◆第十話 ① ◆ 婚約破棄
「卒業パーティで婚約破棄をされて、そのまま追放となるのだから、動きやすい楽なドレスにして。コルセットも緩めてね。靴も高いヒールではなく、できれば編み上げのブーツの方が良いわ」
卒業パーティの当日となった。ルビアは朝起きて、そして侍女の用意した煌びやかなドレスを着ることを拒否した。
「ですがお嬢様……」
「いいの。長時間馬車に乗ることを想定して、苦痛の少ない服にしたいわ」
「それでは卒業パーティに相応しいものではなくなります……」
「ええ、もちろんよ。わたしが想定しているのは旅装束のようなもの。だって、パーティなんて一瞬で終わるのよ」
そのまま、この屋敷に戻ることなく北へ行く。ならば、パーティ向きにごてごてと飾りたてられるなど、寧ろ邪魔になる。
「それでいいわ」
指し示したのは胸下から切り替えがあり、ドレスが裾にかけて直線的に広がったシルエットのシンプルなドレスだった。
「胸下からスカートが広がっているから、お腹を締め付けることがないし。馬車に乗っていても、その中で眠ることになっても楽でしょう」
「そんな……」
「そんなも何も、わたしは追放されるの。星詠みの占い通りにね」
服などどうでもいいのだ。
(ドレスなんかよりも……それよりもさっさと北へ行って、セイ様を探したい。それから……)
侍女たちに服を着せられ、化粧をされ、髪を整えられている間も、ルビアはずっと考え続けていた。
(追放を言い渡されるまでの短い時間で……わたしがリシャール・デルト殿下のためにできることはある?)
考えても、何も思いつかない。国を倒す手伝いもできずに、自分の望みのまま、北へ行くしかない。
(そう……ね。リシャール・デルト殿下がこの先進まれる、困難な道の……小石をどかす程度のことすら、わたしにはできないのかも……)
今まで支えてきてくれたリシャール・デルトの未来が、少しでも良いものになるようにと、祈るしかないのか。ため息を吐きたくなう。今までの厚意に対して何も返せない。
(でも、考えよう。最後の最後、ぎりぎりまで)
そうして、卒業パーティの時が来た。
在校生、卒業生だけでなく。卒業生の家族やその婚約者たち、さらに大勢の星詠み師達までが、既に卒業パーティの会場となる学園のダンスホールに集まってきていた。
これから行われる『悪役令嬢の追放劇』を自身の目で見ようと、考えたものが多いのだろう。卒業生の父や母だけではなく、縁故がある者が大勢詰めかけていた。来賓の数は例年の倍以上、ダンスホールは人々の熱気で暑苦しささえ感じられるほどだった。
その会場の真ん中に、ギイ・クロード・ヴェンタール第二王子がにやにやとしながら立っていた。もちろん隣に立つナナ・アニエル・レモンドの腰を抱いている。
そうしてそのギイ・クロードとナナ・アニエルに、ルビアが一歩一歩近づいていく。
近づいていく毎に、これから起こることを想像してなのか、周囲の者たちの顔が期待に満ちていく。
歩幅にして三十歩ほどだろうか。そのくらいの間を空けて、ルビアはギイ・クロードの前で足と止めた。
にやり、とギイ・クロードが笑う。ナナ・アニエルも同様に。
人々の期待が、ふくらむ。
そして、ギイ・クロードが、大声で宣言をするかのように、告げた。
「ルビア・マリー・ロシュフォールっ! 貴様との婚約を破棄するっ!」
最終章、婚約破棄です。
最後までお付き合いいただけましたら幸いですm(__)m




