◆第四話 ② ◆
秋が終わり、冬が来る。そして春、夏と過ごし、また秋が来る。学園での一年間の生活、そしてさらに月日が経ち、今はもう春。ルビア・マリーたちは十六歳となった。
卒業式での『婚約破棄』の時まではあと少し。
そこでひとまずルビア・マリーにとっての茶番劇、そしてギイ・クロードとナナ・アニエルの『真実の愛』の日々は一区切りを迎える。
(婚約を破棄される卒業パーティは夏の七番目の月。だけど、形式上断罪がされ、わたしは国外追放になったと見せかけるだけ。王宮の奥に閉じ込められ、ナナ・アニエルができない政務を行わされる……)
占いによって定められた運命に対し、あからさまにため息をつきながらルビア・マリーは今日もナナ・アニエルの元に向かい、告げる。
「ナナ・アニエルさん。あなたも間もなくこの学園から卒業するのです。せめて王族に対する儀礼やカーテシー程度は覚えていただけませんか?」
一年半も似たようなセリフを繰り返した。だが、ナナ・アニエルはギイ・クロードと戯れているだけで、何一つ覚えようとはしない。
「いじめられたーひっどおおおおい」
わざとらしく目尻に涙を浮かべ、ギイ・クロードの腕にしがみ付く。
「ルビア・マリーは『悪役令嬢』だからな。お前を苛めるしか能がないんだ」
くすくすと笑いながらそう言うギイ・クロードもナナ・アニエルと同様に、王族としての儀礼や知識は全く身についていない。
学園での勉強も全く行っておらず、成績は底辺。
だが、学園の、いや、国中の誰もがそれを許す。
『王太子』と『運命の娘』は、幸せであれば国は富むのだと、そんな占いを、ヴェンタールの国のものは皆信じている。
その二人の影で、政務や公務に追われているルビア・マリーやリシャール・デルトのことは、誰一人として慮りもしない。
「せいぜいオレたちの愛のために奔走しろ。オレたちの愛が強ければ強いほど、この国は栄えるんだ。そう『天降石』が告げたんだからな」
『王太子』と『運命の娘』は、支えられて当然なのだ。
だが、卒業式をあと一ヶ月後に控えた六番目の月の末の日。
ヴェンタール王国が建国されてから一度も起こらなかった『事件』が起きる。
『天降石』が祭られている神殿に、何百、いや何千もの妖精たちがやって来たのだ。
次回第五話。夏至の日。