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よくある冒険譚

教皇様、お爺様と談笑をしているとノックの音が聞こえた。


「猊下、国王陛下がお越しになられました。

 ご入室頂いてよろしいでしょうか?」


とうとう来ました王様。

お爺様が姿勢を正して壁の方で控えるように動く。


教皇様は立ったままお出迎え。

俺は膝まづいて顔を伏せてお出迎えする。


「おお、お待ちしておりました。お通ししてくだされ」


扉を控えていたメイドさんが開いてくれる。

開いた扉から王とそれについて青年が入ってくる。


ミルデラン王は王にふさわしく威厳があった。

お披露目だからであろうか白と黒を基調とした服に金の装飾品を所々に付け、赤いゆったりとしたマントを纏っていた。


「お久しぶりですな叔父上、ご健康そうで何より。

 本日はお披露目に来て頂き感謝する」


王は響きのある重厚な声で話しかけた。


「陛下もご健勝で何よりでございます。

 本日はこのルーデルハインのお披露目を城で行わせて頂けること、感謝いたします」


「なに、そうかしこまらんでもよいではないですか。

 いろいろ思惑があるのも分っておいででしょうに。

 で、その者がルーデルハインですか。

 やんちゃものも大きくなったものですな」


「父上!やんちゃではすみませんぞ。

 この者は城の壁を壊したのですよ。

 他にもめちゃくちゃな魔法で国の威信を落としているではないですか!?」


うわぁ、この人王太子かなんかか?

めっちゃ嫌われてるな。

早く出て行ってくれないかな。


「そういうな。まだ13歳になったばかりの子ではないか。

 そういうものを使うのも王としての器量だと思わんか?

 こやつの歳を考えたら、儂よりお前の方が長く付き合うのだから器量を見せておけ」


「はっ、申し訳ありません」


「そこにいるのはジルベルトではないか。

 そうか、あの事件以来になるのか孫に会うのは?」


「は、左様でございます。

 久しぶりに孫の顔を見ることができました。

 これも陛下の御威光の賜物であります」


「そうか、それはよかった。

 別に会うのを禁じていたわけではないが、そちは遠慮したのであろうな。

 これからは騎士団との繋がりも必要であろう、これからは遠慮せずともよい。

 孫を可愛がってやれ」


「はっ。ありがたき幸せ」


よかった。これからはお爺様と会っても大丈夫みたいだな。

家に行くのはいいのかな?お婆様とも会いたいな。

お母様の墓参りも随分していないし。



「ルーデルハイン、直答を許す。

 かつてそなたは意思無きとはいえ王家に牙をむいた。それは分っているな。

 それによりそなたは家を失い、家族とも離れさせられた。

 教会でも仕事をしていると聞く。

 そのうえで聞くが。

 そなたは王家と教会に忠誠を誓えるか?」


「はい、幼き頃の過ちを悔いぬ日はございません。

 何度あの日に戻れたらと思う日々でございます。

 罪を犯した私の命を救って頂き、教え導いて頂き感謝しております。

 私は王家と教会に忠誠を誓いこれからの人生とその力を使って参りたいと思っております」


「そうか、聞いたかジークフリード。

 こやつは今、王家と教会に忠誠を誓った。

 これからは我らが臣下だ。

 もう罪人であったルーデルハインではない。

 そなたもそのつもりでこやつと接するのだ」


「はっ、承知いたしました」


「叔父上もよいですな?」


「相変わらずじゃの。

 じゃが他国へ行かすのはもう少し待ってくれんか?

 せめて15歳になってからにしてやってくれ。

 それくらいなら、子供だからと言い訳できるじゃろう。

 こやつは魔法はご存じの通りじゃが、実戦はまだ経験がない」


「わかっております。

 実戦なく、連携のできないものを出せるわけがないではないですか。


 ジルベルト!

 そこらのことはお前に任せる。

 孫の命が惜しければ必死で鍛えろ!」


「はっ。承知いたしました」


「コジロウには儂から言っておく。

 剣術に傾倒されると困るからの。あくまで魔法の力を見せるのだ」


「はっ!」


「では、また披露の場で会おう。 ご苦労であったな」


そう言って王様と王太子殿下は部屋から去って行った。

王太子殿下の視線がきつかったなぁ。

あの人とこれから付き合うことになるのか。

ま、そんな頻繁に会う事もないだろ。



それより、2年猶予をもらえたぞ。ありがとう教皇様!

