夏の一日②
「で、今度は何をやらかしたんだ?」
「いや、やらかしたって言い方はどうかと思いますよ。
ほら、若さの発露とか元気が溢れ出したとか、言い方があるじゃないですか」
「なにをやらかしたと聞いているんだよ私は」
このちょっとだけおかんむりの人はロイスさん。
騎士団からやってきた人で、神職でもある。
教会と騎士団の間の連絡役みたいなことをしている人だ。
独身、28才。美人で仕事もできる。
俺がなんかやらかすといつも決まってこの人が来る。
すぐに来る。
教会の前にいたんじゃないかってくらいすぐにくる。
そしていつもこんな調子で俺のことをいじめるのだ。
「いやー、ちょっと氷の壁をね。 みんな涼しくなって喜んでましたよ」
「君はバカなのかバカヤロウなのか?
あんな王都の端からでも見えるような氷の壁を作る奴がどこにいる?
城より大きかったぞ、また捕まりたいのか君は?」
ま、たしかに今回のは大きすぎたかな?
「ロイスよ、まあよいではないか。
街の者も喜んでいると思うぞ。 ほれ、いつもの新しい神の奇跡だと」
「教皇様!貴方まで何を仰っているのですか。
彼は王城より大きなものをいとも簡単に作り出したんですよ。
城では教会が王の権威を落とす為にやらせているのだと噂するものもおります」
「言いたいものには言わしておけばいいではないか」
「そういう訳にはいきません!
私は王よりこの者の目付を言い渡されております。
なにより教会と王家との溝をこれ以上深めるような事態は避けないと!」
そこに先生がいたたまれなくなったのか頭を下げて話しかけてきた。
「ロイス殿、申し訳ありません。
私の指導がいたらないばかりに・・・」
「そそそ、そんなことはありません。ジェキル殿!
すべてはこのバカルーデルハインが悪いのです!
あなたの指導は間違っておりません。そんなジェキル殿の指導を受けて、うらやま。
いえ、素晴らしい環境でなぜこうなのでしょうか!」
あー、もう。
またロイスさんが甘ったるい空気を出してる。
誰が見てもロイスさんが先生が好きなのは丸わかりなのに、早くくっついちゃえよ。
どうせ、ここに飛んでくるのも俺じゃなくて先生目当てなんだろ。
教皇様もわかってるから二人の孫を見守るおじいちゃんモードになってるし。
大司教様たちは生暖かい目で見てる。
肝心の先生は研究と仕事バカのハイブリッドだから、どこかの鈍感系主人公みたいにロイスさんの気持ちには気付いていない。と思う。
そういや教会に入ったら結婚ってできないのかな?
教皇様も大司教の二人も独身だし、もしかしてそんなルールでもあるのかな?
聞いていいのかな?
何も知らない子供のふりをして聞いてみるか?
いや、判断を間違うとあとでロイスさんから恨みを買うかもしれん。
うーむ。
「どうじゃ、二人は歳も近いし似合いじゃと思うのだが。
お互いに相手がいないのであれば考えてみんか?
式は儂が直々に祝詞をしてもいいぞ。めったにないいい話じゃろ?」
「ななな、何をおっしゃっているのですが猊下。
わたわたわたしのことはいいとしてジェキル殿に失礼ではありませんか!」
おお、見事なきょどり具合じゃないか。ロイスさん。
そっか結婚はしていいのか。
「猊下、大変ありがたい話なのですが。
いきなりの話でロイス殿が困っております。
ましてやこんな何のとりえもない男など、彼女にはもったいのうございます」
「いえいえいえいえいえいえ。
もったいないのは私の方でして。いや、なんというかその。
ルーデルハイン!なんとかしろ!」
なんということでしょう。
無茶ぶりすぎる!
ここで俺ですか?
ニヤニヤ見てたのが、ロイスさんの目に留まったかこれは。
難しい判断の時はとりあえず話をそらしますか。
「神職の人って結婚って大丈夫なんですか?」
「ん?それはどういう意味じゃ?」
「あー、ちょっと記憶と言うか聞いたような話なんですけど。
神に仕える方々は神に身を捧げているので、結婚しないかと思っておりまして」
「おお、そうか。そなたは異国のことも詳しかったのう」
教皇様は俺の記憶の事と気付いて、ロイスさんに分らないように話を合わせてくれるようだ。
「そうじゃのう、お主が聞いた異国の神職の様な考えもする者もおる。
ほれ、マリナなどはそんな感じじゃ」
「はい。私は神に全てを捧げておりますので結婚はしません!
ですが、神の使徒と呼ばれるような方がいらっしゃるのなら、そんな考えも・・・」
おおう、やばいやばい。
虎の尾を踏んでるではないですか。
「そうなんですね!そういう考え方も素晴らしいと思っています!
ということはこの国、アピト神の教えでは神職の結婚は問題ないんですね!」
「そういうことじゃ。アピト様は豊穣と愛の神でもあるからのう。
むしろ大いに祝福してくれるのではないかのう」
「だそうですよ、先生。
よいお話だと思います、私は前向きに考えてみてもいいではないでしょうか?」
ロイスさんが先生に見えないように俺にグッジョブサインを出す。
そのサインこっちでもあるのかよ。
たしか前の世界の中東では侮辱になるんだっけ?どっちだこれは?
まあ、援護射撃はした。あとは頑張ってくださいね。
「何を言っているんだ君は。
君の指導はまだ始まったばかりだろう。
私のことはいいからまずは君が一人前になるべきだとは思わないのかね。
君の指導が終わるまでそういったことは考えられないな」
おおう、今度はロイスさんが殺すサインを出してきたぞ。
情緒不安定な人だな。
これは俺の身の安全のためにも早く魔法を人並みに使える様にならないと。
でも断られてはいないですよロイスさん。
俺の修行が終われば晴れて結婚できるかもしれないじゃないですか。
だからそんな鬼のような形相で俺を見るのはやめて下さい。
しかし詠唱か、どうしようかな。
最初は詠唱の最後の方で一瞬だけ力を引き出したらいいやと軽く考えていたが、なかなかそれが難しい。
詠唱しだすと自然と意識が力の方に寄っていっちゃって力を抜き出しちゃうんだよな。
一旦抜き出すと、しまうこともできないし。
うーん、困った。
その日はなんとかうやむやに終わりました。
ロイスさんは最後まで俺に圧をかけていたけど。
俺と先生は部屋に戻って今日の反省会をしながら今日の仕事を片付けていく。
一部は他の人がやってはくれているのだけど、長年やってきた先生じゃないと分らないものや判断に困るものも有るらしく。
こうやって仕事は続けているのだ。
「ルーデルハイン。
詠唱中に力を引き出さないようにするのはやはり難しいかね?」
「そうですね。難しいです。
たぶん普通の人は、この詠唱だとこれくらいの力。
というのが決まっているんじゃないですかね。
俺はそれがないから詠唱しちゃうと、無尽蔵に取り出しちゃう。
なので、詠唱を続ける限り無理かもしれません」
「そうか、無詠唱なら瞬間的なので逆に調整ができるという訳か。
ままならんなこれは。何か良い方法を考えないとな。
だが無詠唱は今のところ君しかできんし、どうするべきか」
「逆に先生が無詠唱を試してみませんか?」
「私がか?できるわけがないだろう。
魔法とは神の力を借りているとしか考えられていなかったものにそれは無理だ。
ましてや私は教会に入っている身だぞ。
今更、信仰も常識も捨てられん」
「そうですか。言い案だと思ったんですが」
結局は慣れしかないのか。
ごめんよロイスさん。まだ貴方の結婚は当分先みたいです・・・。
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