再会
「お父様、びしょ濡れね」
ここは王太子とベル姫が観覧していた場所。
訓練場にある司令所のような場所で全体を見渡せる。
少し離れた場所にあるのだが、そんなことお構いなしに2人共濡れてしまっていた。
「ああ、そうだな。びしょ濡れだ。
お前はこうなるとわかってたのかい?」
「ここまでとは思っていなかったいなかったわ。
すごいわね彼」
「さて、すごいのはわかったが、これからどうしたものか」
王太子は考え込むような仕草をし、再びベルの方を見る。
その目はとても10歳の子供を見るような目ではなかった。
「殿下、姫様ご無事でしょうか?
申し訳ございません。ルーデルハイン殿の魔法が暴発したようでございます」
ラースルフが慌てて2人の元に駆け寄る
「大丈夫だ、濡れただけだ。
しかし見事なものだな。
以前の事や教会での騒ぎは聞いていたので想像はしていたが、まさかここまでとは」
「はっ、申し訳ございません。彼の力を甘く見ておりました。
ああ、姫様までずぶ濡れではございませんか、すぐに浴場に案内いたします」
「頼む。先にベルを案内してやってくれ。しかしすごい熱狂ぶりだな」
「はっ、みな昨今の魔物被害の多さに疲れていたのでしょう。
まだ荒削りですが、ルーデルハイン殿ならこのジリジリ追い詰められているものを払拭できると気づいたのだと思います」
「そうか、それにしてもあやつはそんなに浮かれているようには見えんな。
むしろ落ち込んでいるようにも見える」
「自分の力に怯えているのよ、お父様。
また失敗しちゃったとでも考えてるんじゃないかしら」
「そうか。とにかくその件は後だ。
ラースルフ、案内を頼む」
その頃、俺は騎士の人達に囲まれていて、質問攻めの嵐だった。
「みんなそれくらいにしてやってくれよ。
彼はこれから王太子殿下に謝りに行くんだよ」
そうでした。二人とも水浸しにしちゃったんでした。
やばすぎるでしょこれ。
まだ寒くなる前でよかった。
ベルに風邪なんてひかせたら打首だったかもしれん。
「心配しなくてもいいと思うよ。
別に攻撃したわけじゃないし、水に濡れただけだろう。
ごめんなさいで済むとおむよ」
うう、胃が痛い。
興奮した自分が憎い。時間よ戻れ!
俺は体を拭きながら着替えをする。
さすがにずぶ濡れで謝りに行くわけにもいかないからね。
着替えが終わって少し冷えたので温かい飲み物を飲み終わった頃、ラースルフさんが迎えに来てくれた。
王太子様とベルはお風呂に入っていたみたい。
二人がいる部屋に案内してくれるそうだ。
あ、やっぱり俺一人なのね。
監督不行届とか適用されないのかな?
案内されて部屋まで着いた。
「ラースルフです。ルーデルハイン殿をお連れしました」
「入れ」
部屋に入ると衣装替えした殿下とベルがいた。
「申し訳ありませんでした」
よし、先に謝っておこう。とりあえずそれからだ。
俺は入ってすぐに頭を下げる。
何か言葉が来るかと思ったが一向に反応がない。
なんか変な感じだな、下を見てるんだけどベルが俺の方に来てる。
やばい、殴られるのかな?
女の子びしょぬれにしちゃったから、怒ってるだろうな。
土下座したほうがいいのかな?
「別に怒ってないわよ。濡れただけだから気にしてないわよ」
「ありがとうございます。風邪などは引かれませんでしたか?
「すぐにお風呂に入らせてもらったからね。大丈夫よ」
なんだか変な感じだな。探ってるというか。見られてるというか。
王太子殿下もこっちをじっと見てるし。
「ラースルフ、少し外してくれ。少し彼と話をしてみたい」
「はっ。では私はこれで。扉の前の護衛はいかがいたしましょうか?」
「少しだけ外して貰ってくれ。10分ほどでいい」
「わかりました。戻りましたらノックでお知らせいたします。
では、失礼いたします」
ラースルフさんが出て行ってしまって、王太子殿下とベルと俺だけになった。
なんだか空気が重いな。
「さて、これで余人を交えず話ができるな。
ベルどうするのだ?先に話すのか?それとも聞くのか?」
なんだろう?胸が締め付けられる。ここにいてはいけない気がする。
逃げ出したい気持ちがある。
「そうね。まずは聞きましょうか?お父様は話ができないけどいい?
「いいぞ、そやつが分かればの話だがな」
ベルがじっと俺の方を見る。
なんだ?何を言われる?
『あなた、日本人でしょ?
私の話している言葉が理解出るんじゃない?』
「!?」
俺は焦る。なぜベルが日本語を話す?
