第一章「シカゴ」
天沢一郎と國分剛史が、成田発のJAL直行便で向かったのは、アメリカ合衆国・シカゴだった。ニューヨーク、ロサンジェルスに続く、アメリカ第三のメガロポリスだ。十二時間弱のフライトで太平洋を渡り、北米大陸を横断して、五大湖地方に至る。五大湖の一つ、ミシガン湖の湖畔にシカゴは位置する。
「國分くん、ビジネスクラスの無料サービスとは言え、ちょっとお酒を飲みすぎなのでは?」
「そうか、天沢。俺としてはいつもの半分以下に自制していたんだがな」
シカゴ・オヘア空港に降り立った二人は、ナンバー式のコインロッカーから「荷物」を受領し、中に入っていたプリペイドSIM入りスマホで「組織」に到着を連絡する。暗号化されたメッセージを送り、指示を受領する。音声通話はいっさい無しだ。
二人は空港ターミナルからタクシーに乗って、三〇キロメートルほど離れたシカゴ市内をめざす。片側六車線の広いハイウェイだ。
「空港待機の装甲車両をダミーにして、ぼくら二人だけの単独移動。それが『組織』の指示なんですね、國分くん」
「『木を隠すには森の中』という諺がある。ハイウェイの車列にまぎれていたほうが、安全だという判断なんだろうな」
ハイウェイ上空から、ブゥゥゥゥンと高速で回転するプロペラ音が聞こえる。巨大な蜂の羽音のようだ。それも多数。こちらに接近してくる。
「ドローンか!」
剛史が警戒する。
「まさか、こんなところで?」
一郎がいぶかる間もなく、急降下してきたドローンが、タクシーの車上をギリギリにかすめて、隣の車線を走っていた大型トレーラーの側面に激突し、爆発する。トレーラーは蛇行して、複数の車輌と接触する。
「危ない!」
運転手のとっさのハンドルさばきで、タクシーはかろうじて衝突に巻き込まれずにすんだが、前方を走る大型車両…タンクローリーだ…に別のドローンが突っ込み、運搬中の可燃物に引火して、盛大に爆発する。巨大な炎が吹き上がる。その炎ギリギリのところをタクシーが走り抜ける。
「ハイウェイを降りろ!」
剛史が運転手に命令する。
「は、はいい!」
運転手は必死に車線を変更し、クルマをハイウェイの出口に向けようとするが、自爆ドローンが次々に特攻してくる。他のクルマや路面に激突して爆発する。
「スピードを落とすな。停まったら確実にやられるぞ」
「ひい、ひい」
悲鳴を上げながらも、運転手は懸命にタクシーを走らせる。ハイウェイを出て、一般道へと入る。上空が開けたハイウェイとは異なり、林立するビル群にはばまれて、ドローンは攻撃をしかねている様子だ。
剛史は運転手に指示して、ショッピングモールの地下駐車場へとタクシーを入れさせる。停車したところで、運転手に高額紙幣を数枚握らせる。
「迷惑をかけたな。釣りはいらん。外にはまだドローンがいる。半日ほどここで待機していたほうがいいぞ」
「あ、あんたらはいったい…」
運転手が問いかけるのを振り捨てて、剛史と一郎はタクシーを降りる。広い地下駐車場を走り抜け、従業員用通路を通って、ショッピングモールの裏側に出る。ビルとビルの間の、幅数メートルの、クルマは入ってこれないバックヤードだ。頭上に細長く青空が見える。
「ここなら電波が入るだろう」
剛史はスマホを立ち上げ、「組織」への連絡を試みる。
ブゥゥゥゥンとドローンの羽音が聞こえる。
「國分くん、危険です」
一郎が警告する。
剛史が見上げると、上空にドローンの黒い機影が見える。速度を落として、ビルの谷間に降下しようとしている。
「マジかよ」
剛史は「荷物」から銃を取り出す。スミス&ウェッソン四四マグナム。ロングバレルの巨大な拳銃だ。装弾数を確認し、安全装置を外して、ドローンに向けて発砲する。一発目は外したが、二発目が命中。コントロールを失ったドローンはビル屋上に墜落する。
「やったか!」
と思う間もなく、第二、第三のドローンが上空に出現。前のドローンとのデータ同期で「地形」を学習したのだろう。速度を落とさずに、そのままビルの谷間へと急降下してくる。
剛史はたて続けにマグナムを撃ち、残弾すべてをドローンに撃ち込む。二体のドローンが互いに衝突して、そして、
「伏せろ! 天沢」
剛史は一郎を地面に引き倒し、その上に覆いかぶさる。
ドローン二体が空中で爆発する。すさまじい熱線と、続いて爆風が、ビルの谷間に充満する。




