王城
12歳になりました。
どうもルーデルハインです。
俺の魔法の特訓はあれからも続いている。
最近は少しマシになってきたところだ。
相変わらず力を引き出す方は変わっていない。
出力の方が慣れたというところだ。
例えば以前作ってしまった氷壁だが、あれはただ力任せに作った。
それに対して今は密度を上げることを覚えたという感じだ。
その分、壊したり解凍したりするのにも時間はかかるが、見た目、大きさはそこまで異常では無くなった。
せいぜい普通の平屋建ての家くらいになった。
それでも十分大きいらしいが。
一応、ひと段落ついたという事で最近は特訓の時間も減ってきている。
その分、他の授業も始めることになった。
神職になるための勉強だ。
普通は教会に仕えるくらいの神職はいわゆる魔法使いのエリート。
それは魔法の力も重要だが、一般教養や教義についての知識についてもだ。
俺は特殊な事情で教会に縛られることが決定している。
実際、既に住み込んでいるしね。
フルスエンデ家の籍から抜かれたことは知っていたのだが、今俺は戸籍上教皇様の孫という事になっているらしい。
あくまで戸籍上だけだが。
教皇様は教会を束ねて王家や他の国やその教会ともやりとりをする。
以前、俺に他国からの引き渡し要請があった件もあり、そうしたらしい。
教皇様は優しいからそうされたのだと思う。狸だけど。
それしか方法が無かったのかもしれない。
王家から他国から別の教会から俺を守ろうとしてくれているのが嬉しかった。
でも、それで問題が出てきた。
教皇というのは元々王家から分離されてできた教会の主だ。
代々、王族に近いものが務めることが多い。
今の教皇様も前の前の王様の子供らしい。
教皇になった時、世俗の爵位は捨てたらしいが。
つまり俺は貴族籍に戻されたということだ。
貴族というのには特権がある。しかし義務もある。
国を守るという事だ。
おそらく俺の力を国のために使えという事も含まれているのだろう。
この力を使って魔物を退治するのは別にいい。
だけど、この力を使って俺は何をするために生まれ変わったのだろう。
この力は大きすぎる。国も危惧するほどに。
そんな力に吞まれないようにしなければいけないな。
俺の13歳の誕生日になる1週間前、先生と一緒に教皇様の部屋に呼ばれた。
何事だろうか。
もしかして先生の結婚の話だろうか?
俺の特訓がひと段落してから先生はロイスさんと付き合いだした。
まだ、たまにお出かけしてるくらいだが。
いや、さすがにまだ早いだろう・・・。
あれ?もしそうなったら俺はどうなるんだ?
先生の部屋の物置に住んでいる俺は追い出されるのか?
先生は外から通うことになるのか?
ということは、あの部屋は俺のもの?!
いやいや、仕事はどうなる?
俺の負担が激増?
それはまずい!阻止・・・なんかしたらロイスさんに殺されるぞ。
「ルーデルハイン。
その百面相はやめてくれ。気味が悪い」
「いやー、何の話かと思って。
いい予感と悪い予感が交互に来るもんですから」
「おそらくあまりいい話では無いと思うぞ。
二人で部屋に呼ばれるという事は、内密の話だという事だからな」
なんだ、そうなのか。
そういやそうだな、二人で部屋に呼ばれることなんかめったにないもんな。
結婚の話しだったら俺が呼ばれることはないだろうし。
そうこうしているうちに教皇様の執務室に着く。
「猊下、ジェキルとルーデルハインが参りました」
「おお、入ってくれ」
教皇様の声は少し暗い感じだった。
「ま、座ってくれ」
俺と先生は教皇様と向かい合うように応接ソファーに座る。
やっぱりちょっと教皇様は元気ないな。
何かあったのだろうか。
「ルーデルハイン。お主はもうすぐ13歳になるな」
「はい、あと7日ほどで13歳になります 」
「そうであったな。おめでとう」
「はい、ありがとうございます。
あの、それが何か?今回のお話と関係あるのでしょうか?」
「うむ、この国ではな13歳になった貴族の子供はお披露目されるのが通常なのじゃ。
それは知っておったか?」
「あ、いえ。15歳で大人になるというのは知っていましたが。
貴族のしきたりを覚える前にここに来たもので。存じませんでした」
