◆第七話 ② ◆
すみません。
だいぶ書き直しましたm(__)m
本来なら恐ろしく感じるであろう、巨大なドラゴン。
ルビア・マリーはそのドラゴンを、何故だかじっと見上げてしまった。
「エメラルド……いえ、ティールブルーの方が近いわね。落ち着いた青みの強い……、鴨の羽根の色に近い青緑色だわ……。とても綺麗な鱗の色ね……」
ぼんやりと呟くように言ったルビア・マリー。ドラゴンは目をしばたたかせた。
「……オレを見た人間って、普通はさ、『きゃあドラゴン!』とか『食べないで』とか叫んだり泣いたりしてくるんだけどな……」
おかしいな、と言わんばかりに首を傾げたその様子が、おかしくて、思わずルビア・マリーは笑ってしまった。
「神経が図太いのかお前」
「図太くは……無いと思います。でも、色々なことがたくさんあり過ぎて、わたしの神経は焼き切れてしまったのかもしれないわね」
妖精に出会って、その女王の瞳に吸い込まれるように感じて。気が付けば、自分の手も見えないほどの完全な暗闇の中に居て、そうして、外に出たと思えば、雲海が見える高所にいた。
そして、そんな状態でドラゴンに出会った。
怖い、を、通りこしてしまったのかもしれない。
(それとも……このドラゴンの声がのんびり聞こえてくるからとか……ドラゴンの瞳が怖く感じないから、かもしれない……)
ルビア・マリーはゆっくりと立ち上がる。そして淑女の礼を取った。これまで初対面の者に会う時に行ってきた習慣として、名乗りを上げる。
「わたしはルビア・マリー・ロシュフォールと申します。『星詠みの国ヴェンタール』のロシュフォール侯爵家の娘です。もしよろしければ貴方様のお名前を教えていただけませんか?」
「へ?」
ドラゴンはきょとんとした顔になった。
「やっぱりお前、ずいぶんと肝が据わってるよ。名前……ねえ」
「あ、お名前をお聞きするのは失礼でしたか?」
「いや、そうじゃないんだけど。オレは……この色から『青いの』とか呼ばれたりしているけど。名前、とかじゃなく呼び名かな、これ」
「『青いの』様とお呼びすればいいのかしら?」
不思議な名前だと、ルビア・マリーは首を傾げた。
「……『青いの』に『様』なんてつけるのおかしいだろ?」
「では……どういたしましょう?」
ドラゴンは、少しの間、思案をした。
「あー、んじゃ『セイ』でいいや。オレの妹がオレのことを何故かそう呼んでくるんだよ」
「ああ……。確かどこかの国の古語で『青』を『セイ』と呼んでいましたね……」
「へえっ! お前よく知っているなあ。じゃあ『赤いの』ってその古語ってヤツでは『コウ』って呼んだりする?」
「赤は……違いますが……。あっ! 『紅』なら『コウ』と読みます! 紅花から抽出される赤い色を『紅色』と呼びますね」
「なるほどねえ。あ、お前はルビアでいいんだな?」
ドラゴンに『ルビア』とファーストネームだけで呼ばれ、ルビア・マリーは真っ赤になった。
「あ? どーしたルビア? ルビアって呼ぶの、駄目だったのか?」
ヴェンタールではファーストネームだけで呼ぶのは夫婦か婚約者のみだ。いくら親しくても、たとえ親兄弟でもファーストネームとセカンドネームを続けて呼ぶ。
(求婚とか夫婦とか、そういう意味でわたしをルビアと呼んだんじゃないわ。だけど……)
婚約者であるギイ・クロードからも呼ばれたことのない呼び方に、どうしたって顔が赤くなってしまう。
(悪役令嬢として、卒業パーティのときにわたしは婚約破棄をされる。だから、ルビアなんて、一生誰からも呼ばれることはないと思っていたのに……)
初めて呼ばれたファーストネームだけの呼び方。胸の奥がくすぐったく感じてしまった。
(ここは……こんな高い山の、雲海すら見えるなんて場所はヴェンタールにはない。ここはヴェンタールじゃない。なら……わたしはここで、『悪役令嬢』ルビア・マリーではなく、単なるルビアでいられる……?)
それは何と幸せなことか。
「いいえ、セイ様。『ルビア』と名前を呼ばれることが……その、嬉しかったものですから」
「ふうん? そーゆーもんなのか?」
「ええ。とても、とても……嬉しいんです」
小さな白い花が咲くように、ルビア・マリーはふわりと微笑んだ。
お読みいただきましてありがとうございました!
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登場人物紹介
ドラゴン(セイ / 青いの) ティールブルー色の、鱗を持つ。
年齢不詳。妹がいる。




