初めての報告
街に戻ると夕方になっていた。
「もう!あんたがぐずぐずしてるからこんな時間になっちゃったじゃない!」
「いや、それは……ぐぬぬ。はい、すみません。」
実際、久しぶりに力を使ったので足元がおぼつかなったのは事実だ。
それで遅くなったのも。
だってルナさん自分が狩ったら手伝ってくれないんだもん。
あなたの依頼でしょって、まぁその通りなんだが。
「やあ、おかえり~。けっこう遅かったね。
ルナさんが一緒だって聞いてたから、もっと早く戻るかと思ってたけど……。
まぁ、初めての依頼ならそんなもんかな。」
守備兵隊長のアーネスさんが、手をひらひらさせながら出迎えてくれた。
やっぱこの人、軽いな~。
仕事モードの時は別人みたいになる分、このギャップが逆に怖いかもしれん。
「あ、ただいま帰りました。ご苦労様です。」
「冒険者証を確認させてね。
はい、二人とも通って大丈夫だよ。
お疲れ様。ちゃんとギルドには報告しに行くんだよ」
「あ、はい。わかりました」
「ちょっとアーネスさん!
ダーレスが余計なこと言ってないでしょうね!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。
ちょっと世間話のついでにルナさんがいつものおせっかいで新人に絡んでたぐらいしか」
「もう!ダーレスったら!」
そうか、ルナ嬢はいつもこんなことしてたのか。
俺だけ特別ってわけじゃないんだな。
ちょっとだけ。ほんとにほんのちょっとだけ落ち込む。
いやほんとにほんのちょっとだけだよ。まぁ剣は他の人にはあげてないだろうしね。
こんな曰くありそうな剣は他にないだろうし。
いや、なに考えてんの俺。
ただの友達よ友達。
「じゃ、さっさと報告してきなさい!ファースト!」
「あれ?一緒に行かないの?お前が狩った分もあるだろ?」
「何言ってんの。ルーキーの仕事を横取りしたみたいに私が思われるじゃない。
ブツブツ言ってないでさっさと行ってらっしゃい」
どうやらルナさんとはここでお別れらしい。
まぁそうだよね。
彼女には彼女のパーティがあるんだし。当たり前か。
友達つっても今日会ったばかりだしな。
「ああ、わかったよ。今日はありがとな。
助かったよ。
また機会があったら教えてくれな!」
俺は若干の寂しさを感じながらも今日の出来事を思い出しつつギルドに向かいだした。
「ファースト!あとで酒場に来なさい!みんなにあんたのこと紹介するから!」
いやいやルナさんそれ今日のこと言っちゃうつもりでしょ。
俺の土下座はなんだったの?
「勘違いしなくても大丈夫よ!あのことは言わないから。
大丈夫よ大丈夫!」
二回言うの大丈夫じゃないように聞こえるんだが。
まぁ友達として紹介するつもりかもしれんし。
勝手にあれこれ言われるより、それとなく牽制できる状況の方がまだマシか。
「わかった。
ギルドへの報告が終わったら向かうから。
ありがとな」
そうと決まればギルドの用事を早々に終わらせて、ルナ嬢がいらんこと言う前に口止めしやすい状況を作るまでだ。
俺は足早にギルドに入ってカウンターのお姉さんに結果を報告することにした。
「お疲れさまでした。無事に戻られたようで何よりです。
では素材を換金いたしますので少しお待ちください。」
慣れた様子で俺を素材受け取りカウンターにいざない依頼票を確認。
手際よく動くお姉さん。
仕事できるんだなぁ。
こういう人がギルドにはいるんだね。
昨日の登録の段取り見たら冒険者になるのは簡単にみたいだから。
依頼の処理も多いのだろう。
そりゃ有能になるわな。
そこそこ大きいとはいえ中央ではないこのギルドでこのレベルなら。
こりゃギルドは思ったよりしっかりした組織みたいだな。
「はい、これが依頼と素材の報酬になります。
全部で銅貨8枚ですね。」
