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ルシールの事情

 彼女の名前はルシールさん。

ダミールさんのパーティーメンバーで神職をしている人だ。

ベテランの女性冒険者で、若くはないがおばさんと言うほどの歳でもない。


女性が一人で別の宿の男性を訪ねてくるなんてなんだろう?


ルクスさんがイケメンだから、好きになっちゃいました的な感じかな?

それとも昔ルクスさんが関係を持っちゃって、ルクスさんが忘れてるから怒ってきたとか?


そんな訳ないと言えないところがルクスさんなんだが。

当のルクスさんも、知っている人かなって感じで思い出そうとしているみたいだし。



「あの、私もトーセンまで連れて行ってもらえませんか?」


違った。よかった。

ルクスさんの昔のお痛の被害者じゃなかったみたい。


ルクスさんは安心したような顔を一瞬したが、すぐに真剣な表情に戻る。


「私ってことは君たち4人ではなく1人ってことですか?

 それに、普通そんな話はリーダーにするべきじゃないでしょうか?」


 トーセンまではあなた達の目的地からならあと少しでしょう?

 馬車に乗れば比較的安全にトーセンまで行けると思います。


 それと、なぜ1人なのでしょうか?」

 

ルクスさんの口調が衛士隊のものになっている。


「はい、ネーアが私たちの目的地です。

 ですが、そこで我々のパーティーは解散する予定なんです。

 ダミールはネーアが地元でして、そこで冒険者をやめて実家に帰るそうです。


 ネーアに着いてからだと馬車の予定がわからないので、

 そこで足止めをされるかもしれないと思いました。

 あと、先ほどダーレスさんの部屋の前まで行ったんですが、いびきが聞こえたので・・」


なるほどね。寝ている人を起こすのは気が引けたってことか。

あの二人もう寝てるの?早すぎない?


「あの二人はいびきがすごいですからね。

 一緒の部屋になった時は『早く寝た方が勝ちだ』とか言って、宴会のないときはとても早いんです」


「そうなんですね。

 いくらなんでも早いとは思ったんですが、起こしたら申し訳ないと思いまして。


 私はトーセンの出身で、両親からそろそろ帰って来いと言われておりまして。


 両親は元気なんですが、兄の家族に問題があるようで急ぎで帰らなくてはいけなくなってしまいました。


 そちらには神職の方はいらっしゃらないようでしたので、それならばと。

 そちらは女性の方もいらっしゃったので安心かと思いまして」


「わかりました。明日私の方からダーレスに言っておきましょう。

 そちらのパーティーの方にはお話しはしているんですか?」


「トーセンまで戻ることは言っております。

 あなた方に同行させてもらいたいという事は、まだ何も言っておりません

 断られるかもしれませんでしたので」


「では、そちらの方はお願いいたします。

 いきなりネーアでこちらに合流すると、不審に思われるかもしれませんので。

 あと、あくまでうちのパーティーのリーダーはダーレスですので、

 彼が無理だと言ったら諦めてください。」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


そうだよな女性の一人旅になるもんな。

旅慣れた人かもしれないが一人旅はやっぱり不安だ。

トーセンまでの短い間だけど、一緒に行った方がいいよね。


そうしてルシールさんは帰って行った。




「どう思います?ファースト君」


「え、どうって?いいんじゃないですか?女性の一人旅はやっぱり危ないですよ」


「そうだね。でもよく考えてみてくれ。

 彼女はなぜ俺たちの部屋を知っていたんだ?それも正確に。

 ハイデルンで商人の護衛の仕事でついてきたようだけど、あのタイミングで都合よく地元に帰るといった募集があるかな?」


「どうなんでしょう。

 そう言われれば怪しい感じがしますが。

 ここは宿屋の数は少ないですし、宿の人にでも聞いたんじゃないでしょうか?」


「それはないだろうね。

 ここの宿は客の情報をおいそれと出すような所ではないと思うんだが」


「聞いてきましょうか?」


「いや、やめておこう。

 他にも仲間がいて見張られているんだったら、警戒を強めさせてしまうかもしれない」


ルクスさんは考え込んでしまった。でも答えが出るはずもない。


「明日、皆に相談しましょうか。

 お嬢の部屋にはキキョウがいるから何かあってもすぐに対処できるはずだし。

 今は刺激せずに警戒だけしておくべきでしょうね。

 何もなければそれでいいんですから」




翌朝、朝食をみんなでとる。

昨日は何もなかったようで安心した。


「ちょっと相談したいことがあるんだ。俺たちの部屋に来てくれないだろうか?」


食事のあと全員が俺たちの部屋に集まる。

二人用の部屋だから六人も入ると狭く感じるな。


ルクスさんは昨日のルシールさんの話をみんなにしていた。

あと自分の不審に思った点なども付け加えていた。


「微妙なところだな。

 怪しいと言われれば確かに怪しいが、決定的なものはない。

 本当に困っている女性だとしたら助けてやりたいとは思う。だがな」


「いいじゃない。一緒に行けば。

 この街には宿は少ないし、冒険者が泊まるような宿はここともう一つくらいよ。

 昨日は街に来た人も少なかったから、簡単にわかるんじゃない?


