心中
仕事の都合で投稿ができず申し訳ありませんでした。
「どういうことだ?誰か説明できるものはいるのか?」
父王が狼狽している。
私だって訳が分からない。こんな状況を誰が説明できるというのだ。
だが、ここは私が発言しなければ誰も口を開くまい。
「あの場にいたものは皆聞いたと思いますが、あれはおそらくアピト様の声ではないでしょうか?」
「はい、私もそう思います。
このように神の声を聴いた話はここ数百年ないと思いますので、確証はありませんが」
妃が同意してくれた。それ以外に考えようがないという事もあるだろうが、ありがたい。
「うむ、おそらくそうなのであろう。
ルーデルハインの凄まじい魔力によって、一時神との交信が叶ったということか」
「では、ベルは生きているのですね!?」
「そうだな、ベルは死んではいないのは間違いないだろう。
アピト様の言う通りなら、ルーデルハインの魔力で結界のようなものが張られ、中で死んでいない状態といったところか。
しかも、中では時間の経過はあると。
これは生かされているという事になるのか?」
「わかりません。ですが、おそらくそうでしょう。
ただ、何者かがベルを贄に何かをしようとしている。
その野望を止めることがベルを救うことになるという事であったと思います」
「では、その野望をすぐに止めるのだ。騎士団をあげて捜索をするのじゃ。
絶対にベルを救え!分かったな!」
「はっ。もちろんでございます」
王からの指示が出た。
あとは全力を尽くすだけだ。
本日の祝典は残念ながら中止とさせてもらった。
主役の一人に不幸があったのだ、仕方ないと納得してくれるだろう。
問題はこれからどうするかだ?
ベルの件を皆に話すべきか?
悩んでいる俺を見かねてかクリストフ叔父上が話しかけてくれた。
「ジークフリード。
今回の件、公表はしない方がいいと思う」
「叔父上、それはどうしてでしょうか?
ベルが生きているのなら安心させるために話したほうがいいのでは?」
「いや、下手に話すと今回の事件の犯人にまた何かされるかもしれないからね。
ここは公表しない方がいいと思うよ」
それもそうか、敵はベルを贄として狙ってきた。
贄というからには命など何かを代償にしようとしているということだと思う。
しかし、ベルは生きている。いや、死んでいないと言った方がいいのか。
この状態が敵にとって好ましいのかどうかはわからない。
不安定な状態なのは俺にもわかる。
少しはごまかせたり時間稼ぎくらいはできるはずだ。
その間に敵を倒す。
もしくはベルが安全だと思える状態にしなくてはいけない。
「しかし、やはり彼はすごいね。とんでもないよ。
完全に生き返らせたわけじゃないけど、神に力を使わせるなんてね」
「そうですね。ベルは彼のおかげで今は死の淵から戻ってきた。
そして、ベルを救うために敵を倒せと。
かなり曖昧な神託でしたが、従わないといけませんな」
「すぐにでも捜索を始めたいんだけど、その敵とやらの情報は無いのかい?
幸い彼のおかげで国内はかなり安定してきている。
怪しい奴ならすぐにわかりそうなもんだけど」
「残念ながら現状では何も。
ベルに危害を加えられるのですから、近いところに少なくとも協力者がいるという事くらいですか」
「やはり、予定通り彼は国外に出した方がいいかもしれないね。
僕の予想では敵は他国勢力じゃないかと思うんだ。
僕らにとって優先すべきなのはベルの身の安全だ。彼には悪いけどね。
彼はベルと同じ前世の記憶持ちだからね。
次は彼が狙われる可能性がある。
ベルは神による加護で手は出せないからね。
せいぜい国外で暴れてもらって敵をあぶりだしてもらったらいいんじゃない?」
「それは・・・
しかし、この状態で彼が納得するでしょうか?」
「ジーク。君はこの国の王になるんだ。
一人の英雄の平穏と国民の安全と娘の平穏、天秤にかけるまでもないと思うんだが。
僕は正常だよ。
冷たいと思われるかもしれないけど、彼の危険度は増したと思っている。
君も感じただろう、あの魔力を。
感情の起伏で神を呼び出すほどの力があるんだ。
いつ何時、こちらにそれが向かってくるかわからない。
僕の言っていることは間違っているかい?」
「いえ、叔父上の言ってることは間違っておりません。
彼には国外で暴れてもらい、敵をあぶりだす動きをしてもらいましょう」
彼にも国内での捜索にあたってもらうつもりであったが、難しいか。
捜索途中であの魔力を町中で使わせるわけにはいかない。
彼の力は大きすぎるのだ。
翌日、ルーデルハインを部屋に呼んだ。
「お呼びと聞き参りました」
寝てないのか、かなり疲れた顔をしているな。そういう俺もそうか。
この状況でぐっすり寝れるほど無神経な奴ではなかったな。
今も頭の中でベルをどうやって救うか、そればかり考えているのだろう。
「よく来てくれた。
昨日はよくやってくれた。
お前がベルの恩人、いや、この王家の恩人であることは皆がわかっている。
俺の言葉では不満かもしれないが、感謝の言葉を言わせてくれ。
ありがとう。ベルを救ってくれて」
なぜ、そんな苦しそうな顔をする?
