契機
それから2年、俺は国内中を飛び回り魔物退治に明け暮れた。
西の荒野に魔物の群れがいると聞いたら飛んで行って炎の魔法で焼き尽くし。
南の山脈に怪鳥が出たと知らせがあったら嵐の魔法で叩き落とす。
一度、平野を埋め尽くすような魔物の群れもあったな。
あの時はみんな悲壮感漂わせてた。
国が亡びるかどうかって感じだった。
それくらいの規模だった。
たしか、めずらしくコジロウ様もお爺様も呼ばれていたな。
それくらい大変な数だったと思う。
王太子殿下も投げやりになっていたんじゃないかな。
でも、あの数の魔物を見ればそうなっても仕方ないか。
みんなどうやって押し返すか頭を悩ませていたんで、ちょっと頑張りました。
後で怒られるかもしれないけど、大きな魔法を使ったもんな。
イメージは戦術核。
本物じゃないよ威力だけね。
狙った中央で大爆発。
威力を限定的にするのが難しかった。
さすがに1年も魔法を使い続けてたら調整もできるようになっていたからね。
全部じゃないけどぶったおして『終わりましたー』って言ったら、みんな驚いてたな。
うん、頑張った。
でも、さすがに撃ち漏らした魔物は退治してもらったよ。
あれ時だな変な渾名を付けられるようになったのは。
『魔王』だって。
いやいや、意味わかんないでしょ。
俺、魔物いっぱい倒してるのよ。
なのに魔王だなんて。
そこは勇者じゃないの?と、突っ込みたいね。
それくらいからかな、国内の魔物の出現数が徐々に減ってきたのは。
魔物はずっと無限に湧いてくるもんだと思ってた。
あの規模の魔物が出現して倒されたことで、エネルギー的な何かが切れてきたのかな?
何はともあれ、俺は2年間の国内討伐紀行を無事終えたのでした。
そして、俺の15歳の誕生日。
俺は白を基調にした服に身を包み、控室で式典が始まるのを待っていた。
「お婆様。この服派手じゃないですか?」
「何を言っているんですか。
あなたは今日の主役なんですよ。それでも控えめな方です」
「いや、たぶん主役はベルですよ。俺は添え物みたいなものですから」
「先にあなたの受勲があるでしょうに。
それに、ベレンジェール姫はもっと華やかな格好をされております。
それくらいしておかないと相手に恥をかかせることになりますよ」
「はあ、そうですか」
そうなのです。
これから、魔物討伐に対する受勲とベルとの婚約の式典が始まるのです。
結局、フルスエンデ家は領地なしの法衣伯爵として王都に住むことになった。
お母様の墓があった家は結局みんな遠慮して買い手がついていなかったので、そのまま掃除してまた住むことになったようだ。
俺はいまだに教会にいるけどね。
ということで、今はそこそこ穏やかに暮らせている。
まあ、ずっと魔物退治の遠征ばっかりしてるけど。
そのうちベルと結婚して侯爵とかそんなんになるらしい。
その前に俺は海外に10年くらい遠征に行って回るらしいんだけど。
そろそろ時間だ。
会場への案内の人が部屋まで呼びに来てくれた。
もう招待客はみんな式場に入っていて、あとは主役を待つばかりということらしい。
係員に案内されて扉の前までくる。
扉の前には一緒に叙勲されるサイアレス団長と数人の騎士たちが待っていた。
「やあ、ルーデルハイン君。
君と一緒に叙勲されるなんてなんか変な感じだね。
僕はただ事務所でふんぞり返っていただけなんだけどね」
「何言ってるんですか。
俺が向かえない場所に騎士を派遣したり、いろいろしていたのはみんな知っていますよ。
あんまり卑屈になっていると、一緒に叙勲される人たちに悪いですよ」
「はは、ありがとう。
でも、君がいたから他の場所にも騎士を派遣できたのは間違いないからね。
君が一番の功労者というのは誰もが知っていることだ。
君はまさしく英雄だよ。誇りたまえ」
俺は照れた笑みを浮かべ、その言葉に軽く一礼した。
一緒にいる騎士たちも同様に頷き、俺にお礼の言葉をかけてくれる。
ああ、頑張ってきてよかった。
扉の向こうからざわめきが聞こえてくる。
さあ、あとはこの扉が開かれるのを待つだけだ。
・
・
・
・
おかしい。
こんなに待たされるものなのか?
いつまで経っても扉は開かれない。
何かあったのかな?
そのうちざわめきが大きくなってくる。
なにか慌てている様子だ。
声を荒げている人もいるみたいだ。
俺はここにいるみんなと顔を見合わせる。
「ルーデルハイン!ルーデルハインはどこだ?!」
扉の向こうから王太子殿下の俺を呼ぶ声が聞こえる。
「殿下、私は扉の前にいます!何があったんでしょうか?!」
「そこにいたか。扉を開けろ!」
勢いよく扉が開き、式典会場中の視線が俺に集まる。
なんだ?いったい何があったんだ?
おそるおそる俺が部屋に一歩入ると、殿下が俺に言った。
「ルーデルハイン。貴様は今までどうしていた?
この部屋にずっといたのか?」
「はい、この部屋で扉が開かれるのを待っておりました。
何があったのですか?
式典はどうなったのですか?