 それにあの4人だったら何かあったとしても対処できるでしょ。

 そんなに腕のいい人達には見えなかったわよ」


たしかCランクと言ってたっけ?

ルナの言う通りあの4人ならこちらの方が人数多いし、大丈夫だと思う。


「キキョウはどうだ?何か怪しいところはなかったか?」


「今のところない。

 ただ、あの神職の女は最近パーティーに入ったばかりだと思う。

 他のメンバーと連携してなかったから。

 でも、神職はあんなものかもしれない」


「ふむ、決め手にはならんか。

 お嬢の言う通りあの4人だったら何かあっても対処できるだろう。

 実力を隠していないんだったらな」


「で、どうすんですか隊長。

 俺としては何かあったら捕まえて尋問してもいいと思いますが」


「そうだな。このまま断ってしまうのも寝覚めが悪い。

 怪しいところがないかみんなで警戒しつつトーセンまで行くことにするか。

 キキョウ。女性ということで俺たちが入りずらい場面や会話もあるだろうから、

 特に注意しておいてくれ」


「了解」


その日一日は、特に何事もなく過ぎ出発の日の朝を迎えた。



バスィアの街を出発する。

次の目的地のネーアまでは順調に行って四日といったところだそうだ。


道中ダーレスさんはルシールさんの件を、ダミールさんに確認していた。

ダミールさんもルシールさんから聞いていたようで、急なことで申し訳ないとお願いされていた。


「ルクスさんありがとうございます。

 おかげで一緒にトーセンまで行かせて頂けることになりました」


「いや、感謝はダーレスに言ってください。

 同行を許可したのは彼ですから」


「はい、もちろんあの方にも感謝しております。

 ですがお話して下さったのはルクスさんですから」


「ルシールさんの村はトーセンの領都からはどれくらいなんですか?」


「そうですね。歩いて三日くらいのところになります。

 ルジネ村と言うんですけどご存じですか?」


「北の方の村ですね。あそこは海も近いし西の山岳地帯にも近い。

 一度行ったことがあります」


「まあ、そうなんですの?そこが私の生まれ故郷になります。

 コジロウ様が魔物を討伐してくださって広がったところなんですよ」


「そうなんですね。ご実家は何をされているんですか?」


「甜菜の栽培をしておりました。

 もちろん他の作物も作っておりましたよ。


 私はたまたま魔法の才が発現しましたので、家を出ることができましたが。

 教会で役職を得るほどの魔力もなく。

 しばらくは各地の教会の仕事を手伝っておりましたが、いつの間にか冒険者として過ごすことになっていました。

 よくある話です」


「そうだったんですね。私も似たようなものですよ。

 特に何か秀でたものがあるわけでもなかったのでこうして冒険者として気ままに暮らしています」



特にルクスさんとの会話にも怪しいところは無いみたい。

やっぱり気のせいだったのかな?


ネーアの街まではこれまでと違い何度も魔物と遭遇した。

ゴブリン、狼、中にはオーガと呼ばれるものにも遭遇した。


「いやあ、あんたらがいてくれてよかったよ。

 俺たち商隊だけじゃ引き返していたところだった」


「オーガが出たのにはびっくりしましたね。俺も初めて見ましたよ。

 ここはこんなに魔物が多いところなんですか?」


「いや、こんなに多いのは初めてだな。

 しかし、あんちゃんも若いのにいい動きしてたじゃねえか。

 まだ15だってのにもうEランクだって。一人前じゃねえか。

 また一緒になることがあったらよろしくな!」


商隊の方たちはここが目的地だったので、別れることになった。


ダミールさん達ともここでお別れになる。


「聞いてると思いますが、俺達はここで解散するんですよ。

 あんたらみたいな強い人達と最後に旅ができて楽しかったぜ。


 お前らもここまで着いてきてくれてありがとうな。

 ルシールはここからダーレスさんたちとトーセンか。気を付けてな」


ダミールさんたちはあっさりしたものでここで別れるらしい。

仲間内での別れの挨拶は昨日のうちに済ませているそうだ。




さて、トーセンまではあとここから10日ってとこらしいからもう少しだな。


「ここで乗り継ぎの馬車を待つことにしよう。

 次の便は2日後らしいからそれまで自由行動にするか」


「よっしゃ。ルシールさんどこへ行きます?」


あら、すっかり仲良くなっちゃって。

大丈夫かな?

こうしてネーアの街での休息が始まりました。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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