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◆第二話 ① ◆ 二人の王子と『妖精言語』

(王太子殿下と、婚約を結ぶために、王城へ行く……)


胸の中で何度も繰り返す。


(わたしは、王太子殿下の婚約者となる……)


繰り返すたびに、胸の中はずしんと重くなる。


喜色満面の父や母、そして兄の顔を見たくなくて、ルビア・マリーは馬車の小窓から外を見た。

十歳の儀式の夜とは全く異なる昼間の風景。

王城まで真っすぐに伸びている広い道。道に沿って植えられているマロニエの木。その青葉の中にはピンク色の花が空に向かって咲いていた。鳥が花をついばみ、そして空へ向かって飛んでいく……。


不安など何もない、明るい風景。


だが、ルビア・マリーの胸の内はこれ以上もなく暗かった。


(将来、婚約破棄をされることが分かっているのに、わたしは王太子殿下と婚約を結ばなくてはならない。王太子殿下はいずれ『運命の娘』と出会い、恋に落ち、そうして悪役令嬢を排除し、幸せになる。それが、星の導きであり、これまで三度も繰り返されてきたこと……だから。四番目のわたしも同じことをしなくてはならない……)


先日の言葉通り、ローラン・アルベルトは『悪役令嬢』の運命を事細かにルビア・マリーに教えてくれた。


「実はね、二番目の『悪役令嬢』も、我がロシュフォール家から排出されている。だから、この覚書きや手紙には、当時の様子が歴史書なんかよりも詳しく書かれているんだ」


ローラン・アルベルトは手に持っていた何百枚もの覚書きや手紙の束を取り出した。


「えーとどれだったかな? そうそう、この手紙だ。二番目の『悪役令嬢』が当時の『運命の娘』の代わりに王妃としての政務を行った経緯が事細かに書かれているよ。もちろんこれはやり取りされた手紙のでしかない。そんなことは表の歴史には書かれていないけれどね。だけどほら、当時の国王陛下からのお手紙だ。『悪役令嬢』が『王妃の影』として、王妃の代わりに政務を行い、素晴らしい結果を出した。その功績により我がロシュフォール家を伯爵位から侯爵位へと陞爵するが、表向きは別の功績を理由とすると書いてあるだろう」


ルビア・マリーは、ローラン・アルベルトが取り出したその手紙をじっと見つめた。

十歳のルビア・マリーにはその手紙が本物か、それとも偽物なのかの区別はつかない。

だが。手紙に使われている用紙は非常になめらかで、高価なものだとルビア・マリーにもわかるほどだった。また、封書に使われている刻印も王家の紋章があしらわれていた。


「こうやって。表には出ない事実も、その家や王家には残る。きっとルビア・マリーの功績も『四番目の悪役令嬢』として、王家には代々伝わっていくのかもしれない。少なくとも、父上、そして代替わりした後はこの僕が、ルビア・マリーが行ったことをこうして我が家の本当の歴史として残しておくよ」


ローラン・アルベルトは段々と饒舌になっていった。


「ああ、素晴らしいな、ルビア・マリー。お前が『悪役令嬢』の運命を賜ったおかげで、ロシュフォール家はますます栄えていくだろう。さすがに侯爵家から公爵家にはならないだろうから……そうだな。侯爵家筆頭の地位になるか、それとも領地でも増やしてもらえるのか……」


キラキラと輝くローラン・アルベルトの瞳には、まるで未来が見えているかのようだった。


「ああ、そうだな。僕の名だって家系図や何かには残る。だが、そんなもの書物に数行書かれて終わりだ。後の世の人間は僕のことなど知りもしない。だが、お前は違う。『悪役令嬢』として、その名は表の歴史においてもずっと語り継がれるのだろうな。羨ましいよ」


素晴らしい未来を思い描いているローラン・アルベルト。ローラン・アルベルトとは全く反対に、ルビア・マリーの顔は重く、沈んでいた。


(羨ましい? お兄様は本気で素晴らしいなんて思っているの? そうは思えないわたしが……おかしいの?)


十歳の儀式を受ける前までは、未来に何の不安も覚えていなかった。


ロシュフォール侯爵家の娘として、将来的には政略的な婚姻を結ぶとしても、子を成して、その子を養育して、年老いる。できれば政略の相手でもお互いに好きになれたらいい。情熱的でなくとも構わない。穏やかに、お互いを尊重し合って、平凡な暮らしを送れればいい。


思い描いていた平凡な未来は、ルビア・マリーには決して訪れない。


そう、ルビア・マリーに告げられたのは、他者の礎になる人生。


しかも、そんな生き方を、父も母も兄ですら、素晴らしいものだと思っているのだ。


(公衆の面前で、婚約破棄をされ、国外追放になり……「影」となって生きる。他人のための人生を送るしかないというのが……素晴らしい生き方なの? わたしは……わたしは、そんな未来は嫌なのに。嫌だと思うわたしのほうがおかしいの……?)


暗い気持ちをどうしようもできないまま。けれど、ルビア・マリーの外で事態は進んでしまっていた。


お読みいただきましてありがとうございましたm(__)m


第二話は①~⑤、第一王子と第二王子が登場。

その後の第三話にて学園入学、『運命の娘』の登場となる予定です。

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