まさか王に何かが?」
「いや、王はご無事だ。
だが・・・・。
いや、ここでは話せん。
貴様らルーデルハインは間違いなくここにいたのだな?」
殿下がサイアレス団長や他の騎士たちに確認する。
「はっ。彼はここで私たちと共に一緒におりました。間違いございません」
「そうか、わかった。
ルーデルハイン、これより私の部屋に来い。
今から一緒に行く。今すぐにだ」
「わ、わかりました」
殿下はそのまま早足で進んで行ってしまう。
殿下のただならぬ剣幕に少し驚いたが、遅れないようにその後を追う。
続いて歩く先は殿下の部屋。会場の中を突っ切て奥の扉から出ることになる。
その間、参列者からは悲鳴とも呪いともとれるような言葉を言われたような気がした。
部屋に着くまで殿下は終始無言だった。
お付きの人も何も話さない。
足音だけが響く廊下を歩きながら、俺はこの城が前線の砦を回収した者だという話をクリストフ殿下としたことを思いだしていた。
部屋の前に着く。
殿下は深く息を吐き出し、意を決したように自ら扉を開けられた。
そこにはミルデラン王、王太子妃殿下。そしてクリストフ王弟殿下がいた。
悲壮感漂う表情でベッドの周りに立っている。
ベッドにはベルが寝かされていた。
かわいい寝顔だ。
この2年間、すっと遠征から帰るたびにここに来て遠征の話をしていた。
この2年で大きくなったな。
すっかり綺麗になって子供っぽさも消えていっているところだ。
そういや、昨日も会ったっけ。
明日が楽しみだと話していた。
『今度は私もついて行くわ』といつもの口調で言って。
いつものように殿下と妃殿下にたしなめられていた。
そんなベルが寝かされていた。
嫌な予感がする。
こんな嫌な感じは前世でも感じたことない。
寝てるだけだろ?なんでみんな揃っているんだ?
「ベル、どうしたの?具合悪いの?
寝てたら失礼だよ。起きなよ」
俺は怖くて、部屋に入った処から足が進めない。
誰もが何かを話すのをためらう様に顔を伏せる。
意を決したような顔で、王太子殿下が口を開いた。
「ルーデルハイン。
ベレンジェールは先ほど亡くなった。
原因は不明だ。
朝から特に体調は悪くはなかったのだが、突然意識が無くなりそのまま眠るように・・」
「何を言っているんですか殿下。
彼女は寝てるだけですよ。いつもの悪い冗談です。
ほら、ベル起きてよ。
みんな困ってるよ」
俺は少しずつ寝ている彼女の近くに歩く。
ふわふわするな。
空を飛んでいるみたいだ。
自分の足じゃないみたいだ。
「ほら、起きてよベル。
今日、俺たちの婚約の日だよ。
いつまでも寝てたらだめじゃないか」
俺は寝ているベルの髪を直すように優しく触った。
冷たかった
「ルーデルハイン、落ち着け!
魔力が高まっている。気の弱いものは倒れてしまうぞ!
おい、妃と王を避難させろ!
ルーデルハイン!しっかりしろ!」
殿下が何か言ってるみたいだけど、なんかよくわからない。
俺は頭がぐるぐるして、目の前のことが現実かどうか分からくなってきている。
動転している俺と、冷静な俺が同時にいるみたいだ。
動転している俺が何とかしようと、力をめいっぱい絞り出そうとしている。
冷静な俺がその力をどう使うのか、必死で見たこともない知識の中から検索している感じだ。
とてつもない力が集まってきているのがわかる。
この力をどうするの?
神様いるんでしょ?
教えてよ。
どうしたらベルは生き返るの?
どうしたら時間は戻るの?
なんでこんなことになったの?
俺は神に向かって日本語で叫んだ!
『教えろよ!神様ってやつ!
誰がこんなことをした。
お前らがやったのか?!
運命ってやつだとでもいうのか?!
だったらお前ら全部絞り尽くしてやる!』
その時だった、力が俺の意志とは無関係にベルの方に向かい。
彼女を包むようにした。
そのまま膨大な魔力は宝石のように固まった。
いや、固まったわけではない。
宝石の外側は固まったが、中にベルが浮いて動いている。
頭に声が響く。
『際限なき者よ。
あなたが集めた魔力で彼女を守ります。
魂もまだ離れておりません。
贄にされかけたものを救いなさい。
その者の時間は進みますが、死にはしません。
ですが人の寿命は短い』
「なに、訳の分からないことを言ってる。早くベルを生き返らせろ!」
『魔の者への贄を止めなさい。それが唯一の道です』
「だから!わけ・・」
「ルーデルハイン。やめてくれ。
神にそれ以上逆らわないでくれ!」
俺の腕を必死で引き留める王太子殿下がそこにいた。
どうやら、神?の声はこの周囲にいるものには聞こえたようで。
俺が神に逆らっているように感じたようだ。
みな、怯えたような顔をして俺を見ている。
そんな顔しないで下さいよ。
みんなの顔を見て冷静になってしまった。
既に声は聞こえなくなっている。
俺が落ち着いたと思ったのか、殿下が話しかけてくる。
「ルーデルハイン。
この場は一度下がってくれないか。
だが、決して変な気は起こすな。
ベルはお前の力で守られているのだろう?
ちょっと落ち着かせてくれ」
「すいません。またやらかしてしまったようですね」
「いや、結果としてお前がベルを守ったのだろう?
親としては感謝こそすれ、恨み言を言うはずがない。ありがとう」
その言葉に軽く会釈だけできた俺は、城に用意された部屋に戻ることにした。
これからのことを考えなければな。
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