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演習

 お昼になった。

今日は食堂で顔合わせの意味もあってみんなで一緒に取るらしい。

打ち合わせを終えたお爺様とラースルフさん、それと団長のサイアレスさんと一緒に食堂に向かう。


騎士団と言っても名門の家出身の者もいれば、元冒険者もいる。

雑多な人間がいるからこそ食事を一緒にとるのは重要なようで、定期的にこうやって食事会はしているようだ。

普段は隊や班ごとで行動するらしい。


さすがに団員全員というわけにはいかなかったようで、今回はこれから俺と行動を共にする可能性のある者たちを集めてくれているようだ。


食堂に入るとそれまでざわついていた部屋が一瞬静まり視線が集まる。

こんな視線にも慣れてしまったな。

ま、気にしない方が難しいか。

俺だって元重犯罪者が来れば緊張くらいする。たとえ子供であろうとね。


「はーい、みんな注目。

 この子がルーデルハイン君だよ。

 昔、遊びに来たこともあるから知っている人もいると思う。

 聞いていると思うが、これから君たちと一緒に魔物退治に行くから仲良くするように。

 楽になるぞー。よかったね」


なんちゅう紹介の仕方だ。

サイアレスさんはほんとに団長っぽくないな。


「えー、ご無沙汰しておりました。

 ルーデルハインです。初めましての人こんにちは。

 この度、反省の日々が終わりまして皆様とこれからお国のために戦うことになりました。

 よろしくお願いします」


パラパラと拍手が起こる。

中には俺のことを初めてみる人もいるから、怖がってる人もいるな。

『え、あのルーデルハイン?いいの』『まだ子供じゃない?』とかいうのも聞こえてくる。


「団長。彼は神職だと思いますが、我々の戦術に組み込むは難しいんじゃないですか?」


「その件は午後の訓練で話そうと思ってた。

 今は食事の時間なのでその質問には答えるべきではないと思う。

 だが、疑問を持ったままの食事と言うのも美味くないだろうから一言だけ言っとく。

 彼の魔法は高威力だ。

 囲い込み戦術からの殲滅魔法を想定している」


ラースルフさんから説明が入り、『おおー』という声が上がる。

囲い込んでからの殲滅って騎士だけじゃ難しいからね。

神職はそこまで高威力な魔法を出せる人もいないだろうし。


納得いったのかどうかはわからないけど食事が始まった。

こんな大勢で食べるのなんて、前の人生と合わせても初めてなんじゃないだろうか?

何人いるんだろ?100人以上はいそうだな。


「なあ、城の壁ぶっこわした時の魔法は使わねーのかよ?」

「君、その聞き方は失礼じゃないのかい?」

「いいだろが、堅いこと言うなよ」

「まったく。で、どうなんだろう?使えないのかい?」


と、こんな感じでやっぱり聞かれることはあの事件とその魔法のことがほとんどだった。

俺は『いやー、禁止されまして』としか答えられないから困ってしまった。


食事会も終わり午後の訓練の時間、皆で訓練場に移動する。

全員で移動するのだが、途中で隊列が止まってしまった。

先頭の方で何かあったのだろうか?

俺は最後尾について移動していたので

先頭のことはわからない。


そのうちまた進み出したが、前方から緊張する気配が伝わってくる。

これは王太子様が来たな。

やっぱり来たんだ、見つかりませんように。


「ルーデルハイン、ちょっときてくれ」


そんな訳いくわけないよな。

やっぱり来ましたか呼び出しが。


俺は慌てて先頭の方に走って行った。

急いで先頭に着くとそこには王太子様とベル姫がいたのだった。


「ルーデルハイン君、あとは頼んだよ」


サイアレス団長はそれだけ言うとさっさと他の団員達と行ってしまった。

まじで俺に任せるのかよあの人。

信じられんな。王太子だろこの人?

そんな扱いでいいの?

普通会社の役員とか来たら上司が相手するもんじゃないのか?

今日配属された平社員に任せるなんて考えられんぞ。


「遅かったわね。私達が来るの聞いてなかった?」

 

「申し訳ありません。お二人のお相手は団長がされるものと思っておりましたので」


「そうなの?ま、普通はそうなのよね。

 でもあの人が私達の相手をするタイプだと思う?」


「すいません。まだ今日来たばっかりでしたのでそこまでは気がつきませんでした」


「まあいいわ、今日はあなたに会いに来たの。

 この間の話の続きをしましょう」


「はあ、わかりました」


なんだかわかんないが、俺は姫のお相手をすることらしい。

さっきから王太子様は黙っているけどいいのかな?


「あの、質問させていただいてもいいでしょうか?」


「なんだ、君は既に王家の人間だ。

 直答を確かめなくてもよいぞ。」


「はい、ありがとうございます。

 あ、その前に。

 殿下、その節はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 私の助命にもお力添えを頂いていたようで、ありがとうございます」


「私は何もしていない。決められたのは王陛下である。

 私はただ幼き子供にする道理ではないと進言しただけだ」


「それでも私が生きていられるのは殿下のお言葉があったからです。

 ありがとうございました」


「そうか、そなたがそう思うのならそれでいい。

 感謝してほしいとは思わんが、これから余を助けてくれたうれしく思う」


「はい、心してお仕えいたします」



「ちょっと、今日は私があなたに用があってきたのよ。

 お父様とばかり話してないで、私と話しなさいよ」


ベル姫がむくれて言う。


「はあ、私に用とはなんでしょうか?