古代語として学んだ?いや、学んだにしては流暢だ。
こいつも転生者?なぜ俺に聞く?何か隙でも見せたか?
答えてしまってもいいのか?このまましらばっくれるか?
『ビンゴね!
あんた、ちょっとは隠すなりとぼけるなりの表情覚えた方がいいわよ。
そんなに怯えたら、丸わかりじゃない』
「殿下、彼女は何を・」
俺は王太子に視線を向ける。
『バレてるっつーの。もう諦めなさい』
「お父様、この人わかってるわ」
「ああ、そうみたいだな。
なるほど、これで合点がいったな。ベルの言った通りというわけか」
『さあ、お話ししましょ。日本語で話すの久しぶりなの。楽しみだわ』
仕方ない。ここでごねても無駄だろうな。
『話すと言っても何を?これまでの生い立ちでも聞くかい?
それとももっと昔の事?』
『どっちも魅力的な提案ね。
そうね。あなた名前は憶えてる?もちろん昔の名前よ』
『ああ、覚えているよ。
でも別に有名人でもないし、聞いても知らないのがわかるだけだ』
『いいのよ。知りたいだけ。最初は名乗りあうのが普通でしょ。それだけ』
『俺の名は〇〇△△だ。別に普通だろ。
よくあるとは言わないが、特にキラキラでもない』
『どこに住んでたの?生まれた年は?結婚はしてた?なんで死んだの?』
『いきなりだな。
住んでたのは〇〇県〇〇。19××生まれ。結婚はしてたよ。死んだのは腹の病気。
これでいい?』
「お父様、私この人と結婚するわ!」
『はっ?何を言ってるんだお前。いきなり変なこと言うな、殺す気か俺を』
「ベル、どういうことだ?何の話をした?
おい、貴様。ベルに何を言った!?説明しろ!」
「いやいやいや、名前とか生まれとかそんなのだけですよ。
私も何が何だか。勘弁して下さい!」
「この人、前の世界で私の旦那だったわ。
間違いない。名前も住所も生年月日も死んだ理由も一緒だもの!
は~、こんなことってあるのね。神様も粋なことするじゃない。
前もそこそこ幸せだったけど、最後の方つまんなかったのね。
その埋め合わせしてよね!いいわね!」
「お前、まじか?まさか▽▽か?」
「そうよ。驚いたわね。
よかったわ、今度はスリムでイケメンじゃない!なんか得した気分ね」
「まじかー。いや、ということはお前まで死んだの?
事故?病気?なんだったんだ?」
「いやねえ、病気は病気だけどあれから20年は生きたわよ。
私は元から体弱かったでしょ。70までは生きられなかったけど。
あんたよりましだからいいんんじゃない?」
「子供は?あいつらはどうした?」
「とっくに結婚して孫もいたわよ。
あんたが死んだ保険金とかで何とかね。
お金持ちとかそんなのではなかったけど、幸せそうだったわよ」
「そうか。そうか・・・・。」
涙があふれてきた。
幸せだったのか。よかった。
ずっと頭の片隅にあった何かが取れた気がした。
こいつの言ってることがほんとかどうかなんて、今はどうでもいい。
俺の聞きたかった言葉が聞けた。
それだけでよかった。
「おい、ちょっと待て。
ルーデルハイン。ベル。お前らは前世と言うもので夫婦だったというのか?」
「そうよ、お父様。
だからもう一回結婚するの。前はこの人が早くに病気で死んじゃったからね。
絶対次は死なないように健康管理すると決めてたの。
リベンジよお父様!」
「ダメだ。認められるわけがないだろ。
まだお前は10歳だぞ」
「じゃあ、婚約でいいじゃない。それならおかしくないわ」
「ダメだと言ったらだめだ。私は認めん。
ルーデルハイン。もういいぞ、今日はよくやった。
この部屋のことは忘れてさっさと魔物退治に行け!」
「もう、お父様!訳の分からないことを言わないでよ!」
殿下とベルがずっと言い合っている。
俺の意見は関係ないんだな。ま、それでもいいか。
なんだか賢者モードの気分だ。
ノックの音がした。
そろそろ護衛の人も戻ってきた頃だろう。
「とにかく、その話はまた今度だ。
事情は分かったが、まだこいつにお前は何も話していない。
そうだろう?」
「そうね、今度は城で話す方がいいわね。
じゃ、あなた。また呼び出すから覚悟しといてね」
「あ、あなただと。まだ認めたわけではないと言ってるだろう」
「はいはい、じゃあ、そろそろ帰るわよお父様」
「おい、引っ張るのではない。
ラースルフ、城に戻る。遣いを出してくれ!」
なんだか嵐のようだったな。
たしかにあいつはむかしからそうだった。
押しが強いというかなんというか。
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