いや、俺の顔も同じか。
「殿下、ベルを救う為に何かできることはありませんでしょうか?
俺には敵を探す力がありません。
敵を撃ち滅ぼせというならやりますが、相手がわからないと何もできないのです」
「わかっている。
いや、現状では何もわかっていないのだ。
今、必死で騎士団に捜索をさせているところだ」
これまで、国内では謀反などそういった情報はこれといってなかった。
せいぜい貴族の中に不満を持つものがいるといったくらいのことだ。
「では、私は何をすればいいんでしょうか?
魔物をさらに倒せば何か出てきますでしょうか?」
かなり焦っているな。
このままでは暴走するかもしれん。
やはり目を外に向けさせるしかないのか。
「ルーデルハイン。
お前には予定通り各国を回って魔物退治の任についてもらいたいと思っている。
今回の件、どう考えても国内の不満分子だけのものとは思えないのだ。
この国ではお前のおかげで魔物の被害が極端に減った。
今回の件はその影響もあるのではないかと思う。
ならば、各国でも魔物を減らせば敵は尻尾を出すのではないかと思っている」
「わかりました。私は国を出て魔物を狩ればいいのですね」
危ういな。思考が単純になっている。
「ルーデルハイン。焦る気持ちは分かるが、無茶はするなよ。
お前がいないとベルがどうなるかわからない。
それに目覚めたときにお前がいないとベルが悲しむではないか」
「わかっています。無茶なことはしません。
ちょっと他国に行って魔物を狩るだけですから。
ですが、お願いがあります」
「なんだ?」
「ベルの様子を定期的に教えて頂けませんか?
それと国内での捜査の進捗も」
「わかった。定期的に信頼のおけるものを派遣しよう。
人員の希望はあるか?」
「お爺様、もしくはジェキル先生をお願いできませんか。
事情を知り、信頼できる人の中で動いて頂けそうな方はその二人しか私は知りません」
「ジルベルトは立場上難しいだろうから、ジェキルにその任を頼もう。
他にはないか?」
「各国で動く際、私の動きを拘束するようなことがないよう取り図ってください」
「元からそのつもりだ。
お前は大使扱いで出向くことになっている。
行動の制限は他国の機密に関わること以外は大丈夫だろう。
あと、こちらからの願いというか希望があるのだが」
「なんでしょうか?」
「おそらく、各国はお前を取り込もうと様々な地位や、美しい女性を使ってお前を篭絡してくるだろう。
ベルのことがあるので簡単に転ぶようなことはないだろうが、どんな手を使ってくるかわからん。
それには十分注意してほしい」
「わかりました。しかし私はベルの婚約者となっているのでは?
他国の王族と婚約しているものにそこまでするとは思えませんが」
「今回、ベルが襲われた件はあの場にいたものには周知のことになっている。
だが、お前の力で助かったことはまだ誰も知らない。
ましてや神が降臨したなどと広めるわけにはいかない。
たとえ広まったとしたらお前に言い寄ってくる余計な有象無象が増えるだけだ」
「そういうことですか。
まだ私たちは婚約したことになっていないということですね。
仮に婚約していたとしても、相手の生死が不明のままなので無かったことになっているかもという事になるのですか」
「そうだ。
王家としてはベルが助かったことを広めたい。
だが、敵がどこにいるかわからない状態でその情報を公に出すのは控えたいのだ。
わかってくれ」
「わかりました。ベルが再び襲われる危険を避けるためですから、仕方ありませんね。
で、私はいつから遠征に出ればよいのでしょうか?」
「予定通りで行けば3日後からなのだが、さすがにこの状況ではそうもいくまい。
再来月の予定で考えている。
それまでに準備を整えておいてくれ」
「承知しました。
このあと、ベルに会ってきてもいいですか?」
「わかった。すまないが私も同席させてもらっていいだろうか?」
「かまいませんよ、どうせ触れもしないんですから。
一緒に眺めるだけでになりますけど」
「ありがたい。では準備があるので半時後にまた来てくれないか」
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