婚約
「お前がどんな魔法でも使えるという事はわかった。
むしろ魔法という枠組みに入れる事の方がおかしいかもしれないがな。
それで、ルーデルハイン。次の遠征の予定はいつだ?」
「すいません、私は騎士団の人間ではないので遠征計画は知らないんです」
「なんだ、お前はまだ教会にいるのか?
てっきり騎士団に入ったのかと思っていたぞ。
さっさと教会など出て騎士になってしまえばよいだろうに」
「そうなるのだと思ってましたけど、教会から通ってもいいみたいですから。
私は教皇様の孫という事になっておりますし。
その縁でこうやって自由になれたのですから、それを私から切ることはできません。
それにジェキル先生もいますし。
お世話になっている人もたくさんいるので私はこのままでいいです」
「そうか。お前がそれでいいなら、そうするといい。
教会にいるのが苦痛かと思っていたが、そうでもないんだな」
「はい、教会の皆さんには大変お世話になっています。
特に教皇様とジェキル先生には。
私が教会に入ったころから私が気落ちしないように仕事で立場を与えてくれたり、理解もして下さっていました」
「そうか。ところで、お前の中に前世の記憶があることを知っているのはどれくらいいるんだ?」
「教皇様、マリナ大司教、アケロン大司教、ジェキル先生の4名だと思います」
「そうか。では、それ以上は言わないようにしておけ。
それは本来なら問題になることだぞ。教会の人間はそこらが緩くて困る。
国家間の紛争の種にすらなりかねん。
その4名には私から言っておく」
ごめんなさい皆さん。さらっとチクっちゃったことになっちゃいました。
そうか、やっぱ言わない方がいいもんなんだな。
俺と殿下の話を聞いていたベルが我慢できないとばかりに口を挟んできた。
「ねえ、お父様。ところで私たちの婚約の件はいつ発表するの?」
ん?今、婚約って聞こえたような。聞き間違いかな?
「あの?婚約って聞こえたんですけど」
「そうよ、婚約よ。
この間言ったじゃない。今度は逃がさないって!」
あれ?そんなこと言ってたかな?
別に嫌ではないが、なんかこう話が見えてこないというかモヤモヤするもんがあるぞ。
「なによ?嫌なの?
まさか、もう他に女がいるっていうんじゃないでしょうね!」
「いやいや、そんな事は微塵もありませんが。
逆にいいのかなとか、せっかく生まれ変わったんだからどこぞの王子様と結婚してみたいとか。
ほら、それにこの前は殿下も認めんって仰ってたじゃない」
「あんたが魔法を使うたびにどんどん事情が変わって行ってるんじゃない!
もうあんたを野放しにはできないの。
他国の人と結婚されるなんて核兵器相手に渡すようなもんでしょ。
殺すか取り込むしかもう道は無いのよ!」
「いや、他国の人と結婚ってありえないと思うし。
それに、たとえそんなことになってもそんな危険な魔法なんて使わないよ」
「あんたがそう思ってても、誰もそう思わないわ。
やけくそになったら、あんたも何するかわかんないじゃない。
というか、そんな気無くても暴発させて城壊したり、水であふれさせたり、魔物瞬殺したりと、しかもその全部が全力でやったことじゃないって、どんだけ化け物なのよあんた。
それが今のあんたの評価よ。
恐ろしい魔法使い。まさにアンタッチャブルね!」
「そうだ、お前は今そう思われていると自覚したほうがいい。
まだ、お前は13歳だ。
お前のことを知っている者たちだけとしか交流がない。
世の中にはそう思っている人間も、少なからずいると思っておけ」
あの遠征の時の騎士の怯えみたいなものか。
他人から見たら爆弾が近くにいるようなものなのかな。
「で、このかわいい私が人身御供としてあんたの嫁になってやろうって言ってるのよ。
感謝してほしいわね。
貴族の中にはあんたを取り込もうって人もいるのよ。
実際娘を差し向けようとしていた人もいるんだからね。
今モテモテよあんた。気をつけなさいよ!」
「はあ、モテモテってそういう意味だったのか。
サイアレス団長が言ってたけど、何言ってるんだろうと思ってたよ」
「とにかくだ。
貴族家、ましてや他国になど渡すわけにはいかん。
それでしかたなく。
しかたなく認めることにした。
どうせ、前世でお前らは夫婦だったんだろ。もう諦めることにした。
王も前世で夫婦だったと聞いて呆れておられたわ。
なんだったんだ、この数年はと。
『さっさと取り込んでしまえ。
