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これは夢なのかな?

自分でわかるってことは夢なんだろうな。

俺はその夢の中でベルと一緒にいる。

ベルと一緒に何かから逃げてる感覚で、何かに追い立てられているようだ。


周りの景色がすごいスピードで後ろに流れていく。

二人で風になったように障害物を飛び、飛んでくる岩を避けまるでゲームのような世界をどんどん進んでいく。


たぶん夢なんだろうけど、なんでこんなに急いでいるんだ。

でも、勢いを緩めれば何かに追いつかれるというのはわかる。


追いつかれたら終わり。

それだけはわかる。その確信だけはあった。

何があった?思い出せ。集中しろ。魔法は使えるのか?

忙しく動く中で俺はベルの手を強く握り彼女を見る。

ベルの表情は見えなかった。

いや、表情だけじゃない。顔が見えないのだ。認識できないと言った方がいいかもしれない。


今はそれどころじゃない。

なぜかそう思った。

なぜそう思ったのかはわからないが、夢なのだからそうなのだろう。

このままだとじり貧だから、なにかしなければ。

そうしないとこのまま追いつかれて死ぬだけだから。


でも、どうしよう?

こんな高速で動いている中で何ができる?

俺は走りながらできるだけ意識を集中させる。

自分の中にある力を引き出し、魔力に変える。


まずいな、追手のスピードが増した。

俺が何かしようとしているのに気づいたのかもしれない。


風の魔法は力が弱いか、水も難しそうだ、火は突っ切られるか。

なら、複合魔法の氷か岩ならいけるか・・・・。

そんな考えを巡らせながら、俺は後ろに向かって氷と岩の魔法を合わせて解き放った。

これで、なんとかなってくれと願いを込めて撃った魔法はまさしく神話級だったと思う。

そのまま俺の意識は落ちていったのだった。



---



目が覚めたとき俺は自分のデスクにいた。

見間違うはずもない、あのクソみたいな会社のデスクだ。

個性を否定するのが生きがいな上司と、新しいものや変わったものを異物とするあの村社会のような同僚連中のいる会社だ。


「まじかよ・・・・」


あの頃の記憶が蘇ってくる。

毎日吐き気を抑えて電車に乗り、そのうち電車に乗るのも苦痛になって歩いて行ったっけ。

まだ早起きすれば歩いて行けるくらいの距離でよかったのか?

この体に生まれ変わってからの事が幻のように感じ、安堵するとともに無性にむなしさがこみあげてきた。


ああ、やっぱり夢だったのか。

これからまたつまらない毎日を繰り返すのか。

でも、あいつとまた過ごせるな。

それだけが救いか。


そっか、またやりなおせばいいか。

子供の成長も見れると思えば、そう悪いことばかりでもないか。

そうだ、転職しよう。

この年だからいい仕事はないかもしれない。

家族には少し窮屈な暮らしをさせるかもしれないが、このままでいるよりいいだろう。


そうしよう。

まだまだ人生これからだ。

あんな波乱万丈に満ちたルーデルハインのような人生は俺には荷が重すぎたんだ。



---



次の瞬間、目の前に女性がいた。

周りの風景は変わっていたが、俺のはスーツのままでデスクに座っている。

どこまでも白い部屋だ。部屋というか端がない。


女性は少しふくよかな感じで優しそうに微笑んでいる。

どこかであったことあるかなぁ?

感じとしては少しお婆様に似ているかな。

でも、お婆様はもっと痩せているしな。


微笑んでいる女性は全体的に印象が薄いというか、力がないような感じだった。

たぶんこれは夢の続きなんだろう。

起きたら全部忘れているかもしれないな。


「ルーデルハイン。久しぶりですね。」


ぼーっと女性を見ているとそんな風に声をかけてきた。

俺を気遣うような優しい声色だ。

なんだか懐かしい感じもする。

でも、女性としてみるというかそういう感じではないかな。


「覚えていますか。それとも忘れてしまったのかしら」


あ、すいません。

ぼーっとしてしまって。


「いいのですよ。あなたとお話しできるだけでありがたいことですから」


はあ、そうですか。

それはどうも。


「こんな状況で接触することになって申し訳ありません」


いえいえ、お気になさらず。

私も何が何やらわからない状態ですので。


このままで話しができるのですか?

俺、声出てますかね?


「ええ、聞こえていますよ」


ところで、あなたはいったい?


「あなたの母ですよ。ルーデルハイン」


母?

母というとお母さん?

うちのおふくろはもっと年取ってましたよ。

確か70超えていたと思いますが。


「それは、あなたの前世の母上のことですね。

 私はルーデルハインの母です」


ああ、そうでしたか。

ルーデルハインの。

どうも失礼しました。

どうもこの体の記憶に引っ張られて、ルーデルハインであることが抜けてしまって。


「そうなのですね。あなたはルーデルハインである自覚はあるのですよね?」


まあ、ありますけど。

今はあなたが母というのはピンと来てないといったところです。

おそらくお会いしたことはあっても意識の無い頃だったからかもしれません。

すいません。


「仕方のないことです。私の方こそあなたを置いていくことになって申し訳ありません」


いえ・・・。


ひとつ聞いてもいいですか?