 私は子供の頃ろくに遊んでいなかったもので、お気に召すような話があるかどうか?」


「いいわよ、私も子供の遊びには興味ないから。

 今日は貴方の魔法を見せに貰いに来たの」


「姫様は魔法にご興味が?」


「ベル!ベルと呼びなさい!

 それと私に対しては敬語もいらないわ。

 あなたも王族みたいなもんだから変じゃないでしょ。いいでしょお父様?」


俺とベル姫は一緒に王太子様の顔を見る。

ほら、困ってるじゃないか。

あんまりお父様を困らせるなよお姫様。


「だ、、、、仕方ない。 よい、好きにするがいい」


駄目だと言おうとした王太子様に、ベルが目を吊り上げて牽制したところOKが出た。


「いいみたいよ。ほらベルって呼んでみなさい。

 様とか姫とか付けたら駄目だからね。OK?」


「ああ、わかったよベル。これでいいかい?」


「理解できたみたいね。これからはずっとそうしなさい」


ベル姫の目がちょっと怪しく光ったような気がした。

何かさせられるんだろうか?



「へいへい。

 で、魔法を見るって言ってもこれから訓練だからそれを見るといいよ。

 今日は集団包囲戦の訓練だって」


「ほう、包囲戦か。

 最初から難しい訓練をするのだな。

 大人数で囲うと言っても穴はできるものだ、よほど連携が上手くないと崩れてしまう。

 それに一番難しいのは囲んでからだ、殲滅されるまいと相手も必死になるからな。

 被害が必ず出てしまう」


「そうなのね。あなたはどんな役なの?」


「それは見てのお楽しみってことで。

 では、そろそろ始まるみたいなので行ってまいります」



訓練が始まる。

始まる前の全体ブリーフィングが始まっていた。

各班に動きの指示を伝える。

魔物役の人たちは、包囲されないように動く打ち合わせ。

追い込み役は囲い方の再確認。

戦術はど素人の俺が聞いてても良くできていると思う。


ブリーフィングも終わり各班が配置につく。


「では、始めるぞ。

 ゆけ!殿下に騎士の精強さを見て頂くのだ!」


「おー!!」


掛け声とともに騎士たちが班ごとに動き回る。

各班が個々に動いているように見えるが、連携が取れているのがわかる。

バラバラなように見えて1個の生き物のような動きだ。


魔物役の人たちもいい動きをしている。

囲われないように隙を見つけてはそこを攻める。

魔物役だからそこまで連携は重要視していないが、個別の力量もすごいと思う。



「ルーデルハイン。そろそろまとまってきたと思う。

 いつでもいいように魔法を唱えておけ」


ぶつかり合う迫力に吞まれていた俺はお爺様の声で我に返った。


「はい、わかりました」


「ルーデルハインよ。今日は炎の魔法はだめだぞ。

 怪我をさせ無いような魔法を使うことはできるか?」


「はい、今日は水を浴びせようと思います。

 魔物の範囲に合わせて水の魔法を使います!」


「わかった。発動の瞬間はお前に任せるぞ。

 くれぐれも手加減するんじゃぞ!」



じわじわと包囲が狭まってくる。

だいたい50メートル四方になったところで魔法を発動させた。


滝のような水が降り注ぐ。

俺はそこまで力を込めたつもりじゃなかったが、気持ちが高ぶっていたのか恐ろしい量の水が出てきてしまった。


慌てて水を止めるが遅かった。

あたりが洪水のようになってしまった。

王太子とベル姫は見晴らしのいい高いところで見ていたが、それでもずぶ濡れになってしまったようだ。

またやっちまったな。

俺もお爺様もびしょびしょだし、濡れてない人を探す方が難しいんじゃないか?



「ルー!なんてことするんじゃ。全員びしょぬれじゃないか。

 手加減しろと言ったではないか!」


「すいません、お爺様。

 ちょっと興奮してしまいました。申し訳ありません」


みんな呆然と俺の方を見てるな。

やっぱ怖がらせちゃったかな。



その時だった。

「ウォー!!」といった歓声が上がる。

俺はびっくりしてちょっと飛び上がってしまった。


『すごいじゃねえか坊主!』

『やっぱ噂は本当だったんだな!』

『これなら本番でも期待できそうだぜ!』

『本番は手加減してくれよな!丸焼けは勘弁だぜ!』


次々と喝采が上がる。

俺はその光景に呆然としていた。

なんでみんなこんなに興奮してるんだろ?

俺、失敗したんだよ。

水だったからよかったけど、火だったらと思うとぞっとする。

喝采が大きくなればなるほど俺は落ち込んでいく気がしていたのだった。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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