◆第六話 ② ◆
迷いののない足取りで、妖精たちの方へと向かうリシャール・デルト。ルビア・マリーはそのリシャール・デルトの背中を見た。まっすぐに伸びた背。妖精という不可思議な者たちの元へと向かうのに、怯えやと恐れ、戸惑いすらも、その背にはない。
(友といってくださった。頼ってばかりのわたしを……。ああ、わたし、駄目だ。このままじゃ、本当に駄目だ。助けてほしいなんてばかり思っていて……。これまでリシャール・デルト殿下にはたくさん教えてもらってきた。嫌々ながら運命に従うのではなく、逃げるという選択肢があるということも……。『精霊言語』の本を、殿下がわたしに見せてくださって、覚えようと言ってくださったのも……二人で秘密の会話をするためだけじゃなくて、今日のように、もしも精霊に出会える時があるのなら、精霊に願いを言えば、叶えてもらえるかもしれないという、その方法をきっと考えていたからよ。殿下がわたしを救うのではなくて、救われたいのなら、わたしが自分で動かなくてはいけないと……、そう、教えてくださっていたのだわ……)
だから、ルビア・マリーは自分でリシャール・デルトを追いかけなければならないのだと思った。
(ここまで、いくつもの選択肢を教えてくださった。そして、リシャール・デルト殿下は戦う、抗うという道をお選びになった。……わたしはまだわからない。逃げたいとは思っていても、どうしても自分一人で自分の未来を切り開くなんて力はないと思ってしまう。誰かに助けてほしい。誰かに幸せの場所へ連れて行ってほしい。だけど……リシャール・デルト殿下のその誰かになって欲しいというのは……甘え、だわ。もしもわたしがこの先の未来を、リシャール・デルト殿下と共に歩みたいと願うのならば、殿下と共にこの『星詠みの国』に抗うことになる。戦い、抗う……。だけど、今のわたしには、まだ抗うほどの熱意も勇気も……ない。だけど、友と言ってくださった殿下に……これ以上甘えて、見限られるのは……嫌だわ)
ルビア・マリーはリシャール・デルトの背中を見つめながら、後を追う。
リシャール・デルトの横に並び立つほどの勇気はない。決意はない。だけど。せめて、その背を追いかけられるほどの気概は持ちたい。
『天降石』の周りで踊っている妖精たち。
その中央にいる、体の無い、美しい顔の女。妖精たちの女王。
その女王の前までリシャール・デルトは進み、ルビア・マリーも五歩ほど遅れて、そこまで辿り着いた。
今回めっちゃ短くてすみません
妖精事件は次の③で終わり。
第七話ドラゴンの谷に続きます。
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登場人物紹介
妖精の女王 体の無い、美しい顔の女。きまぐれ。




