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◆第五話 ④ ◆

≪≫の中の言葉は妖精語で話していると思ってください。

ルビア・マリーはごくりと息を飲んだ。


「≪殿下も、どこかへ逃げたいと思っていたのですか? わたしと、一緒にどこかへ行ってくださるおつもりで……≫」

 

妖精の言葉を使って、ルビア・マリーはリシャール・デルトに問う。 

期待を瞳に込めて。

逃げたいと、ずっと思っていた。

『悪役令嬢』という運命を告げられて、その占いの通りに生きなければならない。 

そんな人生は、嫌だと思っていた。

けれど、それ以外の生き方をルビア・マリーは知らない。教えられていない。

嫌だ嫌だと心の中で思いながらも、従うしかない。

逆らうことも、逃げることもできない。

けれど、一人でないのなら。

二人なら。


(嫌だと思うばかりでなく、この場所からどこかへ逃げられるのかもしれない)

 

けれど、リシャール・デルトは首を小さく横に振った。


「≪逃げたいと思ったことはあったよ。だけど、今の私に逃げる気はない≫」

「え?」

「≪聞いてくれるかい、ルビア・マリー≫」

「は、はい……」

「≪私は王の子として産まれた。第一子だ。つまり、他国なら問題なく王太子になれる位置にあり、また『十歳の儀式』で『運命』を授かる前までは、後の王として相応しいようにと厳しい教育を受けてきた≫」

 

王の、第一子。第一王子。他国であれば王太子になる可能性は一番大きい。だが、この『星詠みの国ヴェンタール』では、そうとは限らない。すべては『星と運命の導き』によって決まる。

 

ルビア・マリーの父は第三子だった。だが、『星詠み』の結果、ロシュフォール侯爵家を継いだ。

 

そういう国なのだ。

 

だから、リシャール・デルトも、第一王子だからと言って王になるとは限らない。その上、リシャール・デルトが『十歳の儀式』で授かった運命は『逃す者』だ。王の座を逃すものだと、王宮に居る者たちや貴族学園に通う令息令嬢たちから、何度も揶揄されてきた。

 

努力もせず、遊んでばかりのギイ・クロードが次代の王として受け止められ、有能で努力を重ねているリシャール・デルトはギイ・クロードを支える礎としか見られない。


「≪だが、『星と運命の導き』によって、私は王にはなれない。王は弟だ。遊んでばかりいるあれが……。正直に言えば、ふざけるなと思ったよ≫」

「≪殿下……≫」

「≪私の人生は私のものだ。弟の礎になるために生きていくなんて冗談ではない。あれが、後の王として自覚があり、努力を重ねているのならともかく。学ぶことすらしない者のために、何故この私が犠牲になれねばならないのだ?≫」


リシャール・デルトの瞳には怒りがあった。

 

ルビア・マリーもリシャール・デルトも、共に『星詠み』によって、他者の犠牲になって生きることを強いられている。

 

ルビア・マリーは、嫌だと思いつつも、反発もできず、また逃げることで出来ずにいた。その場で蹲っているだけ。

 

だが、リシャール・デルトは違う。

 

彼は怒っていた。

 

運命に逆らうことを考えていた。


「≪最初はね、私もこんな国を捨てて逃げようと思っていた。外国の言語や風習を学び、この国以外のどこに行っても生きていけるように……とね。君に『妖精言語』を進めたのもその一環だ。知識は多ければ多いほど、身を助ける。そして、身に着いた知識は誰にも奪えない。だけど……≫」

「≪逃げることは、止めたのですか?≫」

「≪ああ。神殿を妖精たちが占拠していると聞いた時、上手く妖精を利用すれば私も君も共に逃げることができるかもしれない……と思った。だが……≫」

「≪お考えを変える何かがありましたか?≫」

「≪妖精たちが我が国の根幹である神殿を占拠した。それは王や宰相や……皆が集まって対処すべき重大な事件だ。なのにその場に、あれはいなかった≫」


もはやギイ・クロードと名を呼ぶことすらしなかった。リシャール・デルトにとってのギイ・クロードは、名前など呼ぶ価値すらない「あれ」。そんな者を支えなくてはならない自身にも怒りを覚えた。


「≪王太子と運命の娘が幸せであれば国は栄える……そのために、些末事は二人には知らせないというのが陛下たちの共通認識……でしたわね≫」

「≪国の危機が起きているのなら、それを対処するのは国王の義務だ。遊んでいるヤツを祭り上げるだけで何もさせない。そんなものを支えるために私は生きているわけではないっ!≫」

 

大声を上げて、そしてリシャール・デルトは「しまった」と顔を顰めた。


「ああ、すまないね、ちょっと熱くなってしまった」

「いえ……やはり妖精の言葉は難しいですものね。わたしはつい、おどおどしてしまいますが」

「私は上手く外国の言葉が出ないと……イライラしてしまいがちだな。すまないルビア・マリー。もう一度、ゆっくり妖精の言葉の練習をしよう」

「はい、殿下」

 

馬車の中には二人きりではなかったのだ。護衛の騎士とそれから侍女の顔をちらりと見ながら、ルビア・マリーとリシャール・デルトは話しを少々誤魔化した。


大きなミスを……殿下の名前を間違えていましたあああORZ

第一王子リシャール・デルトです。

少しずつ直していきます」……。

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