報告
「では、先発隊はそろそろ出発してください」
この討伐隊の隊長のラースルフさんが先発隊に指示を送っていた。
ラースルフさんは後発隊で出発する。
「ルーデルハイン君がまず魔法で敵に一撃を与えます。
タイミングは彼に任せてありますが、もし近づきすぎて危ないようでしたら援護してください。
その後、騎士たちは撃ち漏らした敵に突撃をかけてください。
その段階になったら、ルーデルハイン君はもう魔法は使わないで、下がって我々後発隊が来るのを待っておいてください。」
「はい、では行ってまいります」
先発隊は俺を先頭に出発した。
敵は丘陵の向こう斜面だ、回り込んで一気に仕留めたい。
回り込んで正面から突撃するまでは、できれば気付かれ無いように動きたい。
側面の時に見つかっても何とかはなると思うが、できればまとめてやりたいな。
丘陵を大きく迂回できるように距離を取って動き出す。
最初は大きく。近づいてくると少し速度を落として動く。
やがて、丘陵の横を過ぎ距離を置いて正面に入る。
敵が気付くまで、このままじりじりと行けるところまで行こう。
幸運なことに敵はこちらに気付いていない。
俺は歩きながら詠唱のふりをして力を引き出す。
堅く、大きく、鋭く、速く。
イメージを固めていく。
土に力を込めて長い槍の様なものを土を固めて作っていく。
地面から生え、次々と中空に浮かぶ槍を見て後ろに着いてきている騎士たちが息をのむ。
騒ぎたいだろうが、ここは黙っていてほしい。
やがて槍は完成した。
その数、実に50本。
もう敵は100mの所まで迫っている。
その時、オーガの群れの一匹がこちらに気付いた。
こちらを指さし、仲間に知らせている。
まだだ、まだ放つには早い。
オーガは数匹でこちらに向かってくるようだ。
チッ全部じゃないのか。面倒だな。
まだ引き付けられるか?
オーガ達はこちらを何とも思っていないのか、ゆっくりとした足取りでこっちにドスドスと歩いてくる。
俺は浮かぶ槍の一つを敵に向かって放った。
低い唸り声を置いていき、槍はオーガの一匹に向かう。
速度はおそらく音速を超えているのだろう。
槍はオーガの胸のあたりに当たったかと思うと。
オーガごと弾け飛んでしまった。
その場にオーガの首がゴロンと落ちる。
それを見たオーガ達は一瞬ひるんだように見えたが、
今度は後ろの仲間にも声をかけ全員で向かってくるようだった。
チャンスだ!
先に出たオーガとあとから来たオーガが今度は一緒に勢いよく走ってくる。
その距離が60mくらいになった時、俺は全ての槍を敵に向かって放った。
『スガガガガーン』
凄まじい音とともに地響きが走る。
大量の土煙が舞い、視界が悪くなる。
俺は爆風がこちらにこないように風の魔法で流れを変えバリアを張る。
目の前の視界は保てるが向こうの方は見えないままだ。
どうだ、やれたか?
オーガからの襲撃はいつまでたっても来ない。
やがて風が目の前の景色を少しずつクリアにしていった。
そこには大きくへこんだ地面と、一部が欠けた丘陵が残っていただけだった。
ふう、なんとかやれたか。
俺はほっとしてその場にしゃがみこんでしまった。
「お、お疲れ様です。見事な魔法でございました」
ついてきた騎士の一人が、おそるおそる俺に話しかける。
「ありがとうございます。なんとか退治することができました。
すみません。魔石とか必要だったんですよね?
たぶん探せばあるかもしれませんけど、バラバラにしちゃいました」
「い、いえ。めっそうもない。
そんなことはどうでもいいくらいに凄い魔法でした。
ええ、伝説を見ているようでした」
その時ラースルフさんが後発隊と一緒に慌てて駆け込んできた。
「ルーデルハイン君。大丈夫かい?
