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◆第七話 ③ ◆

すみません。前回の話、 ◆第七話 ② ◆ を、色々と書き直しました。

大筋は変わっていないので、このまま今回のお話を読んでいただいても問題はありませんm(__)m

(わたしは『ルビア・マリー』じゃなくて『ルビア』。ここも『星詠みの国ヴェンタール』ではない。なら……。わたし、『悪役令嬢』にならなくても、いいの……?)


普通なら、巨大なドラゴンを前にすれば恐怖で逃げまどう。

そういうものだとセイが言った。

けれど、今のルビア・マリー、いや、ルビアにとっては。


(わたしは『悪役令嬢』なんかじゃない。もう、そんな『運命』から逃げられたの……?)


精霊の気まぐれによって、知らない場所に飛ばされた。

確かにさっきまでの洞窟の中の暗闇は怖かったもしれない。

だが、それよりも何よりも。

じわりじわりと、胸の奥底から喜びの様なものが湧き上がる。

長年、背負わされていた重たい荷物が、背中から無くなった感触。


(リシャール・デルト殿下に示された選択肢。衣食住には困らないが、『悪役令嬢』として他者に顧みられない人生を送る。それとも妖精に出会ったら、占いの国からどこか遠くへ逃がしてくれと頼む。リシャール・デルト殿と共に戦う道を選ぶ。そのどれもわたしは選ばないうちに、妖精の女王の気まぐれによってこんなところに飛ばされてしまった。問答無用で、見知らぬ場所に連れてこられた。何一つ選ばなかったのに。だけど、今、わたし……、ここに飛ばされたことが嬉しいのね。もしも、今このドラゴンが、いえ、セイ様がわたしを食べてしまっても。わたしはきっと平気だわ。だって、ドラゴンには国も、爵位も関係ない。だったら、今わたしは『星詠みの国ヴェンタール』の『悪役令嬢』ではなくて、公爵家の娘でもなくて、単なる『ルビア』という名の小娘にすぎない)


気持ちが、軽い。


『悪役令嬢』という『運命』は常にルビアの重荷だった。


(身も、気分もなんて軽いのかしら。このまま、こんな高いところから落ちてしまっても、セイ様に食べられても良いくらいに、気分がいい)


うっとりとした表情を浮かべるルビア。

セイは「変な奴」と口をへの字に曲げながらも、苦笑した。


「変……でございますか?」

「だってルビア、逃げないし。笑うし。『食べないで!』とか言って逃げねえの?」

「ああ……。わたしのこと、お食べになります?」


それでもいいか、という気分で、ルビアはセイに尋ねた。

逆に問われて、セイは苦々しい顔になった。


「……ルビア、お前、食われてぇの?」

「……できれば生きていたいと思いますが」

「出来ればなんだ……」

「ええ。だって、こんなところで小娘一人。生きていけるとは思えませんし。それに、ほら」

「ん?」


ルビアは、空を指さした。


「たくさん飛んでいますよね、セイ様と似た感じのドラゴンに……違う種類の飛竜もでしょうか?」


九つの首を持つ大蛇の姿をしたヒュドラ。飛びながら、口から火を吐いているファイヤー・ドレイク。鷲のような二つの足にコウモリのような翼とヘビのような尻尾を持った姿であるワイバーン。

その他、大きく括れば『ドラゴン』の仲間ではあるが、セイとは少しタイプの違う竜たちが、空を縦横無尽に飛び回っていた。


「ドラゴンの種族は人も食べるのでしょう? あちらのドラゴンのどなたかに食べられるのであれば、それよりも、こうして知り合いになったセイ様の糧になった方が数倍マシかと」

「……ホント、変な女」


ぼそり、と言いつつ、セイはそのままくるりと一回転をした。

すると、その身がするすると縮んでいき……、ふわりとルビアの隣に降り立った。

ルビアは、両手で顔を覆い、しかし、指の間から、セイのその姿を見て、叫んでしまった。


「え、ええええええ⁉」


降り立ったのは鴨の羽根の色に近い青緑色の、腰まで長い髪をした、一人の人間の形態の、青年。

背は、ルビアより頭一つ分高く、また、細身ではあるが、しっかりとした筋肉が見て取れる


見て、取れるのだ。何故なら、セイは……一枚の布すら、その身に着けていなかったのだから。


「こーやって、オレはドラゴンっていうか竜の形態にもなれるし、人間形態にもなれる。つまりは、竜人族ってやつだな」

「りゅ、りゅうじん……」

「そそ。だから、オレはニンゲンのコトは食わねえよ。ま、食えなくもないんだけど、なんかなあ、半分共食いみたいで気分悪い」

「ともぐい……」

「だけど普通のニンゲンには、竜族がどんな区別があるかなんて知らないよな。だから、オレら、怖がられるんだけど……って、ルビア? おまえ、顔とか耳とか首とか真っ赤だけど、どうした?」


顔をずいと近づけてきたセイに、ルビアは思い切り叫んだ。


「ふ、服をっ! 服を着て、くださあああああああいいいいいいいっ!」


多分、ルビアが人生で初めて出した、大声だった。


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