「猊下、まさか。 彼を王城に?」
「そうなのじゃよ。
普通ならお披露目とはいっても身近な親類や縁のある貴族家だけの者なのじゃが。
こやつは一応、儂の孫という事になっておるでの。
とっくに王族籍など抜けておるから、安心しておったが。
まさか城でお披露目をせよと言われるとは思わなかったわい」
「今まで彼との接触を避けてきた王家がいったい急になぜ?」
「わからぬ。わからぬがおそらく最近のルーデルハインの行状。
特に魔法に関してじゃが。
御しやすくなったと感じた誰かが利用できると進言したのであろう」
「マリナ殿では?」
「それは考えにくい。
あやつはちとおかしなところはあるが、ルーデルハインの力を国に隠すように動いてくれておる」
「では、軍の方からという事もありますか。
軍務大臣も今の騎士団長も、昨今増えつつある魔物被害に手を焼いているようですから」
「おそらくそんなところだろう。
こやつのことを使い潰してもいい駒としか思っていないかもしれん」
「断ることはできないでしょうか? 彼はまだ修行中と言って」
「今回はただのお披露目じゃからな。
まだただのお披露目なのじゃ、断れば逆に隠し立てしていると言われかねん」
「あのー、お披露目だけであれば行っても魔法を使うことは無いのでは?
それに、もともといずれは魔物退治をすることで生かして貰ってると思ってたのですが?」
「王にお披露目するという事が重要なのじゃよ」
「城でのお披露目には他国の大使が来ることもある。
他国の教会関係者もな。
その意味が分らないわけでもないだろう
ただの一般人、もしくは普通の貴族が魔物退治をするのとはわけが違う」
「国外の魔物退治にも戦力として出されるかもしれないってことでしょうか?」
「そうだ、国の戦力として扱いますと宣言しているのも同じことだ。
もしかすると君はこれから教会からの要請と言う名目で、
世界中で魔物退治をすることになるかもしれんという事だ」
なるほど、他国からの支援要請はこれから軍ではなく俺に任せて、軍は国内の魔物退治に注力できるというわけだ。
ていよく追い出されるみたいなもんだな。
そりゃマリナさんも力を隠そうとしてくれてるわけだ。
「そうですか、でも行くしかないんですよね?」
「すまん。儂に力がないばかりに。
お主を養孫にしたときはこんなことになるとは思わなかった」
「いえ、教皇さまには助けてばかり頂いていますので、感謝しております。
もし他国に行くことになっても、全部やっつけてすぐに帰ってきますから!」
「ルーデルハイン。君も成長したのだな。
君はおそらくこれからの人生を魔物退治に費やすことになるかもしれん。
少しでも君の助けになるようにできる限り私も協力しよう」
「ありがとうございます」
「では、さっそく他国の言葉の練習からだな。
幸い私は各国の言葉にも精通している。魔法の訓練よりも教えるのも楽そうだ。
しっかり学ぼうではないか」
「え、あれ?そういうことになるんですか?
まだそうなるまで時間がありますよね?
まだいいんじゃないですか?」
「何を言っているんだ。
言葉は奥が深い、すぐに始めなければ間に合わないかもしれないではないか!」
「たのんだぞ、ジェキルよ」
「は、お任せください」
いや、勘弁して下さい。無茶振りじゃないですかこれって。
それからは魔法の修行のあとは言語の修行に費やすことになるのであった。
それから1か月ほどたった日。
王城でのお披露目の日がとうとうやってきた。
お披露目にはいつもよりかなり多めの国の大使たちもやってくるらしい。
俺は珍獣か何かか?
珍獣で間違いないな。
ここ一か月は各国の言語学習に費やした。
大使と話すこともあるかもしれないので、詰め込みまくった。
この体の脳みそが優秀で助かったぜ。
昔の俺だったら裸で逃げ出してるな。靴は履くけど。
幸い他国の言語と言ってもミルデランの言葉に近くて、習得はそう難しくはなかった。
ヨーロッパの言葉の違いみたいな感じで、文法的には近かったからだ。
単語や言い回しを覚えるのが大変だったが。
大きな山や海で隔てられているのに、そんなに大きな差が出なかったのには何か意味があるのだろうか?