すごい音がして慌ててきたんだけど、敵は?オーガ達は?」
「ええ、なんとか全部倒すことができたみたいです。
ただ、すみません。魔石とかも一緒にやっちゃったみたいで」
「それは・・」
ラースルフさんはオーガのいたあたりを見ながら考えている。
やっぱりまずかったかな。
いくら初陣だったとはいえ、全部の手柄を持って行くような感じだもんな。
地形もちょっと変えちゃったし、これは怒られるかもしれないな。
「すみません。ちょっとやり過ぎてしまいました」
「そうですね。いえ、そうでした。
あなたはルーデルハインでしたね。
今回は私が魔法の指示をするべきでした。
近頃の訓練を見ていて、認識が甘くなっていました」
「お仕事を増やしたと思います。皆さんの手柄も取ってしまったし」
「そんなことはありません。
戦闘になっていたら怪我をするものが出ていたかもしれないので、早急に倒せるならそれが一番ですから。
しかし、これはすごいですね。
あとで、詳しく聞かせてくれますでしょうか」
「はい、わかりました」
それからは、後発隊の人たちと一緒に後片付けだ。
爆散したオーガ達の死体を集めて、魔石が残ってそうな物から取り出し、他は焼却した。
俺が火の魔法を使う時、後からラースルフさんの「少しですよ、ほんの少しの火でいいんです」と言っているのが聞こえる。
騎士たちは俺に手柄を取られたから怒るかと思ったけど、そんなこともなく黙々と手伝いをしてくれた。
インパクトのある攻撃だったからか、なんだか怖がらせちゃったみたいだな。
その後モーリスさんに事情を説明した。
オーガの群れは討伐完了し、焼却処分が完了していること。
地形が少し変わってしまったこと。
俺の魔法で地形が変わったことには驚いていたが、オーガがこんなに早くいなくなったことをとても喜んでくれた。
俺が魔法を使ったことで人の役にたったことって、もしかして初めてじゃないかな。
俺にも役に立てることがあるなんてと思うと、嬉しくなった。
そのまま俺たちは帰路に着く。
地方の領主のところだと歓待とかがある場合もあるが、ここは代官が納める公爵領だ。
あっさりとしたものだった。
いや、別にご馳走食べたいとかそう言うわけじゃないんだけどね。
帰りは疲れがあるだろうということでゆっくり帰り、王都に到着したのは5日目の昼頃だった。
団長執務室に報告に行った俺とラースルフさんを、サイアレス団長と指南役のお爺様が出迎えてくれた。
「おかえり、ルー君。ラースルフもご苦労さん」
「はい、ありがとうございます。
無事、任務を終えることが出来ました。
今回はルーデルハイン君のおかげで時間をかけずに討伐することができました」
「噂は聞いてるよ、噂の方が君達より到着が早いくらいだ。
めずらしいよね、騎士団の活動が噂になるなんてね。
なんでも山ごと吹っ飛ばしたんだって?
相変わらずひどいことするねルー君も」
「いやいや、そんな事してませんよ。
ちょっと丘陵を削っただけです。
領地の責任者だったモーリスさんにも問題ないと確認して頂いていますから」
「はは、王都の住民は娯楽に飢えているのかな。
かなり話は大きくなって噂が広がっているみたいだね。
君はもう噂の的だよ。モテモテかもね」
「勘弁して下さい。
どうせまた悪い噂でしょ。
俺がメチャクチャやって騎士の手柄を奪ったとか」
それまで聞いていたお爺様がそこでぱっと顔を向けて問うてきた。
「そうじゃ、ルーデルハインよそれが聞きたかったのじゃ。
随行したものはみな一瞬にして敵がいなくなったとばかり言うんじゃ。
まさかルーデルハイン。
禁止されてるあの魔法を使ったのではないだろうな?」
サイアレスさんも続く。
「それは僕も聞きたいところだね。
君は許されたとは言えあの破壊魔法を使うことに関しては禁止されてるはずだ。
今回は命の危険も特になかったと聞いているから、
そんな状況で使ったとなると、僕たちも庇い切れないからね」
「いや、さすがにレーザーは使ってないですよ。
単純に石の槍を高速で飛ばしただけです。ちょっと数が多過ぎたかもしれませんけど」
「へえ、あの魔法ってレーザーって言うんだ。初めて聞く単語だけど神様の奇跡かなんか?
教会で教えてもらったのかな?」
「はあ、まあそんな感じです」
「あと、石の槍は多いってどれくらい?」
「えーっと、これくらいの大きさの槍を50本ですね。
速度は雷よりは遅いですけど、特に訓練とかしていない普通の人なら目で追えないくらいの早さにしておきました」
俺は両手で大きくジェスチャーをして、槍の大きさを示す。
呆気にとられる3人。
「ちょっと、ルーデルハイン君。
あの時、君はそんなことをしていたのか?
しかし、後には石の槍なんて残っていなかったよ」
「邪魔になるだろうと思って、的にあたった後は土にしておきました。
片付けるのめんどくさいだろうなと思って」
「そ、そうかい。ありがとう・・」
更に呆気にとられるラースルフさん。
「うん、またやり過ぎたねルー君」
サイアレスさんが、からかうように言う。
えー、あれでやり過ぎなの?
だってオーガだよオーガ。
あんな殺しても死ななそうなの、他にどうやって倒せって言うんだよ。
その翌日、王城からの呼び出しがあった。
呼び出しの相手は王太子殿下。
俺はてっきりこの前騎士団に来たときの話の続きかと思っていたら、どうやら違うらしい。
今回の魔法について聞きたいという事だった。
別に話すことなんかないんだけどな。
呼び出しの使者は俺が教会にいた時に来た。
先生といつものように仕事をしていた時だ。
教皇様や先生には騎士団で初めて戦ったことは全て話してある。
団長室でちょっとみんなに引かれたので、少し話の規模を小さくして話したんだけど、すぐにばれた。
まぁ王都中の噂になっているのなら、そりゃばれるか。
でも、隠したこと自体は怒られたけど、魔法に関しては特に怒られるようなことは無かった。
むしろ、それは地の神ゲーアが使う御業だと教えてくれたくらいだ。
だから何の問題もないと思ったんだけどな。
使者が言うには、すぐに来いとここと。
服が無いと使者に言うと、そのままでいいから来いという事だ。
むう、なんだか怒られる予感しかしない。
先生はさっさと行って来いとばかりに俺を追い立てて使者が乗ってきた馬車に乗せた。
なんだか先生も俺の扱いがどんどん雑になるなぁ。
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