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【完結】星詠みの国の悪役令嬢  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 発売中


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◆第九話 ④ ◆

行きたい。行く。

心は決まった。けれど。

どうやったらレーベルクに行けるというのだろうか。

ルビアはドレスのスカートをぎゅっと握った。


「北に……行くためには、どうすればいいの……」


王都を出て、北へと進む。国を出て、そして……竜の谷を目指す。

冒険者などではない、公爵家の令嬢が、どうやって、そんな遠くまで行けるというのか。


行きたいという気持ちだけはある。

けれど、ルビアは道のりの遠さに呆然となってしまった。

そんなルビアに、リシャール・デルトは事も無げに告げた。


「ああ……ちょうど良いじゃないか。明日の卒業パーティで、君は『悪役令嬢』として『断罪』される。それを利用すればいい」

「はい?」


利用とはどういうことなのだろうか?


「ルビア・マリーの処遇については王家の方でも話が進んでいる。明日、『婚約破棄』が成され、『悪役令嬢』は追放される……と、いうフリで、実は数週間の移動を経た後、ルビア・マリーはこっそりと王城に戻される。そして『運命の娘』の影として政務を執り行う……。その話はもう既にルビア・マリーも聞いていると思う」

「は、はい……お父様やお兄様から」

「≪だから、そのまま、追放されたフリで、レーベルクに向かえばいい≫」


ぼそりと、妖精の言語で告げられた言葉に、ルビアは「え」と口を開けてしまった。

サロンに控えている侍女にも、そしてサロンのすぐ外の廊下にいるリシャール・デルトの護衛達に聞こえても構わないようにと、彼らにわからない言葉で告げてきたリシャール・デルト。


「ご令嬢が数週間とはいえ、国中を移動なんて大変だろう? だから、私のほうからも、道中付きそう護衛や侍女の選抜に口を挟ませてもらっているんだ。ほら、君は王城に帰ってくれば、影とはいえ私と共に国政に関わるからね。つまり、私を支えてもらうということにも等しいだろう? だから便宜を図るのは当然だよ」

にやりと、リシャール・デルトは微笑みを浮かべた。

「せっかくだから、数週間とは言わず、ゆっくりと国内(・・・・)を視察するつもりで出かけるといい。王城に戻ればもう、その後は城の奥に引きこもるしかない。表舞台には出られないんだ。なら、最後の外出と思ってのんびりとしておいで。大丈夫。その間の政務は……まあ、ギイ・クロードはやらないだろうけど、私一人で何とかなる。だから、安心していっておいで」


リシャール・デルトはルビアに言っているのだ。

追放されたフリをして、そのまま竜の国に行けと。


「殿下……」

「色々見て、確かめて……。本当に、夢ではなかったのなら≪そのまま君が行きたいところに行くと良い。後の始末は何とでもする≫」

「リシャール・デルト、殿下……」


感謝と共に、申し訳なさが湧き上がる。

いつもいつも、リシャール・デルトはルビアを助けてくれていた。

妖精言語を教えてくれたこと。

精霊の女王に向かい自分を『友』と言ってくれたこと。

他にもたくさん。いつも、どんな時も。

きっと、彼がいなければ。ルビアの心はとっくに疲弊して、全てを諦めていただろう。

心を無くして、ただ人形のように、言われたとおりに『悪役令嬢』となり、『運命の娘』の影となっただろう。未来を選ぶ選択肢など無く。


「……手伝いしかできなくてごめん」


本当は一緒について行ければいいのだけれど……と、リシャール・デルトは申し訳なさそうに顔を歪めた。


「いいえ……、いいえ……っ!」


ルビアは、頭を横に振った。

リシャール・デルトから、幾度も助けてもらうだけで、ルビアは何一つ、リシャール・デルトに対して返していない。

謝罪も、感謝も、心の中ではこれ以上もなく強く感じているが。実際にはルビアはリシャール・デルトから助けてもらうばかりだ。


(なにも、わたしはできないのに、どうしてこんなにリシャール・デルト殿下は優しくしてくださるの?)


問えば、リシャール・デルトは苦笑した。


「何もなんて、そんなことはないよ。私は……その、ルビア・マリーの存在、それ自体に救われ続けてきたんだから」

「え?」

「≪私は、この国で異端だ。君に、出会う前はずっと一人でね。『星詠み』を信じて従う者ばかりのこの国で、それを疑って、信じない者はきっと私だけだった≫」

「≪異端……≫」

「≪そう。弟が『愛をつかむ者』そして私は『逃す者』。国を支える努力を重ねてきた私は王太子になれない。弟は何もせず、遊びまわっているだけで褒められる。王太子、そして王となった後も今と同じように、あいつはきっと何もしない。それをおかしいと思う私はこの国では異端だ≫」