「意外に多いんですね。
もっと少ないのかと思っていました。」
「この時期は兎が少なくて、ちょっと割高になってるんですよ。」
なるほど、そういうことか。
でもそれで兎が見つからなかったのも納得できた。
今度は違う仕事にしよう。もう兎を探し回るのはこりごりだ。
「次回もぜひ兎の依頼、期待してますよ~。
この時期、受ける人が少なくて、本当に助かるんです。」
お姉さんがアルカイックスマイルで俺に言ってくる。
目がなんかマジなんですけど。
「ははは、善処します・・・」
まじかー。
なんか逃げられないような予感するなー。
気のせいにならないかなー。
お姉さんの圧を感じながらそそくさとギルドを後にする。
なんにせよ俺のはじめての冒険は無事に?終わった。
さて、明日からまた頑張ろう。
と、ルナさんに呼び出されていたことを思いだした。
でも酒場に行く前に宿に帰って少し体をふいておやじさんに晩飯いらないって言わなきゃな。
「ただいま戻りました~」
「おう、おかえり。どうだった初仕事は?怪我はしてねえか?」
「あ、おかげさまでなんとか無事完了しました。
これから酒場に誘われたので今日の夜の食事は用意しなくても大丈夫です。」
「そうかい。そりゃ何よりだ。
晩飯不要なのはわかったが。
誘われたって、まさかやばそうなやつらじゃないだろうな?」
ちょっと過保護すぎませんかこのおやじさん。
ありがたいが、なんか逆に不安になってくる。
「大丈夫だと思います。ダーレスさってところのパーティの方と一緒の予定なので」
「ダーレスか。まぁあいつなら大丈夫か。
初仕事祝いだからってあんまりハメ外すんじゃないよ。
部屋の鍵は持って行きな。無くすんじゃないよ」
この人もなんだかおかんみたいだな。
「ありがとうございます」
部屋に戻りタオル代わりの布をもって裏の井戸で簡単に体を拭く。
準備というほどではないが、一応荷物を確認して宿を後にして酒場に向かって行った。
がやがやとした酒場に入り所在なくキョロキョロとあたりを見回す。
「遅いわよ、ファースト!ほら、こっち!」
奥の方の席から今日一日で聞きなれた少し高い声が俺を呼ぶのが聞こえた。
「ああ、ごめん。ちょっと宿によって食事はいらないって言ってきたんだ」
「あら、そうなの?また迷子になったのかと思ったじゃない!」
またってなんだよまたって。
そりゃ兎狩りはウロウロさせて頂きましたが。
それ以外は大丈夫だったろうに。
いざなわれるまま、席に着く俺。
そこで俺を何かの珍獣でも見るかのようにジロジロを見てくる4対の目。
このベルファスの街でも名の知れた冒険者5人がいる席に座らされた俺は、なんとも言えない気持ちになっていた。
「この子がファーストよ!私の友達!」
「へぇ、君が噂の新人か。ふーん、なるほどね」
「強い奴は歓迎だ。お嬢が認めたなら、それなりの腕だろう」
「……。」
「よお、ファースト!聞いてるぜ、初仕事お疲れさん!さぁ、飲め飲め!」
それぞれの反応が返ってくる。
最初はもちろんルナ。今日一緒に兎を追い回した仲だ。
二人目が少々軽薄そうな、弓使いの兄さん。年は20代半ばくらいか?
三人目はがっしりとした、いかにもタンク職の人。年は若くも見えるし。おっさんにも見える。
四人目はわからん。だってじっと見られてるだけなんだもん。たぶん女の人。
五人目はダーレスさんだ。
さて、何を聞かれるやら・・・。
初めての依頼の報告が終わりました。
初日で16,000円相当とはかなり稼いでますね。
兎など小動物の狩りは難しいです。
少ない時期に3匹も狩れるなんてとてもラッキーだったと思います。
ギルドのお姉さんに目を付けられるくらいには。
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