ヤゾキア
翌朝、寝不足の目をこすりながら朝食を取っていたらダーレスさんが声をかけてきた。
「ほら、早く食べちまえ。今日はすぐに出るってさっき話しただろ」
いや、寝不足で食欲もないんですが。ルクスさんも食べながら舟をこいでるし。
「普通こういうときって交代で寝るとかするもんじゃないんですか?」
「大丈夫だっただろ。そういう気配があったら気付くさみんな。
寝れる時に寝とくのも一人前の戦士の条件だ」
「はあ、そういうもんですか」
でも、あのいびきは何とかならないものか。
よく宿から苦情が出ないもんだと思う。
防音の設備が整っているのも宿選びの基準なのかな?
まあ、いろいろあったネーアとも今日でお別れだ。
昨日のルシールさんとの話もあって、ダーレスさんは今朝の出発を決めた。
昨日の今日で相手も傷を負っているし、協力者がいたとしてもすぐには集められないだろうという事ですぐに動くことにしたそうだ。
俺たちは寝耳に水だったので、慌てて朝食をとっているというわけだ。
それからしばらくして全員の食事が終わり部屋に戻って出発の準備を始める。
昨日着いたところだったから俺は特に片付けるものなんてない。
ルクスさんに先にロビーで待っていることを伝え、一人先に向かった。
ロビーに着くとルナが既に用意を終えて待っていた。
出発が早まった理由のひとつにルナのこともある。
俺が狙われたという事は一緒に戦ったルナも標的の対象になっているという事だ。
冒険者として活動しているから当然危険なことはある。
しかし、狙われるということは意味が違ってくる。
ましてや相手はダミールだ。魔物を相手取るのとはわけが違う。
いくら強いと言ってもルナは貴族家のお嬢様だ。
自分が挑んだ魔物にやられたというのならまだしも。
刺客にやられたとなると、貴族家の名誉をもって相手をしなければならない。
重みが違うのだ。
ルナはそんな事を気にしているのか、少し浮かない顔をしていた。
「ルナ。そんな顔しているなんてらしくないな。
それとも家に帰るのが嫌なのかい?お爺様が怖いとか?」
「もう!そんなんじゃないわよ。
私のせいで急いで帰らせることになって申し訳ないなって思ってね」
「元々帰るところだったんだし、大したことないよ。
ちょっと3日ほど早くなるだけだ」
「うん、そうだよね。分かっているんだけどね。
自分はまだまだ守られる存在なんだなと思っちゃって。
この1年ほど冒険者として暮らしてみて、強くなれたのかなって思って」
「まだ1年だろ。
俺なんてまだ半年も経っていない。ひよっこもいいとこさ。
ルナは十分強いから気にしなくてもいいと思うよ」
「ありがと。
それと、ハイデルンの時、守ってくれたのにお礼言ってなかったわね」
「ありがとうファースト。
私はあなたに命を救われました。
この恩は必ず忘れません。ルナ・トーセンの名にかけて・・・」
「そんな大層な。一緒に戦ったんだからそういう事もあるだろう。
そら、他のパーティーメンバーとか冒険者ならよくあることじゃないの?」
「いいのよ、これはあたしのけじめなんだから。
はい、これでこの話はおしまい。 ほら、みんな来たわ」
たぶんみんな聞いていたのかもしれないが、なにも無かったかのようにロビーに集まって出発の準備をする。
みんないい人たちだな。信頼関係があるっていいな。
さあ、ここからトーセンまではあと少しだ。
最初の頃のように足手まといにならないようにするぞ。
と、当然歩きだと思っていた俺は玄関にあるトーセン家の紋章が入った馬車を見てずっこけた。
どうやらルシールさんが裏籠目の伝手を使って馬車をお願いしていたらしい。
馬車はハイデルンから乗ってきたものよりも当然豪華で乗り心地もよさそうだ。
金持ちすげえな。
当たり前かルナからしたらこれが普通で、歩きで帰るのはあくまで修行だったんだからな。
「ほら、ファースト。何グズグズしてるの! 早く乗りなさい。置いていっちゃうわよ」
あっという間に途中のヤゾキアの街に着く。
いや、2日ほどはかかったんだけどね。
でもこれまでと比べて快適すぎて、早く感じたんだよ。
お尻も痛くないし。
ヤゾキアでは1泊だけして明日の朝には出る。
トーセンの紋章を付けた馬車で乗り込んだのだから、当然領主の家に招待される。
ヤゾキアは独立した領地だがトーセンに接していて、つながりも深い。
こちらの事情もある程度伝わっているらしく、あまり無茶な歓待は無かった。
夕食を一緒にとるくらいである。
「お久しぶりですルナ殿。ダーレス殿もご壮健でなにより」
「おじ様、ご無沙汰しておりました。
急に立ち寄らせて頂いて申し訳ありません」
「いや、ルナ殿のお父上からもよろしくと手紙を頂いておりましたので。
しかし、お美しくなられましたな。
母上によく似てらっしゃるようになりました」
「ありがとうございます。
父にもお世話になったとよく伝えておきます」
こんな感じで、特に深い話も聞かれることもなく夕食会は終わった。
これまで街に入るたびになにかしら事件が起きていたので、警戒していたが今回は特に何も起こらずに出発の時間となった。
再び馬車に乗りトーセンへと動き出す。
あとほんの少しか。
かなり遠かったし、事件もいっぱいあった。
皆のいろんな面も見れたし新しくルシールさんとも知り合えた。
やっぱり冒険はいいな。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと短くて申し訳ありません。
書いていたワードをミスで消してしまいました。
また少しずつ思い出しながら書き溜めていこうと思います。
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