そう、ギイ・クロードが『運命の娘』と出会い、その『愛をつかめ』ば、それだけでこの星詠みの国は発展すると思われている。それがヴェンタールの常識。正しいとされる、星詠みの、結果。


「≪遊びまわっている者がいるだけで、どうして国が発展する? 私や君があの馬鹿の代わりに王太子としての公務を円滑に進めているから問題が起きていないだけだ。馬鹿を放置して、遊んでいるだけの者をありがたく崇めて。それが当然だと思う者たちの方がおかしいんだ……と、ね。そういうことが通じるのは君だけだ。だから、ルビア・マリー。君という『悪役令嬢』がいなければ、そして君も、私のように、星詠みがオカシイと思わなければ……私はきっと今頃……どうなっていたかわからない≫」

「だから、殿下は……わたしを『友』と言ってくださったのね……」

「私が勝手に、一人で、君を同類に思っていたんだけど」

「嬉しかったのです。妖精たちに向かう時。殿下がわたしに『友』と言ってくださったから、わたしは歩み出す勇気が持てた……」


ルビアは、俯いてばかりの視線を、この時ばかりは真っすぐに、リシャール・デルトに向けた。


「いつもいつも、ありがとうございます。リシャール・デルト殿下がいてくださったからこそ、わたしは……」


こみ上げてくる思いに、胸が詰まる。感謝も謝罪も、言いたいことはたくさんあるのに言葉にならない。リシャール・デルトは目を潤ませるルビアに、微笑んだ。


「お互い様だよ」

そんなことはないとルビアは思う。ルビアがリシャール・デルトに対して、もしも何かできていたとしても、きっとそれはほんの些細なことでしかないと思う。


だけど、『友』であるのなら。


(今からでも、わたしリシャール・デルト殿下に……何かしたい。受けたものの、ほんの一部でもお返しして、それから……わたし、セイ様を探しに行きたい)


今日を過ぎれば、明日には。もう、『悪役令嬢』が『断罪』され、形ばかりの『国外追放』になるその日が来る。


(セイ様がいないことは……考えたくない。見つける。なら、わたしは、この短い時間でリシャール・デルト殿下に何を返せる?)


リシャール・デルトを支え、共にこの『星詠みの国』を倒すという道を、ルビアは選ばなかった。

リシャール・デルトはそれでもルビアに、自分の進みたい未来を掴めるよう手助けをしてくれている。


(わたしが、できること……)


笑みを浮かべるリシャール・デルトを見つめ続ける。

いくら考えても、ルビアにはリシャール・デルトに返せるような何かを考えつくことはできなかった。


「殿下……。本当に今までありがとうございます。わたし、絶対に忘れません。妖精言語も『友』と言っていただいたことも……。今は、感謝しか言えないのが心苦しいのですけど。こんなわたしでも、いつか、もっとリシャール・デルト殿下のお役に立ちたいと……そう思っています」


感謝を伝えることしかできないのが本当に申し訳なく思う。


「いつか……なんて、わたしのみた夢が現実であったのなら、いつかなんて実現はできないかもしれませんけど。だけど、気持ちだけは、そう思っています」


「ありがとう、ルビア・マリー、私もね、君のために出来ることがあるのなら、いつでも、君のために……と、たった数週間の別れだというのに。今生の別れみたいな挨拶になってしまっているね」

笑って、リシャール・デルトは言う。

けれど。竜の国が、そしてセイたちが本当にいるのなら。

ルビアは、明日の婚約破棄の後、もう二度とリシャール・デルトには会えないのかもしれないのだ。


けれど、それでも。

リシャール・デルトはルビアに行けと言った。精霊が見せた夢が本当なのかどうなのか、確かめに行けと。


「あ、そうだ。ここまで言っておいてなんだけど、もしも本当にあれが夢でしかなくて、実在しないとわかったら……。……そうしたら、≪その時は私と一緒にこの国を潰そう≫」

「殿下……」

「第一希望は君の望む通り。第二希望は私を手伝うこと。どうだい?」


軽い口調で問いかける。

もしも、夢が夢でしかなくても。そこで絶望しなくていい。

希望は、一つだけじゃない。

第二希望だとしても、それを行う価値があるのならば。


「≪一緒に、こんな星詠みの国なんて、ぶっ潰してしまおう≫」


決意は胸の奥に秘めて。口調だけは軽く告げてきたリシャール・デルトに、ルビアは笑顔で「はい」と、そう答えた。



第九話、終わり。

残すところ最終話の第十話のみになります。

ようやく婚約破棄です。

①から……どのくらいかな?③か④くらいかな? 


最終回までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m




あと、『ひゃっほーい』の方の作業もだいぶ終盤になってきました!!

もう少しで、色々と情報をお届けできると思います。お待ちくださいませm(__)m



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