お互い好いておるなら何の問題もあるまい』とな」
「はあ、ご迷惑をおかけしております」
「だが、発表はするが正式にはお前が15歳になってからだ。
それまではみだりに近づいてはいかん。指一本触れるなよ」
そんな怖い顔をされなくても大丈夫ですよ。
まだ自分の体が子供だっていうのは理解してますし、ましてやベルの方が子供だ。
精神年齢はもう60近いんだから、大丈夫ですって。
「えー、そうなの残念ね。
せっかく公認なんだから、若いあんたをいたぶるのも楽しみだったのにな」
何を言ってるんですかベルさん。
殿下がなぜか俺を睨みつけてるじゃないですか。
殿下も俺が言ったんじゃないですから勘弁して下さい。
そんなことがあって俺は婚約することになってしまった。
ま、いいけどね。これも縁ってやつかな。
縁って言葉は俺はあんまり好きじゃないんだけど、今回は使わせてもらうか。
俺の婚約の件は俺だけが知らなかったようで、教会に帰って先生に言うと。
『そうだったな、そんな話もあったと聞いている』と返事があった。
なんで教えてくれないんだよ。
当然俺は知っているもんだと思っていたらしく、こっちが言わないから何か事情があるのだろうと思っていたらしい。
教皇様はそれからちょっと大変な目に遭ったらしい。
城への呼び出しから始まり。
俺が王族になるから養祖父の教皇様は教皇を退位しなくてはいけない、とかなんとか貴族たちに言われたらしい。
でも後継者もいないしまだまだ元気なので影響残る。
じゃあ還俗して王族になるのかっていうのも、どう扱うんだってことになった。
で、俺は結局元のフルスエンデ家に戻されることになった。
なんだこの戸籍ロンダリングみたいなのは。
まあ貴族では普通にあるらしいからそれはいいみたい。
そこで、めちゃくちゃ忙しくなったのがお爺様。
ジルベルト・フルスエンデです。
フルスエンデ家の歴史は元々古くて、王家の姫が降嫁したこともあるからそれはいいんだけど、今は領地も返して男爵扱いになってる。
そんな家に王女をやるのかってことになったみたいで、またひっちゃかめっちゃになってるみたい。
でももう領地は返しちゃって別の人が治めてるしどうするんだろう。
法衣貴族にして家格だけでも上げるんだろうか?
もう昔のようには戻れないけど、こんなことでも家に少しでも恩返しができるんだったらよかったかもしれない。
まだまだ問題が山積みだが、まだ俺が15歳になるまでは少し時間がある。
偉い人がその間になんとかしてくれるだろう。
それより俺は神様たちの魔法だ。
遠征ごとに各神の魔法を使う。
そのことは各国の大使に事前に通達されたようだあ。
俺への優先権を主張できないように。
それにあわせて遠征計画を立てる。
あとは現地で魔法を使って派手にやるだけだ。
それから俺は毎週のように遠征に駆り出された。
ついてくる騎士は毎回違う人なので、俺だけブラックな環境だね。
指南役のお爺様がついてきたがってるみたいだけど、俺の婚約騒ぎでそれどころじゃないみたいだ。
サイアレス団長がラースルフさんと柄にもなく作戦なんかを立てている。
「忙しくさせてしまって申し訳ありません」
「ああ、いいよいいよ。実際考えるのはラースルフだからね。
しかし、いろんな魔法が使えるんだね。
姫との婚約も決まったみたいだし、よかったじゃない。
相思相愛なんだろ。青春だねえ。頑張りなよ」
そうなのだ。
なぜか、俺とベルが相思相愛になってそのために俺が頑張って魔物を退治して家を復興するというストーリーになっているらしい。
ということで、俺は今王都で話題の人になっている。
愛のために罪を償い。勲功を立てる。
泣かせる話だという事で、上手くいったら劇になるかもしれないそうだ。
うーん。上手いこと考えたな。
純愛ストーリーにして、民からの評判もいいみたいだし。
騎士たちや下級貴族のやる気を出すこともできる。
王家は若いものにチャンスを与え寛容に見えるし、良いことずくめだな。
この話のおかげで貴族が俺に娘を差し向けようとしづらくなるのもあるな。
ほんとよく考えられてる。
でも、これってクリストフ王弟殿下の考えらしいんだよね。
あの、よろしくって言うのはこういう意味だったのかな?
ま、今のところは乗せられておきましょう。
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