この2年の間で実戦を学ぶのか。

騎士団に着いて行って魔物退治か。

お爺様の戦う姿も見られるかもしれないし、ちょっと楽しみだな。


でも剣術じゃなくて魔法の力を示すってなんでなんだろな。

コジロウ様にも久しぶりに会いたかったからそっちはちょっと残念だな。




お披露目の会場は人がごった返していた。

教皇の孫のお披露目という事で、かなりの数が集まったみたいだ。


教皇様や王族に近づきたい人達。

この集まりで名前を広めようと考えている人達。

そして珍獣を見ようと物珍しさで集まった人達。


かつてこの王都を震撼させた、珍獣ルーデルハインですよー。

これはほんとに見世物だなこりゃ。


まだ怖がられているのか、直接話しかけてくる人はいないな。

一緒にいる教皇様への挨拶や、後ろで警護役をしてくれているお爺様へ話す人ばっかりだ。

そりゃそうか。俺は何の権力もないただの兵器だもんな。

銃持ってる人の銃に話しかける人はいないか。

俺でも持っている人に話しかけるわ。



「ねえあなた。あなたがルーデルハイン?

 昔、お城の壁を壊したってほんと?」


ぼうっとしていたところいきなり女の子に話しかけられた。

見たところ貴族のお嬢様だな。

10歳くらいかな。

ひらひらのドレスにツインテール。

いかにも高そうな服を着せられている。

かなりかわいい顔をしているな。

どこの子だろう?


「ええ、ルーデルハインは私です」


「やっぱり!私はベレンジェールよ。みんなはベルって呼ぶわ!」


「はあ、そうですか。よろしくお願いいたします」


その瞬間、周りの空気の温度が少し下がった気がした。

誰か魔法でも使ったのかな?


しかし、この子どこの子だろ?

親はいないのかな?


「ねえ、お城の壁を壊した時ってどんな気持ちだった?

 気持ちよかった?

 もっと壊したいって思わなかった?」


「いやー、やっちまったって思っただけでしたね。

 もっと壊したいとかそんなこと思う気にもなれませんでしたよ」


「なーんだつまんないの。

 あなたならもっともっと世界を壊せると思うんだけどなー」


なんですかこの子、怖い子ですな。

早く親御さん助けてプリーズ!


「ベル様。ご無沙汰しております。ジルベルトでございます」


「あ、ジルさん。ご機嫌よろしく。

 この子はあなたの孫なんですってね。

 その割に細くない?

 魔法に栄養でも取られてるの?」


「はっはっは。孫は娘に似ておりましてな。

 姫はこのジルめのようにがっちりした殿方がお好きなのですかな?」


「んー、どっちでもいいかな。

 私より先に死なない人がいいな。だから強くて健康な人がいい。

 先に死なれたら悲しいもん!」


「なるほど。それはそれは素晴らしいお考えでございます。

 こやつもこれから鍛えて強くしますので、楽しみにしていてください」


「どうでもいいわよ。

 ルーデルハイン。じゃ、またね!『バイバイ』」


「はあ、ではまた」


なんだったんだろう?不思議な子だったな。

最後に『バイバイ』て言わなかったか?

聞き違いかもしれないけど、日本語だったような気がしたぞ。


「お爺様、あの子は誰ですか? なんか嵐のような人でしたけど」


「あれはジークフリード様のご息女。ベレンジェール姫だ」


うげ、あの王太子の娘かよ。

俺、変なこと言わなかったよな。

覚えとこ。

危険な思想の持ち主だったし。



ベル姫が話しかけてきたのを切っ掛けに俺にも話しかけてくる人が出てきた。

特に各国の大使の方々。

俺のことを神の子だとかうちの国に来ませんかとか、言ってくる。

そのうちそっちにも行かされるから待ってて下さい。

俺はアルカイックスマイルの仏像のように覚えたての言葉を使って対応していく。


そのうち時間になったのだろう。

人々が帰りの支度をして解散しだした。


やっと終わったか。

始まりも終わりもなんだか曖昧とした感じで終わるんだな。

もっとセレモニー的なものかと思ってたよ。

ほんとに身内のパーティーって感じなんだな。


でもこれで俺は世間的には王族ではないが、王家にまつわるものの一人として国のために世界のために働くことを宣言したようなものらしい。


そう思うと急に寂しくなってきたな。

楽しいかどうかは別にして本当に平穏な日々では無くなってしまうんだな。

いつまで教会で先生に教えて貰うことができるんだろう?


まだ、誰にも何も返していない。

フルスエンデ家にも教会にも。王家はまあ別にいいか。

これから魔物を倒すことが俺の恩返しになっていくのだろうか?


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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