「なんでしょう?」


私はあなたの息子でいいのでしょうか?

あなたの息子の体を乗っ取ったただのおっさんではないのでしょうか?

それがずっと気がかりで・・・


「あなたはまさしく私の子供ですよ・・・

 今はそうは見えない姿ですけどね、ふふふ・・・」


よかった。

教皇様にも答えは頂いていたが、母親という人からそう言われると安心できる・・・。


「あなたはその記憶のせいで、大変な苦労をしているようですね」


知っているんですね。


「ええ、知っています。

 あなたの知っている言葉で言うと、見守っているというところでしょうか。

 ただ、断片的にしか知らないのですが」


見守って、ですか。

親という字は「木の上に立って見る」って何かで見た気がするな。

そんな感じなのかな。


「そうですね。

 ただ、今回はこちらにも影響が出るような事態でしたので干渉させて頂きました」


はあ。そうですか。

私が

僕が

困っている?


なんのことなのか?

たしか、王様が変わるとか言ってその式典に出るか出ないか。

それを機に国に帰るかどうか、殿下にお願いするかどうか。

そのことだろうか?


それともさっき夢の中で追いかけっこして困っていましたけど、あれのこと?


「ええ、そのことです。

 あなたが最後に放った力で大きく歪んでしまいました」


なにがです?


「この世界の理の一つです」


また、大きな話が出てきたな。


そういって、昔も何でもかんでも話を大きくするやついたな。

それで、力を貸しましょうか?といって最後に手柄だけ持って行っちゃうやつ。


〇〇さんも頑張りましたよって。

残業も客先への謝罪も何もかもしてないのに、当たり前のことをちょっと言うだけで自分が何とかしたみたいに。


「母の言葉を信用できないのですか?」


母と言われても、さっきまで面識がありませんでしたから。

いきなり母ですって言われてもねえ。

正直、母って言うのも信用してないってのが正直なところです。


「そうですか。

 残念ですが、仕方がありませんね。

 ただ、これだけは言わせて下さい」


はあ、なんでしょう?

何が問題かもわかってないので、理解できるかわかりませんが。


「それでもかまいません。

 心の片隅にでも置いておいて欲しいのです」


まあ、それくらいなら。

でも、爆弾発言だけして消えるようなことはしないで下さいよ。

こっちの気持ちだけかき乱して、あとは知らんぷりなことになるようなことならすぐに忘れますから。


「すみません。私にはあなたに信用してもらうしかないのです。

 寂しい思いをさせてしまって申し訳ありません。

 ただ、私があなたのことを思っているのはほんとなんです」


ちょっと言い過ぎたかな。ごめんなさい。

この体だと、どうしても思考がそっちの方に行っちゃって。


ちゃんと聞きます。

聞くぐらいはさせて頂きますので・・・。


「ありがとうございます」


あ、その前に。


「なんでしょう?」


質問がいっぱいあるんですけど、いいですか?

たぶん、言いたいこと言ってさっさと消えちゃう感じだと思うんで。


「・・・いいですよ」


この体になってるってことは。生まれ変わる前に戻るんですか?


「いいえ、これはあなたの深層心理ともいうべき場所なだけですから

 目が覚めたら宿で目が覚めるでしょう」


なるほど、起きたらルーデルハインですね。

では、先ほどの夢で一緒にいたベルは本物ですか?


「ええ、彼女の深層心理と繋がったものですので本物です」


会話ができなかったのは?

それと、今彼女は?


「まだそこまで深くつながっていないだけです。

 彼女は部屋で眠りについている状態です」


そうか、よかった。無事だったんだ・・・。


「他にはありますか?」


私の、ルーデルハインの父親は誰ですか?


「答えられません。それは時が来ればわかるでしょう」


なんだ。答えてくれないのか。


ベルを助ける方法はありますか?


「あなたの力が影響してよい方向に向かったかもしれません。

 先ほどの追い立てていたモノがベルさんを捕えていたモノの断片でしたので」


なんだって。


「では、そろそろ時間がなさそうなので。いいですか?」


あ、はい。

まだ聞きたいことはありますが、そういうものなんでしょうね。


「ごめんなさい。いろいろ制約がありまして」


わかりましたよ。

ベルのことが聞けたからそれで良しとしますか。

アドバイスでもなんでも聞きましょうじゃないですか。


「では、ルーデルハイン。

 あなたは国に帰って次の王である王太子のもとで彼のために働きなさい」


その言葉を最後に、俺の意識は薄れていった。






ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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