◆第八話 ③ ◆
連載再開
本日 第八話③と④を投稿しておりますm(__)m
花の蜜を吸う。木に生っている果物を取って、洗いもせずにそのまま食べる。集めた藁や木の葉の上にシーツを広げて、その上で眠る……。
セイとの暮らしは、ルビアにとって未知のものばかりだった。
化粧もしない。着ているドレスの裾も擦り切れてきた。川で水浴びなどはさすがに躊躇したが、何度か繰り返すうちに慣れた。日焼けを気にせず、太陽の光を浴びるのは気持ちがいい。葉っぱの上に載っている朝露を、そのまま啜るようにして飲むなど、ロシュフォール侯爵家で暮らしていた頃には考えもしなかった。そもそも野外で過ごすことなどありえないのだ。けれど、ルビアは毎日が楽しかった。肩からは力が抜け、自然に笑みを浮かべていた。
特に楽しかったのは、コウが自身の子を連れてやってきたこと。
「ど、ドラゴンの……といいますか、コウ様のお子様……ですか?」
「そー。黄色いのと黒いのと白いのね」
ころころと転げまわる三匹の小竜たち。背中の翅もルビアの掌ほどの大きさほどしかない。その小さな翅をパタパタっと動かしながら、ルビアの周りを飛んでいる。初めて見る人間に興味があるのか、近寄っては遠ざかり……というのを繰り返している。しばらくの後、その三匹の中で、白い小竜が、座っていたルビアの膝に乗ってきた。そしてその膝の上からルビアを見上げ、にぱっとした笑みをルビアに向けた。
「か、かわいい……」
ルビアがそう呟けば、白い小竜はルビアの膝の上で丸くなった。
それを見て、今度は黒い小竜がルビアの膝の上にやって来る。
黄色い小竜はもう膝の上に乗れないと見て、ルビアの頭の上に乗り、「くはあ……」と欠伸をした。
「あっはっは。あたしのチビ共はルビアのことを気に入ったらしいね。ルビアっていうか、良い昼寝場所って思っているのかもだけど」
「え、えと、えと……」
ルビアの頭の上と膝の上でうとうとしかけた小竜たちを、顰め面のセイが一匹ずつ摘まみ、そしてコウの方へと投げた。
「ルビアはお前たちの寝床じゃねえよっ!」
低く唸ったセイに、小竜たちは「キイキイ」と声を上げて文句を言う。
「ははは、ルビア、モテモテだあねえ。セイでもうちの子たちでもいいけど、どれか選んで番になれば?」
「え、ええっと……」
戸惑うルビア。
「ガキどもが大きくなるまでに、人間なんか死んじまうだろ」
不機嫌そうに、セイが呟いた。
「じゃあ、やっぱりセイ兄が番えばいいじゃん」
「赤いの。お前なあ……」
「なんか問題あるの? ルビア、可愛いし。一人じゃ生きていけないって言うんだから、セイ兄が面倒見ればいいし。それにセイ兄、発情期だし」
「そういうコト、言うんじゃねえよっ! オレがルビアに迫ったら、ルビア、オレのこと、拒否できねえだろっ! 」
「ん? ルビアだってセイ兄が嫌だったら嫌っていうでしょ?」
「メシとか寝るところ、用意してやるからオレと番えなんて……脅しじゃんかよ」
「あー……、じゃあ、セイ兄がフラれたら、ルビアの衣食住はあたしが用意するよ。それならいいでしょ?」
「いいでしょ……って、お前なあ……」
「セイ兄じゃなくて、ルビアに聞いているの。ねえ、ルビア、セイ兄と番う……ええと、人間ふうに言うとケッコンってヤツをして、セイ兄の子ども産む気ある?」
「え、え、えっ!」
コウの言葉に、ルビアは戸惑った。
「ちょうどいいと思うんだけど。どう?」
「ど、どう……と言われましても」
「だってルビア、成体でしょ? セイ兄の子ども、産んで、一緒に暮らすのに、何か問題ある?」
「も、もんだい……」
「人間って、竜が怖いとか気持ち悪いとか、そういうふうに言ってくる奴もいるけど、ルビア、あたしの子たち見て可愛いって言ってくれたから。生まれてくる子が竜でも大丈夫でしょ?」
コウの側で丸くなってスピスピと眠る小竜たち。その子らを見て、やはり可愛いとしか思えない。
けれど……。
ルビアには、いずれ破棄されるとはいえまだ婚約者がいる。ギイ・クロード・ヴェンタール第二王子だ。ギイ・クロードを思い出し、ルビアは暗い気持ちになった。
セイやコウとの楽しい暮らしに、彼の名を出したくなかった。
(もう……星詠みの国のことは忘れても……いいの、よね? わたしは『悪役令嬢』の運命から……解き放たれたのよね? 自由に……未来を選べるのよね?)
選びたい。強くそう思った。
(あの国から離れて、自由に未来を選択できるのなら……わたしは、セイ様やコウ様の側で生きていきたい。何も出来ないわたしは……お二人に迷惑をおかけしてしまうと思うけれど……。お二人がそれを許してくださるのなら……)
「あー、いきなりケッコンとか、番とかよりも、シンプルに考えてよ。ルビア、コウ兄のこと、好き? 嫌い?」
コウに問われ、ルビアはじっとセイを見た。
ティールブルーの落ち着いた青緑色。人間の姿も、ドラゴンの姿も、どちらも素直に綺麗だと思う。
「セイ様は……わたしのこと、ご迷惑ではありませんか……?」
迷惑と思われないのなら。ここに居ていいと言われたのなら。
縋るように、ルビアはセイを見る。
「は? 迷惑? そんなこと考えたこともねえぁ」
セイはさらっと答えた。
「でも……わたし、食べるものを取ることもできませんし……。といいますか、ここでは何もできないのに。すべてセイ様とコウ様に面倒を見ていただいて……。お荷物、なのに」
「出来ないことを数えるよりも、これからできることを増やせばいいんじゃね?」
またもや、さらりとセイが言う。
「で、では……、わたし、覚えます。色々……。できること、増やしていきます。ですから……ここに、居て、良いですか……?」
「もちろん」
セイが笑った。
「どこに居るなんて、ルビアの自由だよ。あたしのお勧めはセイ兄と番ってもらって、子を成してもらえればって感じだけど。じゃないとセイ兄、発情期逃して一生一人かもねーって思うから。だけど、それが嫌なら、あたしと一緒にあたしの子を育ててみる?」
コウも、へらりと笑いながら言う。
セイの隣で、コウも一緒に。そして、この可愛いコウの小竜たちと一緒に遊びながら暮らす……。
(なんて素敵な未来……)
うっとりと、ルビアは夢を見た。
「わたし……今はお二人のご負担にしかなっていないと思うのですけれど。それでも、いつか、自分の身のまわりのことくらいできるようになったら……」
今は、まだ、何も出来なくても。
いつか、色々なことができるようになったら。
「セイ様の……お傍に居たいです」
大変ながらくお待たせいたしましたm(__)m
「ひゃっほーい」の書籍化作業もだいぶ進み、時間が少し取れるようになりましたので、連載再開。




