◆第十話 ③ ◆
「は……?」
ルビアの発言に、会場中がざわついた。
「何を馬鹿なことを言っている。オレは星詠みに占われた王太子……」
「違います。ギイ・クロード殿下は『愛をつかむ者』。そう星詠みに占われていたはずです」
ギイ・クロードの言葉を遮り、ルビアは告げる。そして、大勢いる星詠み達に、視線を向けた。
「星詠みの皆様。思い出してください。十歳の儀式で『天降石』が告げた本当のギイ・クロード殿下の運命を。『天降石』はギイ・クロード殿下に『王太子』という運命を告げなかった」
星詠み達はお互いにお互いの顔を見合わせた。
たしかにそうだ。
「ギイ・クロード殿下が『王太子』と判断されたのは、星詠みの結果からではございません。わたしという『悪役令嬢』が現れたからです」
ルビアは、会場をぐるりと見渡した。
いきなり何を言い出したのだ、と。戸惑い顔の者がほとんどだった。
「この国の王子はお二人。ギイ・クロード殿下は『愛をつかむ者』。そしてリシャール・デルト殿下が『逃す者』。そう占われた。そこからきっとギイ・クロード殿下が『運命の娘』に出会うと推測されたにすぎません」
「推測ではないっ! 現にオレはナナに、『運命の娘』に出会ったっ!」
「逆です。『王太子』とされたギイ・クロード殿下が愛した娘だから『運命の娘』だと判断されたにすぎません。ナナ・アニエルは十歳の儀式を受けていないのですから」
ギイ・クロードが睨みつけているのを無視し、ルビアは淡々と答えた。
いや、淡々と聞こえるような声を出しているだけだ。心臓は、跳ねる。背中に冷や汗もかいていた。
それでも、自分は真実を話しているのだというそぶりで、堂々とした声を出す。
「もう一度、言いましょう。本物の『王太子』はリシャール・デルト殿下です。妖精の悪戯により、『天降石』の占いは歪められ、『王太子を逃す者』となってしまったのです」
この場に居る誰もが、リシャール・デルトさえ、ルビアの言っていることがすぐには理解できずに、「え?」と、思考停止に陥った。
大勢の人間がいるはずの会場が、一瞬だけしん……と静まり返った。
その隙を逃さず、ルビアが畳みかけた。
「夏至の日、何故、妖精たちが、『天降石』の元へとやって来たのでしょうか? 星詠みの国ヴェンタール建国以来、一度もあのように大勢の妖精が、この国に現れたことはなかったのに」
ルビアの言葉を、皆黙って聞き入っていた。
「そして、現れた妖精たちによって護衛の者たちや星詠み師たちが連れていかれ、意識を失うまで踊らされた。いろいろな動物に変身させられたり、ボールのように宙にとばされたり、妖精の遊び道具にされた……。この場に居る星詠み師のほとんどが、そうやって妖精たちに遊ばれました。だけれど、リシャール・デルト殿下とわたしだけは、妖精たちのおもちゃになることなく、妖精の女王と話すことができた……。何故だか、わかりますか?」
問いかけ、そして言葉を一度切る。
(周囲を引き付けるような声を出すこと。発声の仕方。それから、視線の集め方……。これまで受けた教育も、役立つのね……)
少しだけ間を開けて、効果的になるタイミングを計って、ルビアは告げた。
「妖精の女王は言ったわ。妖精たちと共に、この国にわざわざやって来たのは、妖精の悪戯によって歪められたリシャール・デルト殿下がどうなったのかを確かめるためだと。『王太子』と占われるはずだったところを『王太子を逃す者』と占われるように仕向けたのだと」
もちろん、ルビアが告げたことは嘘でしかない。
妖精たちが何故この国にやってきて、ルビアとリシャール・デルトに『夢』を見せたのか。
その理由など、わからない。
(誰にもわからないのなら、わたしが出まかせを言っても、それが本当か嘘かなんてわからない)
ルビアが告げたことを、信じる者が出てくるのかどうかなども、ルビアには分からない。
(嘘で、出まかせですものね。信じないのが当然でしょう)
だけど、もしも、ルビアの出まかせを信じる者が数人でも出れば。
(リシャール・デルト殿下の味方が、一人でも二人でも出来てくれればいい)
冷静に考えをまとめられるものがいれば、ルビアの言葉に齟齬があることを指摘されるかもしれない。
だけど、『婚約破棄』という茶番に沸き立っているところに、こんな発言をすれば。
(まともに、考えられるような人が出る前に、わたしは去ろう)
口角を上げる。『悪役令嬢』として、不敵に笑う。
「歪められた運命は正されなければならない。わたしは『悪役令嬢』としての使命を果たします。偽りの『王太子』では国は栄えない。本物の『王太子』によって、この国が栄えますように……」
ルビアは目を瞑りながら、両の手を上にあげ、そして五指を組み合わせるようにして、天に向かって祈りを捧げた。
再び、静まり返った会場に、「嘘をつくなっ!」というギイ・クロードの声が響いた。
「嘘ではございませんわ、ニセモノの王太子殿下」
「衛兵っ! こ、この嘘つき女を追放しろっ! いや、追放など生ぬるいっ! このオレに、王太子に対する不敬だっ! この場で即刻その首を刎ねろっ!」
だが、ギイ・クロードの叫びに、兵士たちが動く前に、天井が、めりめりと音を立てて、剥がされていった。
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