交流もそこまで頻繁ではないみたいだし。
一つ疑問ができたな。
さて、王城には俺のお爺様として教皇様と一緒に馬車に乗ってやってきた。
懐かしいな、この壁。
いや、壊した時も近くで見たわけではないんだけど。
なんか親近感を覚えてしまう。
君がもっと強かったらこんなことにはならなかったんだぞ!
と訳のわからないことを呟いていたら馬車が止まり、扉が開かれた。
「教皇猊下、よくぞおいでくださいました」
「うむ、出迎えご苦労である。
勝手知ったる昔の我が家ではあるが、案内をお願いしてよいかな」
「はっ!ご案内させて頂きます」
そっか、教皇様は昔ここに住んでいたんだっけ?
前の前の王様の息子なんだから当たり前だな。
「おお、そうじゃ。こやつが今日お披露目の主役のルーデルハインだ。
よろしく頼むぞ」
「おお、この方がジルベルト様の。
いや、失礼いたしました。今は猊下のお孫様でございましたね。
失言お詫びいたします」
「よいよい、ジルベルトの孫であるのも間違いではないのじゃ。
そういやそのジルベルトは今日は来ておるのか?」
「はっ。本日は警備の任でこちらに来られております。
騎士団長にねじ込んでおりましたので・・・」
「ほっほっほ。そうじゃろう久しぶりの孫じゃ。
あとで部屋に呼んでくれんか。こっそりとな」
「はっ。ありがとうございます。ジルベルト様もお喜びでしょう」
お爺様とお婆様はあの事件以降会っていない。
手紙のやり取りは月に一度くらいはしているが、それも検閲が入るので形式的なものばかりになってしまう。
元気にしているといいな。
警備の騎士数名に案内されて控えの部屋で待つことになった。
お披露目の前に、王族の人に挨拶するんだそうだ。
うう、緊張してきた。
「猊下、ジルベルト様が参られました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
先にお爺様がきたみたいだ。
さっき着いたばかりだからよっぽど急いで来たんだろうな。
「おお、入ってくれ。待っておったぞ」
教皇様が返事をするやいなや懐かしい顔が飛び込んできた。
「ルーデルハイン!会いたかったぞ!!
爺じゃお前の爺じゃぞ。元気であったかー!?」
「いてて、痛いですお爺様。
教皇様もおられるのですよ。
それにもう13歳になりました。高い高いはやめてください」
「おお、すまんすまんそうじゃった。
猊下、失礼いたしました。
本日はお披露目おめでとうございまする」
「相変わらずじゃなジルベルト。
それに何がめでたいじゃ。本来ならお前がここにいるのじゃろうが。
儂にこんな役を押し付け寄って」
「はっ。そうであればよかったのですが・・。
猊下、あらためてルーデルハインのことありがとうございます。
そして、当家が取り潰されることなくあるのも猊下の恩情のおかげでございます」
「儂は子供が死ぬのが嫌だっただけじゃ。
別にお前に感謝されんでもええ。神に仕える身としては当たり前じゃ」
「それでもでございます。私は猊下に一生の恩義を感じております」
「そうか、ではそのうちにでも返してもらおうかの」
「はっ」
お爺様は昔と変わらないな、6年ぶりだが昔に戻ったみたいだ。
「ルーデルハイン。大きくなったな。見違えたぞ」
「お爺様、その節は大変申し訳ございませんでした」
「よい、そのことは何度も文で見させてもらった。
もう毎回書いてくるな、アデリナも見飽きたと言っているぞ」
「はあ、でもお会いして言うのは初めてでしたので。
お婆様はお元気ですか?
あとランドや屋敷の者は?」
「アデリナは変わらず元気でやっているぞ。
あとランドだが、あやつは今度結婚するそうだ。どうだ驚いたか!」
「ええ、あのランドがですか?
相手は誰なんですか?そんなもの好き、いや奇特な人は?!」
「もの好きも奇特もあんまり変わらんと思うが。
ほれ、あのスーリじゃ。
あいつめ若い嫁さん貰ってはしゃいでおるわい」
おおーやったなランドさん。
そうか、スーリさんか。
なかなか感慨深いものがあるな。
「早く子供を作ってお前に仕えさせるんだと、二人で今から息まいておるわい」
いつになるんですかね。それって。
まぁ気長に待つことにしましょうか
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