初仕事のあとは
「聞いてよ、ファーストったら強いのよ!
ばびゅーんって行ってぐしゃ!なんだから!」
……何も伝わってない。
ルナ嬢の説明を聞きながら、俺は内心ほっとした。正直、どんな風に話されるのかちょっと構えてたんだぞ。
「さっきも聞いたが、そのばびゅーんてのはなんだ?
お嬢の“シュンポ”ってやつみたいなもんか?」
ダーレスさんが興味深そうに尋ねてくる。確かに、「ばびゅーん」じゃわからんわな。ルナ嬢、いつもこんな感じで説明してるのか? ダーレスさんも苦労してそうだ。
「ああ、いや。ただの体術ですよ。
地元で自警団の人たちと訓練とかしてたもんで。」
これで納得してくれんかなぁ。いや、無理だろうなぁ。
「ふーん。自警団ね。
言っちゃ悪いが、田舎の自警団でお嬢が驚くほど鍛えられるとも思えんが……。
まぁいい。そのうち俺にも見せてもらう日が来るだろうさ。」
ダーレスさんが優しく笑う。いい人で助かった。
「そんなことより、どうやってお嬢を口説いたのさ?
ちょっと強いくらいで、お嬢がここまで興味を示して友達だなんて紹介するのは初めてじゃない?」
「ちょっとルクス! 口説いたとかそんなんじゃないわよ! 友達よ、友達っ!」
弓使いのイケメン――ルクスさんというらしい――がニヤニヤしながらルナ嬢をからかう。どうやら本気で言っているわけではなさそうだ。妹が男友達を連れてきたときの兄みたいな感じか。
「そうです。ただ一緒に狩りをして、仲良くなっただけですから。勘弁してください。」
「ふーん。じゃあそういうことにしておこうか。」
ルクスさんのその笑顔は、どう見ても「からかう気満々」だ。まぁ、敵意がないならそっとしておこう。
「強者が強者を認める。それに勝るものはない。
私もさらに鍛錬を重ねねばならんな……!」
突然、重厚な声で語りだしたのはドルガンさん。彼はごつい体格のタンク職で、いかにも筋肉でできてます! という感じの人だ。
「は~、ドルガンはいつもそうじゃねぇか。
別にこんな話がなくても、鍛えるのが趣味みたいなもんだろ?」
「ダーレス! お前は最近たるんできておらんか?
もっと高みを目指そうと誓い合ったではないか!」
どうやらダーレスさんとドルガンさんは古い付き合いらしい。一緒に冒険者としての頂点を目指している感じか。そういう誓い合いって、なんかいいよな。
「へいへい。せいぜい明日はお手柔らかに頼みますよ。」
二人は気心知れた仲間のようで、軽口を叩き合っている。そのやり取りを見ていると、仲間っていいなぁと思う。
その間も、黙々と食べ続けている人が一人……。
(この人、何考えてるんだろ? じーっと俺の顔を見ながらメシ食ってるだけだけど。)
緊張してるのか、人付き合いが苦手なのか。それとも、ただ単に無関心なのか……。
「……それ、食べないなら貰ってもいい?」
いや、俺の顔じゃなくて皿を見てたのかい!
「あ、どうぞ……って、これ俺のじゃないですよね?」
「何言ってんの! あんたの初仕事祝いだってさっき言ったでしょ!
気にせず食べなさいよ!」
ルナ嬢の言葉に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。初仕事の祝いでご馳走を用意してくれてたのか。ありがたいけど、説明不足なんだよなこの人。
「紹介するわね! これが私のパーティーよ!
ダーレス、ドルガン、ルクス、そしてキキョウよ!」
食事に夢中だった彼女の名前が「キキョウ」だと判明した。東方っぽい名前だな。この世界の東方が俺の知るそれと同じかわからないけど。
「よろしくお願いします。ファーストです。今日初仕事を終えたルーキーです。」
「おう、よろしくな。」
「よろしく頼む。」
「よろしく~。」
「……。」
キキョウさんは何も言わず、ただ一瞥するとまた食事に戻った。俺、嫌われてる?
まぁいい。こんなに大人数で食事をするのは久しぶりだし、この先も滅多にないだろう。せっかくだから楽しんでおこう。
その後、ダーレスさんにやたらと酒を飲まされ、ルクスさんにはルナ嬢との仲をからかわれ、ドルガンさんには手合わせを求められたりと、何かと忙しくも楽しい時間を過ごした。
「あ~~~、だいぶ飲まされたな……。」
夜も更け、解散となった。明日の予定もあるし、長居は禁物だ。
俺は千鳥足でふらふらと宿へ向かう。ところが――
突然、背後から鋭い殺気を感じた。
とっさに地面に転がるように前転して攻撃をかわす。振り返ると、そこに立っていたのは――
「……どういうつもりですか、ルクスさん?」
「おや、意外にしっかりしてるじゃないか。でも、それが逆に怪しいねぇ。」
「……なんのことでしょうか?」
「今日初めて会ったばかりの君に、どうしてお嬢があんなに気を許しているのか……。じっくり聞かせてもらおうか。」
どうやら俺に疑念を抱いているらしい。確かに、ルナ嬢が俺に対して妙に親しげだったのは事実だが、俺自身も理由はわからない。
「誤解です。本当にただのルーキーですよ……。」
「それは捕まえてから確認するよっと!」
交渉は失敗。ルクスさんが容赦なく突きを放ってくる。その動きは速く、洗練されていた。俺はギリギリでかわし続けるが、かすり傷が増えていく。
「……強いねぇ。ますます怪しいじゃないか。」
「いやいや、そろそろやめませんか。お互い怪我しますよ?」
「そうだな、終わりにしようか。手を抜いていられる相手じゃないみたいだし。」
ダメだ、決めにかかる気だ。このままじゃ――
刹那、俺は神経を研ぎ澄ませ、ルクスさんの動きを見極める。そして――
右手で放たれた突きを内側にかわし、その手を左手で掴む。同時に、右手で彼の鳩尾を押さえる形で突き上げた。
「ぐはっ……! なんだ、その動き……!」
「すみません、服を汚しちゃいましたね。でも、大丈夫です。右手が折れたくらいで済んでますよ。」
ルクスさんは呻き声を上げたあと、そのまま気を失った。
さて、どうするよこれ――?
地元の自警団の話が出てきましたが、村は大きな街の周りに点在しています。
主人公は自警団で訓練していましたみたいですね。
逃げまわったり、避けるのは得意です。
ルクスさんの剣技ですが弓が得意な人にしては冴えています。
弓だったらもっと強いんでしょうね。
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