとうございます。とても助かりますm(__)m


「ああ、そのままでいいよ。すぐ去るから茶もいらない」


苦笑するリシャール・デルト。後ろ半分の言葉はアンヌ・マルグリットに向けて言った。


「……来週のトランティニアンの大使との会談は、王太子殿下は不調のために欠席。代理としてリシャール・デルト殿下とわたしが参加する……ということですか?」


先廻りをして尋ねたルビア・マリーの言葉に、リシャール・デルトは乾いた笑みを浮かべた。


「ははは。よくわかったねルビア・マリー嬢。その通りだよ」


いつものことですからとも、それでは安心して会談を行うことができますねとも、ルビア・マリーは言葉には出さなかった。


代わりに仕方がないとばかりに苦笑を浮かべる。


ルビア・マリーが『悪役令嬢』と占われ、ギイ・クロードとの婚約を結んでから婚約を結んだ十歳の時から、既に四年間近い月日が流れた。


子どもの容姿から大人へと成長しつつあるルビア・マリー。

夕焼け色の髪は腰まで伸び、丸みを帯びていた頬はすっきりとした。姿勢も立ち居振る舞いも、誰がどこから見ても、公爵家に、そして王太子の婚約者として相応しい令嬢である。

 

ギイ・クロードも、ルビア・マリー同様、外見的な成長は見えた。

伸びた背は、既にルビア・マリーよりも高い。顔つきも、十歳の子どもではなく、少年と青年の中間といった様相を呈している。


だが、頭の中身は十歳のまま。自分が楽しければ国は幸せになると信じ、遊びに興じているだけ。本来覚えるべき王太子として知識は何も無い。

そして、誰もがそれを良しとしている。天真爛漫なまま、見る者を幸福にするのが王太子の役目だと、そう信じている者さえいる現状だ。


反対にルビア・マリーには厳しい教育が施されていた。

その為だけではないが、ルビア・マリーの顔からは子どもらしい笑顔は消えた。


様々な重圧と『悪役令嬢』の運命が、ルビア・マリーから笑顔を奪っていた。その顔に現れるのは作り物めいた淑女の微笑のみだ。


(だけど、わたしがギイ・クロード王太子殿下の公務を肩代わりしたくないなどと言ったら……、リシャール・デルト殿下のご負担が増えるだけなのよね……)


ルビア・マリーが代理参加はしたくないと言えば、きっとリシャール・デルトは苦笑しつつも、一人で全てを引き受けてしまう。


この四年間、ルビア・マリーが戸惑うたびに、いつもリシャール・デルトがルビア・マリーを支えてきてくれた。ルビア・マリーはそれをありがたくも、申し訳なくも思う。


(ギイ・クロード王太子殿下が、きちんとご自分の公務を請け負って下さればいいのに……)


不満をギイ・クロードに述べても、彼はルビア・マリーの言葉など聞かないのだろう。

 何故ならば。


「あと二か月後。九の月になればギイ・クロード王太子殿下もわたしも貴族学園へと入学いたします。王太子殿下はその学園で『運命の娘』と出会う……。今はそのことで頭がいっぱいなのでございましょう」


もうすぐ学園に入学する。

それを思うとルビア・マリーの胸は苦しくなる。


「ああ、そうだね。もうすぐ君もギイ・クロードも入学か……。あの日……、君が初めて王城に来て、ギイ・クロートと婚約を、結んだ時から……もうそんなに月日が経ったんだね。いや、もう、と言うか、ようやくというべきか……」

「これから。二か月後に。占いによれば……わたしの、いえ、ギイ・クロード王太子殿下の……、それだけでなくこの国の運命は動く……のですね」


胃の奥が、ぎりと絞られたような気がして、ルビア・マリーは思わず腹を押さえた。

その日がいっそ来てほしくないような、いっそさっさとすべてを済ましてしまいたいような。どちらともつかないもやもやとした感情。


そのもやもやは、十歳の時から、あの儀式で『悪役令嬢』と運命を告げられた時からずっと続いている。


「……リシャール・デルト殿下」

「何だいルビア・マリー嬢」

「一度聞いてみたかったのです」

「私に? 何を?」

「殿下は……他者の礎になる運命を……受け入れるまでにはどれくらいの時間が必要だと思われますか?」


おかしな問い方をしてしまったと、ルビア・マリーは言ってから後悔した。

だけど、文句ひとつ言わずに淡々と、リシャール・デルト・ヴェンタールはギイ・クロードの補佐として、支える役目を担っている。

それが王命とはいえ、簡単に受け居られるものなのだろうか?

そうであるとすれば、受け入れられずにいるルビア・マリーのほうがやはりおかしいのだろうか?


ルビア・マリーは、自分と同じように、他者の礎になる運命を告げられたリシャール・デルトの心情を、少しでいいから聞いてみたかったのだ。


ルビア・マリーの問いかけに、リシャール・デルトはふっと笑った。それは既にたくさんのものを諦めたような、顔だった。


「それに答える前に、これをあげよう」


リシャール・デルトは手にしていた一冊の本を、ルビア・マリーに差し出した。


「何でございますか?」


ルビア・マリーは本を受け取って、その表紙をじっと見た。


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